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いつのまにか、懐かれました。懐かれた以上は、私が守ります。  作者: 水無月 あん


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16話 あらためて

今日、4回目の更新です。

号泣するルドの顔は、涙でグショグショだ。


ふいてあげようにも、手元には、私が訓練後にルドから手渡された、ふかふかタオルしかない。

いくらなんでも、私が使ってるし…。


あ、そうだ! 


訓練していた場所においたままの私の赤いバッグには、使っていないハンカチが入っていたはず(こちらも、ルドが用意…)。

すぐそこだから、とってこよう! …と思ったけれど、ルドが、私の服をがっしりとにぎったまま離さない。


仕方ない。


私はタオルの真ん中で顔をふいたし、端っこなら大丈夫だよね…? 

大丈夫なはず…。私なら大丈夫…。 


という、私基準で、タオルの端っこを使って、ゴシゴシとルドの顔をふいていく。


「ごめんねー、ルド。私が使ったタオルで…。でも、端っこに私の汗はついてないから、安心してね?! それに、さすが、シュバイツ商会のすいとり抜群のタオル。端っこでも、ルドの涙をぐんぐんすい取っていくよ。すごいね!」

そう言いながら、ルドの涙をぬぐっていく私。


「マチルダ様の使ったタオルなら、喜んで…」

と、ルドが号泣しながら言った。


「ルド、あのね…。そんなに気を使わなくていいよ? 『汚い!くさい!絶対やめて!』とか言われたら、ちょっとグサッとくるけれど、まあ気持ちはわかる。でも、使用済みタオルを、『喜んで』は、おかしいからね?」


「マチルダ様が使ったタオルなら、全く汚くなんてないです…。むしろ、喜んで…」

泣きながらも、そこだけは頑固に言い募るルド。


その時、私たちのやりとりを見ていたロイスが、クッと小さく笑った。

はりつめていた表情が少しゆるんでいる。


「ルド、良かったな…。いい人の従者になって…。それに、俺のために、そんなに泣いてくれてありがとな。離れていても俺のことを思ってくれる人がいたと思うと、救われた気がする。それにな、お嬢…」


「え、私?」


「あの日、お嬢と勝負しただろ? お嬢にとって、俺はまったく相手にならなかった」


「まあ、そうね。はっきり言って、弱かった」


「俺は、路上の時も孤児院時代も、よくふっかけられて、ケンカをした。俺は体も大きいし、力も強いから、負けなかった。だから腕には自信があった。なのに、体の小さいお嬢とは、まるで勝負にならなかった。首に剣を突きつけられた時、なんか、色々ふっきれた気がした。…ぐちゃぐちゃ考えていたことが、どうでもよくなるほど、お嬢の動きに心をもっていかれたんだ…」


「え、そうなの? それは、ありがとう!」

思わずお礼を言う私。だって、動きをほめられるなんて、すごい嬉しい。


「同時に、俺は思い出した。小さい頃、ルドに、『ロイスは強くて騎士みたい』って言われたことを…」


「え、そうなの?」

私がルドに向かって聞くと、ルドは泣きながら、うなずいた。


「…ロイスは…ぼくを、いつもかばってくれたから…。やさしくて、かっこよくて、強くて…。お話にでてくる騎士みたいだって、思ってましたから…」


「ああ、ルドは何度もそう言ってくれた…。今、俺は本物の騎士にはなれなくても、お嬢みたいに強くなりたい。人を助けられるような人になりたい。何かになりたいと願ったのは、この町を離れてからは一度もなかった。でも、俺は生まれ変わりたい。また、ルドと一緒にいられるような人間になりたい、そう思ったんだ。だから、何度も通って、子爵様に頼み込んだ。お嬢に借りを返すというのは口実で、お嬢のそばで、お嬢の動きを学びながら、お嬢のように強くなりたい、そう思ったから…。ルドにあんなひどいことを言ったのに、厚かましい願いだと思う。だけど、どうか、ここで護衛として働くことを許してほしい…。もし、ルドが嫌なら、できるだけ、近づかないようにするから…」


そう言って、ロイスが、ルドにまた頭をさげた。


ルドは、そんなロイスをじーっと見たあと、席をたち、頭をさげるロイスの前にたった。

そして、手をとった。


「ロイス…。ぼくは頼りにならないかもしれないけれど、何かあったら、話してほしい…。ロイスは、小さい頃、ぼくの不安な気持ちを沢山聞いてくれたよね。今度はぼくが、なんでも聞くから…」

ルドの言葉に、はじかれたように顔をあげたロイス。


「ルド…。ありがとう…」

ロイスの目から涙が零れ落ちた。


「ロイス。色がかわったね…。もう怖くない」


「え…、ルドは今も人の色が見えるのか…?」

ロイスは涙を手でふきながら、ちょっと心配そうな声で聞いた。


ルドがうなずく。


「あのね、ロイス。この前まで、ロイスのまとう色は暗い灰色だった…。でも、今のロイスは、灰色に明るいオレンジ色がまじりはじめてる」


「…そうか」


「だから、もう大丈夫だよ…。ロイス、苦しい時に一緒にいてあげられなくて、ごめん。…でも、これからは、友達として、ずっとそばにいたい…」

ルドは服の上から、胸のあたりの何かをにぎって、ふりしぼるように言った。


あ、もしかして、私があげたあの魔石を握ってるのかな…?


「ルド…。本当にありがとう…。こちらこそ、あらためて、よろしくな…」

ロイスは涙をうかべて、微笑んだ。


ルドのように色が見えなくてもわかる。

今のロイスは、きっと、うれしい色をまとってるんだろうね…。



読んでくださった方、ありがとうございます!

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