14話 あの時の
本日、2回目の更新となります。
お父様の声に、みんなが一斉に注目する。
すると、隣にいたルドが、「えっ…?」と、驚いたような声をあげた。
「どうかしたの、ルド?」
見ると、ルドは目を見開き、お父様のほうを一心に見ている。
視線の先を追う。
あれ? お父様の後ろにだれかいる。
背の高い男性…、いや、若そうだから少年かな…って、えええ!
「あの時の…?!」
思わず、大声をあげてしまった私。
だって、お父様の後ろにいる背の高い少年は、あの時の少年よね…。
そう、ルドの幼馴染の、あの少年だ…。
お父様が、後ろにいた少年を前に押し出した。
「今日から、我が家で護衛として働くことになったロイス・ブリューノだ。うちの屋敷で住み込みになるから、よろしく頼む」
「「「はいっ!」」」
アール兄様をはじめ、護衛の皆が一斉に返事をした。
茫然としたままのルド。
え、うちの護衛? 一体、どうして、ロイスを雇うことになったんだろう…?
「じゃあ、ロイス。みんなに挨拶をしなさい」
と、お父様が声をかけた。
ロイスが、緊張した面持ちでうなずく。
ロイスが私たちのほうを向いた。そして、視線はルドを捕らえた。
2人の目が合う。
動揺したのか、ルドの目がうるんでいる。
いまにも涙がこぼれそうになって、ルドはそれを隠すように、うつむいた。
それを見たロイスの顔が、一瞬、泣きそうにゆがんだ。
鋭く、大人びた顔立ちなのに、小さな子どものよう…。
でも、すぐに鋭い目つきに戻って、低い声で言った。
「俺はロイス・ブリューノ、16歳です。そこの…お嬢に勝負で負けました。俺が負けたら、なんでも言うことを聞くと約束したが、お嬢からは何も要求されていない。だから、お嬢の護衛として働くことで、借りを返しにきました」
そう言って、鋭い眼差しを私に向けた。
えっ?! お嬢…?! それって、もしや、私のこと?!
「いや、いや、別に返してもらわなくても…。っていうか、借りでもないし…。しかも、はっきり言って、ずーっと私のほうが強かったよね! なのに、私の護衛? できるのっ?!」
と、全くぼやかすことなく、心の声がとびでてしまった私。
「そう言ってやるな、マチルダ。ロイスはな、おまえに手も足もでず負けたことで、目がさめた気がしたそうだ。どんな厳しい訓練も耐えるから、護衛として雇って欲しいと必死に頼み込んできた。俺はその熱意にうたれた!」
お父様が熱く語る。
そう、お父様は頼られると弱い。困っている人を放っておけない。
だから、うちの屋敷で働く人たちのなかには、お父様が声をかけ、連れ帰って来た人たちが結構いる。
そして、その気質はアール兄様も私もおおいにひきついでいるんだよね…。
「それにな、マチルダ。うかうかしていると、そうだな…1年。それくらいあれば、マチルダが負ける可能性もある。簡単にテストをしてみたが、身体能力はかなり高い。センスもある。めぐまれた体格だ。ちゃんと訓練すれば、大化けするかもな」
そう言いながら、嬉しそうにロイスを見た。
副騎士団長の血が騒ぐのか、有能な人材を見つけると、育てたくてたまらなくなるお父様。
「それと、ルド!」
「…は、はい…」
突然呼ばれて、驚いたように返事をするルド。
お父様は、怖がらせないようにルドに気をつかったのか、やたらとにこにこしながら話を続ける。
「ロイスはルドと幼馴染だそうだな。先日のことはロイスから聞いた。ロイスがルドと話しがしたいそうだ。これからは、同じ職場で働くことになるからな。しっかり話し合うように。マチルダ、立ち会ってやれ」
お父様の言葉に、ルドが私のジャケットのすそを、ぎゅっとにぎりしめたのがわかった。
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