11話 安心できる場所
よろしくお願いします!
その後、ルドと走って帰ったのだけれど、家にたどり着くまで、いつもの何倍もの時間がかかった。
というのも、途中でルドが動けなくなったから。
どうやら、足首をひねったらしい。
泣きそうになって謝るルドを、私が無理やり背負って帰って来た。
すぐにお医者さんを呼んでもらって、手当てをしてもらう。
お母様と、アール兄様も心配して様子を見に来た。
幸い、軽い捻挫だったみたいで、湿布をはって様子をみることになった。
「ごめんね、ルド。走る前に、準備運動をしたら良かった…」
私が謝ると、お母様があきれたように言った。
「そうではなくてね、マチルダ…。鍛えまくっているあなたと、ルド君は違うの。走ると言っても止めなさい! ルド君もごめんなさいね。無理に、この子につきあわなくていいのよ。普通の人だと体を壊すからね」
「いえ、マチルダ様はとめたのに、ぼくが従者だからと無理についていったんです…。ご迷惑をかけて申し訳ありませんでした…。しかも、マチルダ様に背負ってもらうだなんて、恥ずかしいことを…。本当にすみません…」
ルドは消え入りそうな声で謝り、しょぼんと下をむいた。
「あ、それは、全然、気にしないで! というより、むしろ、いいトレーニングになったわ。砂袋と違って、人を背負うのも訓練になるなあって。ルドはちょうどいい重さだったから」
「ほんとですか…?」
ルドが私を見た。
「うん、ほんと、ほんと! また、背負いたいくらいだよ!」
「マチルダ…、あなた、なんてこと言うの…。人を背負いたいだなんて、令嬢としては、終わっている発言ね…」
と、お母様は顔をしかめ、ため息まじりにつぶやいた。
が、反対に、ルドの顔は一気に明るくなった。
「あの…、背負いたい時は言ってください…。いつでも背負われます…」
ルドは恥じらうように言った。
すると、なにやら、アール兄様の目が輝いた。
「砂袋よりいいなら、俺も背負いたい。ルド、背負わしてくれ!」
「嫌です。ご遠慮します…」
ルドが即答した。
「えー?! マチルダはいいのに、なんで、俺はダメなんだ?!」
アール兄様が文句を言う。
「はー、もう、やめなさい! 本当になんて会話かしら。うちの娘も息子も脳筋すぎるわ…」
と、お母様。
「お母様、アール兄様はともかく、私は脳筋ではないわ!」
「いや、マチルダは脳筋だ。でも、脳筋で何が悪い! 脳筋万歳だ!」
と、わけのわからないことを言いだす、アール兄様。
すると、フフッと小さな笑い声がした。
見ると、言い合う私たちを見ながら、ルドが楽しそうに笑っている。
その笑顔に、私はホッとする。
だって、私の家族に怯えてないってことだもんね。
変な色が見えたりして、怖がられなくて良かった…。
たとえ、3か月の間とはいえ、ルドにとって、ここが安心できる場所になりますように…。
読んでくださった方、ありがとうございます!




