第86話 演説をします!
☆☆☆脱出作戦
まだ相手は自分を襲ってくる心配はある。そもそも直接戦えばその時点で一発アウトなのは確実だ。
だから対策のためジエイミにこっそりと囁く。
「――さっき魔法で魔力を使い切った。とりあえずこの場を離れるぞ」
復活魔法で大量の魔力を消費したということにしておこう。
その意図は汲んでもらうが、目を反らしていた。何かできない原因が?
「……分かりました。ですが、ユーシャインさんやここにいる皆さんが人質に取られています。逃げるわけにはいきません」
やはり、人質がいたか、だがそれは大丈夫だ。
「――ひとまずここにいる相手に関しては自分がいることによって動けない。魔王という存在を大きく見せているのは、人質としての役割と果たさせないためだ。それにユーシャインの方も大丈夫だ」
ユーシャインの方はメルに任せている。彼女の知能はこの世界で最強だ。
自分が救出するよりも、もっと上手い方法を思いつくだろう。
「――聞け! 王国の民よ!」
だからこそ、勇者と魔王の戦いを終わらせるために演説を再開する。
更に巨大な光魔法で最強の魔王演出する。
「――我がその気になればこの場を全て無にすることもできる。今から我は世界を変える! 心して聞くがよい!」
「「「「――――!」」」」
一同が戦慄する。いったい何を話すのか? そういう疑問が手に取るように伝わってくる。
「――いいか! 勇者と魔王は――」
――――ブウウゥゥゥゥゥンッ! 騒音で自分の声がかき消された。
「――ちょっと待ったぁぁあぁぁ!」
☆☆☆メル砲
え? なんでこいつがここにきているんだ……
『重力制御式移動装置』と共にメルが処刑台に現れる。こんなの台本にないぞ……
メルに作戦を話していたはずだ……一体何の意図が……?
「あいつは……先代魔王?」「エボルーテ・ドロプスだ!」
「でもどうして急に現れた?」「魔王やめたから先代ではないのか?」
民衆が先代魔王の登場に怯えている。そしてメルは自分に接近して……
「ぐぁあぁ!」
気が付けば地面に倒れていた。脳がぐらぐらとする。
「エクシリオさん!」
……あれ、自分は……メルに殴られた? でも一体どうして……
メルを見上げると得意げな顔をしていた。まるで全てが計画通りだったかのように……そして大衆に叫ぶ。
「カクセイラン王国の皆さん! 目を覚ましてください!」
そして、メルは自分を指さす。
「彼はずっと大きな『嘘』をついていたのです! 皆さんを最初から騙していたのです! だってエクシリオ・マキナは『弱い』んです!」
「「「「――――――!」」」」
この場に戦慄が走る。メルは自分が最弱であることを大衆に……そしてジエイミにバラした。考え得る最悪のタイミングで……
ジエイミの顔を見ても事実を理解していないようだ。
「どういうことだよ!」「さっきの魔法はなんだったんだ!」
「そんな嘘誰が信じるんだよ!」「お前の方が嘘つきだろ!」
しかし、先ほどの脅しが聞いているため、その事実を大衆は否定する。
「何を言っているの! エクシリオさんが弱い? そんなわけない!」
恐らくメルが言ってほしい言葉をジエイミは口にする。ダメだ……それではいくらでも証拠は出てくる……
「勇者ジエイミ? 先ほどの拳はあなたなら簡単に避けられたでしょ?」
「それは……ですがエクシリオさんは弱っていて……」
先程のは明らかに手加減をしていた拳であると、ジエイミも分かっていた。
「それに彼はこんなに痛がっている。本来なら傷だってつかないはずでしょ?」
顔は大きく腫れている。もし最強なら傷なんてつかない。ごもっともだ。
「先ほどの暗殺だって彼の自作自演だよ? だって彼の魔法は『光を操る』だけだもん!」
どんどん自分の正体がばらされていく。完全にメルはこのタイミングを計算していた。
「……エクシリオさんが魔王軍を支配したと!」
「そっちの方が都合良かっただけだよ。わざと今の地位にしたんだ。このタイミングで彼の正体をバラすためにね……ひひひ……」
「――どういうつもりだ」
完全に油断をしていた。体を起き上がろうにもダメージが大きい。
「やっと起き上がったんだ。ざぁこ♡ざぁこ♡怒った?」
なんでメスガキムーブしてんだよ……完全に下に見てやがる。
彼女の考えが読めない。一体何が目的なのか……最初から自分を追い詰めることだったのか……
自分を魔王に仕立て上げたのも計画だったのか?
だったら、自分はいつから泳がされていた? 落ち着け……落ち着け……
「さてと……どういうつもり、ね。うん。君は『肝心』なことを一つ忘れているよ。いや……『君』だから『気付いていない』というのが正しいか。それもそうだ仕方がない」
全てを見透かされた瞳で笑っていた。気付いていない。いったい何にだ?
「嘘です……嘘ですよ……嘘だと言ってください。エクシリオさん!」
何も言い返せない。嘘が浮かび上がってこない。ジエイミだって気付いているはずだ。自分が戦っている姿をあまり見ていないことに。
そして、今までの行動すべてが虚勢によるものだと、思い返せば思い返すほど、自分が弱いという確証が得られる。メルの言葉が真実であると……
ジエイミの顔を見られなかった。どうあがいたって失望されている。
どうすることも……できない。
自分の表情を察したのかメルはにやりと笑った。
「そして君が……最弱である理由を今から説明するよ! きっとみんながその真実に納得して、驚嘆するはずだ!」
真実……まさか、転生者であることも彼女はバラすつもりか!?
「エクシリオ・マキナ!」
いまさら何を出しても事実は変わらない。どうせ、自分はもう……勇者でも魔王でもないのだから。ただの村人Aだ。
「君は《《人間族》》じゃない《《ヒト族》》だ」
……どういうことだ?




