第73話 争いの黒幕
〇〇〇この世界の黒幕
『黒幕がいる』……と
エクシリオさんは私にだけ聞こえる声量で言います。
「――考えたことはないか? 何故勇者と魔王が争っており、それが伝説と語り継がれ、戦いが終わらないのか」
初代の魔王が世界を支配しようと企んだから……それは勇者伝説で語り継がれている事実です……だけど、何も疑問に思ったことがない。つまりは……
「――ジエイミ。何故争いが起きるのか知っているか? それは得をする誰かがいるからだ。魔王と勇者が争い、何かしらの利が得られる状況をこの世界に作っている相手。そいつが恐らく魔王と勇者の争いを引き起こしているのだ」
エクシリオさんは何を言って……争いがあって得をするものなどいるはずがないです……いや、エクシリオさんのことだ。もっと深い何かがあるのでしょう。
「その黒幕が存在するという証拠はあるのですか……私には見当もつきません」
「――『証拠』があると気付かれれば、そいつは姿を消す。だから君にしかこの事実を伝えていない。その存在に『証拠』がないことこそが『証拠』となりうるのだ」
確かに、それほどの相手ならそう簡単に証拠は出さないはずです。しかしエクシリオさんはそれに気付いた……
「――そのために俺は魔王を演じこちら側を探っている。ジエイミにも人間側を探ってほしい。恐らく何かしらの手掛かりがある。だが決して気付い素振りを見せるな。あくまで知らぬふりをしながら調べるのだ」
黒幕の存在。一体誰がどのような理由でこの事態を招いたのか? つまり……こちら側にもその黒幕が存在する可能性があります。
「ですがどうすれば……私では気付けないと思います」
「――大丈夫だ。策はある。魔王と勇者の双方が和解したと宣言する。そしたら、それを面白いと思わない連中が出てくるはずだ」
「おびき出そうとしているわけですね。黒幕の目的は魔王と勇者の争いを続けていること、つまり……それが崩れようとしてくれば必ず何かをしてくる」
「――そうだ。黒幕は恐らく慎重な相手だ。第三者を使って行動を起こすだろう。例えば……新たな争いの火種を作ることなど、出てみたとこ勝負ではあるが」
だから、勇者である私が辿り着かねばなりません。その黒幕の正体さえ突き止めれば勇者と魔王の戦いは金輪際無くなります。
「――そして、自分の身の回りに怪しい行動をしている存在がないか。勇者と魔王の争いを仄めかす者がいれば、そいつが黒幕に通じる可能性だってある。気を付けることだ」
それだけ言うとエクシリオさんは私の手を握る。
「はい。私の全てをかけて真実に辿り着きます」
「――このことは決して悟られてはならない……だから決して無理はするな。危険だと感じれば身の安全を第一にしろ。頑張れよ」
その時だけは普段通りの優しいエクシリオさんでした。
「――恐らくその黒幕は俺と同等かそれ以上の力を持っている。決して一人で倒そうなど考えるな。なにせ勇者と魔王の争いを支配してきた存在だ」
玉座へと戻り、勇者と魔王の和平の交渉に必要な書状を預かります。
「――今日ここに、魔族領と人間領の争いを収束させることを宣言する!」
魔王軍にはエクシリオさんに逆らう人はいなく。横にいるエボルーテ・ドロプスも納得しているようでした。
多くの真実を今日知りました。
魔王との戦いはこれで終わりを迎えたのかもしれません。だけど……まだ戦いは終わりません。
この争いを引き起こした黒幕。その正体を突き止めるまでは……
〇〇〇客間にて
休憩のため客間に案内されます。魔族領に入っていてからかなり警戒をしていたため疲労が出ているのに気づき、
会合中に外で待機していたわんわんモフルン丸さんをモフモフしながら癒されています。
「ワン!」
この後私はカクセイラン王国の王都に戻り書状を王に届けなくてはなりません。
少し休んだらまた出発をします。
すると扉が開かれます。恐らくエクシリオさんでしょう。先ほどの話の続きを……
「エクシリオさん!」
「残念。メルちゃんでした~」
「……あなたは」
そこにいたのはかつての魔王、エボルーテ・ドロプスでした。




