第69話 新しきスタート
☆☆☆メルの部屋にて
気まずい魔王即位の儀が終わり、メルの部屋に戻ってきた。よし、今まで言いたかったことを全部言うつもりだ。
「どういうことだよ! 打ち合わせしていた内容と全然違うじゃあないか! いやほんと何なんだよお前さぁ! なんで魔王になってんだよ自分が!」
「あははは! ごめんごめんって! まぁそんな怒らないでよ〜でも魔王に任命された時の驚いた顔がめちゃおもろい……あははは!」
マジこいつ自分より弱かったらぶん殴ってたぞ。グーで。
「痛い! ごめんって! 酷い事しないで~! 痛い痛い~! そこだめっ!」
「何もしてないだろ」
「うん。そうだけど」
本当何もしてない。
「一体どういうつもりなのか説明してほしいんだが」
「それはさ、私って誰かの下についていたほうがいいんだよね。魔王を演じていた時も実質エルちゃんの下についていたものだし、それに魔王になったらユーシャインのライブ行きづらくなるし。そこで君なわけよ」
ライブに行けなくなるのが本音だろ。
「なんで自分なのさ」
「だって、君は漫画の力で皆を支配できた。そして、人間領の交渉に一番手っ取り早いのって君じゃん」
……確かに商人であるペルペッコ・モンタージュの名を使えば、人間領でも漫画を販売することが出来る。恐らく儲かるだろう。
彼女が言っていることは筋は通っているが、一つだけ気になる点があった。
「大体分かった。ではなんで、そのことを先に報告しなかった? メルさんよ」
「そっちの方がめちゃおもろいから。現にめちゃおもろかった」
「お前ユーシャインのライブ出禁にすんぞ? 今度はマジだからな?」
「それだけは勘弁してください! スシデウス様ぁ〜〜」
土下座される。
だけど、またこうしてメルとふざけた会話ができている。彼女の秘密を知った時は正直に関係が終わったと思った。
メルはコミュ障だけど、本人も変わる努力をしている。
なんとなくだけど前向きに生きるようになったのだろう。信頼だって得られている。
それに魔王の座も譲ってくれた。(面倒ごとを押し付けられたとも言う)
今の自分は魔王エクシリオ・マキナだし、かなり強めな権力を持っている。
これからは、ここで安定した生活を送るのも悪くはないけど……正直不安だ。
確かに強キャラぶるのは得意であるが、いつ裏切られてもおかしくない。
とりあえずは人間領に漫画を売り金を稼いでおこう。
いつでも逃げれるように……
「はぁ……これから大変だよ。ほんっと面倒ごと押し付けやがって……」
「でも、君ならできると思うよ……!」
相変わらず彼女は自分の評価が高い。正直気まずくなる。
「なんで自分の評価そんなに高いんだよ……」
疑問に思ったので聞いてしまった。
「だって」
メルは自分の方を向き手を取る。
「《《君はこの世界の住人じゃないよね》》」
「え」
☆☆☆自分の正体
え?
「いや、厳密に言うと君は《《エクシリオ・マキナ》》じゃない。魂だけがこの世界の物じゃないって言った方が正しいか……恐らく君の魂が乗り移っていたでしょ?」
「ど、どど、どうしてそう思った?」
自分が転生者だとバレた? メルは当然のことのように語る。
「だって、君の発想は全てこの世界に存在してないものだ。それを当然の様に語っている。漫画だって皆が褒めても君は嬉しそうな顔を一切していなかった。むしろ気まずそうな顔をするばかりだ。漫画って君がいた世界で存在していたものを利用したんでしょ?」
完全にバレていた……確かにパクったことは申し訳ないと思っていたし、漫画がヒットしても自分の作品じゃないので素直に喜べなかった。そこを見られていた?
「君はこの世界の常識を知らなすぎる。そんなの普通に考えればこの世界の存在じゃないって分かるでしょ~がはは!」
やばいやばい……彼女はあの残念な性格だから完全に忘れていたけどこの世界で魔力装置を発明した天才である。
これまで雑にボロ出していても気付かれなかったけど……彼女の目は誤魔化せなかったか……クソ!
「……」
声を出すことが出来ない……バレる可能性が完全に抜け落ちていた。想定外すぎて……何も言い返せない。
「あ、めちゃ動揺している……ということはやっぱり本当にこの世界の存在ではないんだ……わーお」
もう否定する材料がない。他の相手ならともかくメルを騙すことは困難だ。
すぐ思いつくような嘘ではすぐに見破られるだろう。それに時が流れれば流れるほど彼女の考えは確信へと変わっていく……
「そうだ……自分はこの世界の住人じゃない……認めよう。別の世界から魂だけが転生した。元いた世界で言う異世界転生だ」
「やっぱりか〜! と言うことは別の世界が存在するんだ……つまりは……ふむふむ……凄い! つまり君の元いた世界ではああ言った娯楽で満ち溢れているんだね……がはは! 凄すぎない!?」
背中を乱雑に叩かれた。こいつほんと心開いた相手には調子乗るタイプだな。
なんとなくだけど理解してきた。彼女が自分を否定しなかった理由。例えどれだけ非力でも、別世界の知識を持つ唯一の存在だ。
研究対象として手元に置いておきたいと思うのも無理はない。
もしかしてこれはエルを追放した影響だろうか?
追放勇者の成り上がれのバフが彼女の場合知能に掛かっていると考えれば、この結論に辿り着くのも納得がいく……
つまり彼女はこの世界で最高の頭脳を手に入れ、推論により自分の真実に辿り着いた……やはりこの能力はあまりに危険すぎる。
「これからもよろしくね……《《自分君》》!」
彼女は笑い、《《自分》》の存在を認知した。
こうしてこの世界に来て初めて自分の正体が転生者であるとバレてしまった。
――第七章。完!




