第63話 魔王を説得します!
☆☆☆魔王と対面
長い階段を上がると塔の頂上に彼女はいた。髪が強風で靡いている。
いいや……この雰囲気はビドちゃんではない魔王だ。
「四天王を向かわせたはずじゃが……まさか、お主一人も止められないほど無能じゃったとは……」
威圧感倍増装置を発動させている。だがこれは明らかに別格であると錯覚させているだけにすぎない。
恐れる必要はない。自分だって似たようなものだ。
「――いいや、俺が凄いだけだ」
彼女が《《魔王》》を演じているのなら、自分だって《《勇者》》を演じるだけだ。
エクシリオ・マキナを演じる……!
「ほほう……お主……先程までと何か変わったな? それがお主の本気か……勇者エクシリオ・マキナ……!」
物凄い威圧感だ。だが自分だって負けない光魔法! 『めちゃかっこいい後光!』
シャキーンと自分の後ろが輝き圧倒的主人公感を演出する。
「――大体の事情はなんとなくだが察した。エボルーテ・ドロプス。俺は彼女と話がしたいのだ。少し下がっててもらえるか?」
「……メルはもう完全に心を閉ざした……お主のせいでな! あの子の心はお主が思っているほど強くない。だから妾が生まれたのじゃ……! 妾が消えればあの子は壊れる!」
すると魔王は語った。
魔王のエルが命を落とし、妹のビドちゃんことメルが一人で魔王と四天王を務めた。死を受け入れたくないためにエルの人格を宿した。
大体考えていたことと一致した。
エルの人格。メルの人格。その二つが彼女に宿っている。
「だからお主を消す。大切な妹を悲しませるというのなら、妾の敵じゃ!」
敵意。自己防衛本能だろうか? これやばくね? どのみち戦いになったら自分に絶対勝ち目はない。何としても口論にしなければならない。
「――なぜ君は、メルの心が本当に弱いと考えているのか? それは彼女の可能性を否定しているだけではないか?」
「何を言う……妾を作ったのはメルじゃ! 現実から目を背けるために……そうでないと、メルが一人になってしまうではないか!」
引っかかった……エルの行動は恐らく善意から始まったものだ。現実を突きつけられればメルはもう駄目になってしまう。
だからこそ、彼女の中にエルは生まれた。
ならばエルに大丈夫だと思わせることができればメルが出てくるのではないだろうか。
「――現実を知ろうと、彼女は一人になったりはしない……少しは周りに目を向けてほしいものだ」
「……何を!」
「――っふ、俺がいるのだから……」
「……はて?」
その反応やめてくれ……ただでさえ恥ずかしいこと言ってる自覚があるのだから! こいつと話しててもダメだ。メルに出てきてもらうしかない。
こうなったら力技だ!
「――メル! 聞こえているのだろう! 俺は別に君の妄想を否定しに来たわけではないんだ!」
「無駄じゃ。メルには届かぬ!」
ダメか……いや? 無駄ならわざわざ否定したりしない。
「――ただ、世界にはまだ可能性があると――」
「――朽ちよ」
これは……魔法による攻撃? だめだ回避が間に合わない!
ボゴォ!
突然床の岩が膨れ上がり、攻撃がかき消される……一体何が?
「攻撃をかき消した……おかしい、お主は光魔法しか使えないはず。そして、妾よりも全ての能力が劣っているはずじゃ……なぜ防げる?」
「――そんな攻撃効くわけがないだろ。生憎『威圧感倍増装置』は効かないぞ、それ以上の威圧感を俺が出せるからな」
とりあえず自分の実力で防いだことにしておこう。でも一体誰が……
「……ならば、魔力を解放じゃ! 『闇魔法装置』起動」
装置を取り出すと闇魔法を発現させていた。
なるほど……そういうことか、メルの魔力量は生まれながらにして少ないことは聞いていた。
メルは恐らくこの世界でも随一の天才だ。魔力を『保存』する方法を発明したのだ。
正直魔力の条件とかは自分にはちんぷんかんぷんなので、詳しいことは分からないが、
魔法が単独で発現する『装置』などどこにも出てこなかった。所謂発明家なのだ。
彼女はこの世界に科学を生んだ。魔法の才能が無くとも知識が並外れて優れているのだ。
メルはこの世界で革命を起こすことが出来る天才なのだ。
「――確かに君は魔法の才能がないかもしれない! だが、常識を覆されるほどの発明をしただろう! 『装置』の開発は君が思っている以上のこの世界に影響を与える!」
「黙れ黙るのじゃ!」
放たれた攻撃はまたも防がれる。これは……岩? ゴーレムか?
まさか……後ろを見るとオトザが守ってくれた。
めちゃ助かる……正直一発でも食らえば自分は死ぬ。
「――確かに最低だと決めつけるのは簡単だ! 全部自分のせいにしてしまえば楽になるかもしれない……メル。君は君が思っているほど劣っていない……むしろ魔王軍の誰よりも優れているんだ!」
「……何を……『魔法の才能がないモノは魔王になれない』のじゃ! だから妾が代わりに魔王を……」
「――それは古い考えだ。エル。いくら魔王がメルの身体に宿っていたとしても魔力量はそのままだ」
分からないけど。
「――だが、彼女は何不自由なく魔王を演じ続けた。それがどれだけの苦難か考えたことはあるのか? ないだろう……力を持つ者には分からないのだよ」
「うるさいのじゃ! うるさいうるさいうるさい!」
何度も攻撃をするとゴーレムにもひびが入ってくる。そろそろ限界だとオトザも合図を送っていた。
「――メルこそが次なる時代に訪れるべき『新しい魔王』だ! だから、エボルーテ・ドロプス!」
そして、自分は魔王に向かって放つ。その言葉を……
「――《《君は魔王に相応しくない》》」
そう……魔王を追放する。それがメルを救う唯一の方法だ。
自分には勝算があった。




