第61話 突きつけられた真実は残酷でした
☆☆☆現実は……
彼女の事情は知らない。現実を伝えることが果たして正解だったのだろうか……分からなかった。
だけど、恐らく魔王エボルーテ・ドロプスの正体は彼女で間違いない。
何せ自分が気を失う前に映ったのはビドちゃんだ。
双子……確かにその可能性を考えていた。だけど、ビドちゃんと魔王の会話は全部彼女一人で行っていた。
正直に何度も目を疑いたくなる。
彼女には細かな違いはあるかもしれないが二つの人格が宿っている。恐らく姉の人格だろう……ほんとにこんな事ってあるんだな。
今思い返せば、部屋で二人の会話を聞いたときは視界が真っ暗で、独り言だと気付けなかった。
「……嘘……だよね?」
彼女は決して馬鹿じゃない。自分が言ったことを理解できる知能が備わっている。
「だって……ルーちゃんはそこに……でもエクシリオには見えていない……? でもそんなこと……ありえないありえないありえないありえない……」
何度もありえないと、現実を否定する。
「エクシリオ! 何を言っておる! 妾はここにおるじゃろうに!」
ビドちゃんに胸倉をつかまれる。いや、この場合は魔王が正しいのか。
「――君達が二人きりの時にしか喋れないのも、トークビドウの正体を隠していたのもその《《真実》》がバレないためだ。だって君達は……《《一人なんだから》》」
「嘘をつかないでよエシリク!」
自分は思い切り投げ飛ばされる。
「……そんなわけないじゃん! だってそうでしょ? ルーちゃんは最強の魔王なんだよ! 誰にも好かれて……勇者の天敵で……そして可愛くて……優しくて……私の大切なお姉ちゃんなんだから……!」
彼女はもう気付いている。なのに必死に現実を否定しようとしているのだ。苦しい言い訳を並べ続けていた。
「いや! いやいやいやいやいや!」
発狂し彼女は走り去って消えてしまう。
とてもいつものテンションで話しかけられる状態じゃなかった。
◇◇◇魔王の真実
彼の言っていることは理解できていた。むしろ、どうして今まで気付かなかったのだろう。
あれは私の奥底に眠る遠い記憶の真実だ。
魔王であるエボルーテ・ドロプスことルーちゃんは既に《《死んでいる》》。
そうか……ルーちゃんはもういないんだ。
だったらどうして、私はルーちゃんになっていたのだろう……
見たくない記憶を思い出す……あれは、私が四天王になって間もない頃だ。
私はベッドで横たわるルーちゃんを見つめていた。酷く苦しむ彼女を見て心が締め付けられる。
「ルーちゃん大丈夫……?」
彼女は病に侵されていた。いや、厳密に言えば、魔力が強大すぎて幼い体で耐えることが出来なかったのだ。
身体の至る所から悲鳴が上がっていたが、ついに限界が訪れルーちゃんは倒れてしまった。
ルーちゃんは魔族が持つはずの魔力が数千倍かそれ以上だ。完全に要領オーバーとなっている。
何故こうなってしまったかは推察がつく。本来なら魔族は本人の魔力量に見合った身体で生まれてくるためこのようなことはない。
だけど、私達は双子だ。私の分の魔力まで彼女は持って行ってしまった。魔王の娘である強大な魔力が二つ……それは途方のない魔力を生むはず。
つまり……私が生まれてきたことにより、ルーちゃんは命を落とそうとしている……
「大丈夫じゃ……これくらい。平気なのじゃ」
このことは誰にも知られていない。もし知られれば魔王に弱さが生まれてしまう。そもそも、この症状に対策はないのだ。いくら魔力を放出してもルーちゃんは良くならなかった。
そう、『最強』の魔王の弱点は『最強』であることだった。
己の強さで身を滅ぼしてしまうのだ。
「でも……」
「大丈夫じゃから……妾は皆の前に……っぐ!」
そして意識を失った。
「ルーちゃん!」
どうしようどうしようどうしよう……この後は四天王との大事な会議がある……魔王が不在の状況は不味い。絶対に疑われてしまう……
そこで、私はルーちゃんの衣装を身に纏い、会議へ向かう。ルーちゃんのことなら何でも知っている……特徴だって掴んでいるんだ。
「私はルーちゃん。私はルーちゃん。私はルーちゃん」
そう自らに暗示をかけ魔王軍幹部の会議へと向かう。威圧感倍増装置のおかげもあり、誰にもバレずに魔王を演じきった。
顔はそっくりであるから、よほど近しいモノでない限りは気付けない。
すぐにルーちゃんの元へ戻るがやはり、苦しんでいる。意識はあるようだが酷く衰弱していた。
だけど、私に何かを伝えたいのか強い眼差しを向けていた。
「メルよ……聞いてほしいことがあるのじゃ」
本当の名前で呼ばれる。それを私は拒絶してしまう。
「……いやだ!」
「メル!」
私はエルちゃんのことは分かる。だからこれから話すことだって知っているのだ……だからエルちゃんの口から聞きたくなかった。
「妾はもう長くない。恐らく強すぎる魔力の影響であと……」
「私のせいだよ……私が生まれてきたから! エルちゃんはこんな目に……」
そうだ。私が生まれてこなければ全てが上手くいっていた。
エルちゃんが最強の魔王であり勇者と戦い勝利していたであろう。
『私は不幸を運ぶのだ』
誰彼構わず騙し続けて他人を陥れてきた。
結局は自分のことしか考えられないのだ。卑怯で臆病で最低な存在だ。
それに比べエルちゃんは素晴らしい。エルちゃんこそが生きていなければならないのだ。
今すぐにでも私が変わってあげたかった。確かに苦しいのも痛いのも嫌だけど。
エルちゃんが苦しむのを見ているのはもっと辛いんだ。
「今日の会議はメルが代わりに出たと聞いたぞ……よく頑張ったな」
頭を撫でられるが力がない。
「なぁ……メルよ、妾がいなくなった後に……魔王をやってはくれないか?」
「無理だよ」
「なにを、メルは妾より賢い。いつも支えてくれたではないか、その知識は武器じゃ。妾はただ力を振りかざすことしかできない。だけどお主なら……もっと上手く魔王軍を導けるではないか」
「できない……って……私は……」
エルちゃんの様に強くない。本当に弱いのだ……こんな私じゃ、魔王軍を率いることなんてできるわけがない。
「メルは……この場所が好きか?」
「そんなの決まっている。大好きだよ」
エルちゃんと一緒にいるこの場所が、私にとっての居場所だ。
「メル……!」
エルちゃんは強く私を抱きしめる。もう力はほとんど残されていない。恐らくもう長くはないのだと分かってしまう。
「ならば……この場所と皆の幸せを守ってほしい。妾の大切な居場所を……頼んだぞ……」
それがエルちゃんの願いだった。
私が守りたいのは……魔王軍じゃない。ただ。エルちゃんの幸せだけなのだ。
だけど、そんな願いを否定するように。エルちゃんは息を取った。
「エルちゃん! エルちゃん……お姉ちゃん!」
今迄で一番泣いた。永遠と泣き続けた……でもやがて涙は枯れていき、エルちゃんの死だけが残される。
この日に私は大切な半身ともいえる存在を失った。これから訪れるのはエルちゃんの存在しない世界だ。
嫌だ。いやだいやだ。……認めたくない。こんな現実は絶対に!
願った瞬間。私の意識は遠くへと消えていった……
――そう、この時私はエルちゃんを心を宿したのだ。
そして完璧で誰もが疑わない魔王エボルーテ・ドロプスを演じる。
誰もがエルちゃんの死を知ることはなかったのだ。だからまだ生きている。嘘であっても誰もが信じていればエルちゃんは生きているのだ。
私は大嘘つきだ。魔王軍を騙して、何より自分自身も偽っていた。
でもこれは全部私の妄想なのだ。
私はエルちゃんの分も生きている。でもこれは私自身も忘れていたことだ。
そしてエクシリオの一言で全てを理解してしまった。
どうしようもない現実だ。エクシリオの言ったことが全て正しいのだ。
だから……もう全てがどうでもよくなっていた。
私は無意識の中、塔の頂上へ辿り着いた……
きっとエルちゃんが体を動かしてくれたのだろう。
なら全部……エルちゃんに任せればいいか、私はもう出てこなくても……




