第134話 初代勇者の物語
///魔王城にて
僕は玉座の間で勇者と魔王の決着を待っていた。
魔王のエボルーテ・ドロプスはどうにも胡散臭い。僕の洗脳は人間族に対して有効なはずだ。
そのため遠い昔から遺伝子に仕込んだのだ。だが魔王は現に洗脳されていた。どうして?
ならば、彼女には人間族の血が入っているというのだろうか?
だが、それも関係なくなる。どのみち、あの魔王では勇者を倒すことはできないだろう。
先程も見たことがない魔導装甲を纏って四天王の力を奪っていた。だが四天王の力では勇者に勝つことはできない。
勇者のことについてだ。
僕は未だ勇者に勝つ手段を見つけられていない。あの村で戦った時は弱くなっていたが、それもモブコザ村にいたからだろう。
もし、あの魔王を倒し勇者が僕の前に現れたとする。その時に僕は勇者を殺し切ることが出来るのだろうか……
勇者を倒して人間族も魔族を滅ぼさない限り。ヒト族に平和な日々は訪れない。
僕は……あとどれだけの命を奪えば、みんなを守ることが出来るのだろうか。
あと何回。勇者と魔王が争えば、双方は滅ぶのだろうか……
人間族も魔族もヒト族から見れば化け物だ。
モブコザ村から外を出れば、すぐにヒト族は死んでしまうんだ。
だから……絶対に僕は倒れるわけにはいかない。
治癒魔法があれば僕は不死身であり、負けることはない。だが……それでは、勇者に勝つこともできないんだ。
どうにかして、ヒーラー以上の力を手に入れなければならない。
そうして……みんなの居場所を取り戻す。そのために頑張らないと……
///昔々の話
これは、かつてヒト族が繁栄していた時代の物語。
魔族を総べる王が誕生し、ヒト族に対する虐殺が絶えなかった地獄の時代の物語。
そして……僕がまだ勇者パーティーにいた頃の物語だ。
僕は幼い頃からヒト族には珍しい治癒魔法が使えたため、傷ついた村人を回復していた。
「ヒール……今日はこれで終わり……はぁ……はぁ……」
治癒魔法は魔力を使うため常に意識が朦朧としている状態だった。
この職業のせいか魔族から狙われて殺されかけたこともある。だが、みんなは僕の命を第一に考えていたため、僕を守るために沢山の人が犠牲になった。
そして、治癒魔法が使えても救えない命が無数に存在したのである。
そんなある日。僕は失敗をして魔族に殺されそうになった。
助けてくれた人々は全員殺され僕も逃げることができなかった。
「こいつがヒーラーか! とうとう追い詰めたぞ! なぶり殺しにしてやるぜ!」
「「「「げははは!」」」」
魔族の声はどこまでも低俗だった。悪魔のように笑い。ヒト族をまるで娯楽のように殺しているのだ。
だけど、いくら治癒をかけても、いずれ魔族によって殺されるのなら、僕の存在は意味のないものだと思い始めていた時だった。
今迄沢山の死を見てきた。だからだろうか、僕の番が回ってきただけなんだって……
「死ね! ヒーラー!」
魔族は僕に魔法を放った。これで、終わりだ……
「させるか!」
そこに現れたのは若い男性だった。ダメだ。ヒト族で魔族に敵うはずがない!
「僕に構わず……逃げて!」
しかし僕の声も聞かずに男性は魔族と交戦する。
「はあああああ!」
「何……なんだこいつ! 強いぞ……ぐおおおおお!」
その男性は一本の剣で魔族を瞬く間に倒していく。身体能力がヒト族とは思えないほど高かった。
そのまま魔族たちを全員倒した。
「終わった! ……大丈夫か?」
男性に手を差し伸べられる。僕は掴み起き上がった。
「ありがと……」
「俺の名はエグネイト・マスクキュラ。魔族と戦うために仲間を集めている。聞くところによると君が治癒魔法を使えるというのは本当なのだろうか?」
「魔族を倒すって! そんなの無茶じゃ……逃げないと……」
「さっきのを見ただろ、力には自信がある。ヒト族がいつまでも逃げ続けていたら、いずれ絶滅してしまうだろ。ならば、抗わないといけないんだよ。誰かが」
その誰かが彼自身だと言いたいのだろう。
「だから俺は立ち上がった。俺、治癒魔法は発展途中なんだ。そこで、君の治癒魔法の話を聞いたんだ。それで、どうだ? 俺の仲間になってくれるか?」
「……それは」
「仲間になれば危険な目に合う。だが、それはどこにいても同じことだ。逃げるか、戦うかの違いだけ、それに進んでいく先で傷ついていく人たちを君なら癒せるのだろう?」
確かにそうだ。どのみち逃げたとしても、無数の命を見捨てるだけ。
だけど、魔族に抗うとすれば、確かに危険があるが、今と大して変わらない。
それなら、万が一の可能性に賭けてみるのもいいのかもしれない。
「誰かを助けたいから、君は治癒魔法を使っているのだろう。それならば、その場ではなくもっと多くのヒト族を救ってみないか? 俺達が……『魔族』を倒して」
だからこそ、僕はこの人を信じてみようと思った。
「……分かったよ。僕に務まるか分からないけど……」
「おう! ……あ、そういえば名前は」
そういえば名乗っていなかった。
「僕の名はグリエルモ。グリエルモ・フィリル・マストヒル」
「よろしくな! グリエルモ!」
僕たちは握手を交わした。これがこれから初代勇者となる英雄。エグネイトとの出会いだった。




