第132話 勇者と魔王の口喧嘩
☆☆☆キスの真相
メルが洗脳されたフリをしていたのは、つまり、自分のキスをもらうためだったというのか……?
「いや、そのために魔王城陥落させたの? グリエルモに!? 四天王も倒されたって聞いたぞ、オトザから」
「あぁ、それも全部演技だよ。魔王軍のメンバーは私が適当に倒すふりをした。オトザだけがその現状に驚いて逃げちゃったね。説明しようと思ったんだけどね~」
オトザの早とちりだったというわけか……いや、どう考えてもメルが悪いな。
「え、じゃあ自分のファーストキス欲しかったのも?」
「うん。だって自分君『キスして』って頼んだらしてくれる?」
「しないだろ。常識的に考えて」
「だからしたいんだよ」
えぇ……うそだろ?
「キスって言ってもクソ不味いキスだぞ。あんなロマンもない口移しがファーストキスでいいのかよ! ゲロチューだぞ」
「背に腹は代えられないんだ! しかし、その結果がこれだよ! あのクソジエイミにファーストキスを奪われたんだよマジふざけんな! ジエイミマジでお前なああ!」
「うるさいクソメル。私だってファーストキスだった! 自分さんがよかったのにーーーー! 自分さん上書きしてください!」
ということはジエイミとメルのファーストキスって、互いに大っ嫌いな相手なのか。
てか、ジエイミがここまでボロクソ言う相手ってメルしかいないよな。不仲通り越して仲いいんじゃないかこいつら。
「だったら私にキスすんなクソ勇者。こんなクソ勇者より私にキスした方がいいって自分君。美少女魔王、魔導一式様なんだよ?」
自分で美少女っていうのか……まぁ顔は良いんだけど。
「私がキスしなかったら自分さんのキスが奪われていたから。仕方ないでしょクソ魔王。さっき負けたくせに偉そうなことは言わないでほしいな!」
ジエイミも煽ることあるんだな……
「……あ? 今なんつった? 私が負けた?」
ジエイミの『負けた』という言葉にメルは反応した。
「私は負けてません~負けたのは『魔導型強化外骨格一式試作号《まどうがたきょうかがいこっかくいちしきしさくごう》』です~」
……え? 今とんでもない言葉を言ったぞこいつ。試作号……だと?
「おい、待てメル。先ほど戦っていた魔導一式が試作号だというのか? あれは闇落ちとか暴走の類ではないのか?」
「そもそも私は洗脳も闇落ちも暴走もしてなかったし。あれは『魔王』の力じゃない。『四天王』の力を使って戦っただけだから。負けたのは『四天王』であって、『魔王』が負けたことにはならないんだよ」
なんつー屁理屈だよ。確かに使っていたのは四天王の力だったけど。
あと、メルの言動は常に暴走しているようなもんだろ。
「お、おい。メル……ということは、あれは本来の姿じゃないってことか……でも、魔王の力も使えたんだろ? いったいどうして……?」
まさかの試作号とかいう男のロマンを出してきた。その意図は一体……
「男の子って試作号好きなんでしょ?」
……正直に言うと大好きです。
本来あるはずの性能をダウングレードしたが故、限定的な力で戦う形態だ。それで勇者ジエイミ相手に立ち回った。正直に言ってクソかっこいい。
こいつ、男のロマンってやつを完全に熟知してやがる。
一緒に趣味の話ができる女だ!
プラモデル作ったり、カブトムシ取りに行ったりできそう。
「どういうことですか? 未完成品の何が自分さんの好みだと……そんなのただ本気を出してない言い訳です!」
「ジエイミ。いいアドバイスをしてあげる。男という生き物は、試作号という言葉に弱いんだよ。限定的な力に憧れを抱いているの。さっき、お前ではなく私を応援したのは、自分君の心がこちら側に行ったという事実があるんだよ」
「そ、それは……自分さんもどうしてメルを応援したのですか! 私一応勇者ですよ! 味方はこっちです。私です!」
「……ごめん。メルの言うとおりなんだ。魔導一式めちゃかっこいいんだ。あれは男のロマンが詰まっているんだよ。ついね、がんばえーって……ごめんなさい。ジエイミさん。若かりし少年の心が蘇ってきたのですよ……」
素直に謝罪した。
「はっはっは! つまり、自分君は勇者じゃなく魔王を選んだってことだよ! はい! 私の勝ちでした~あひゃひゃひゃひゃ! 残念残念~はい~ジエイミの負け~」
すると、ジエイミにもスイッチが入る。
「さっきの続きをもう一回やろう! クソ魔王!」
「いいよ? 今度は手加減なしの最強形態で潰してあげる~クソ勇者。勝った方が自分君にキスしていい権利ゲットというのはどうかな!」
やばい。二人ともリアルファイトになりそうなので止めないと。正直に言えば最強形態の魔導一式を見てみたい。
どういうデザインなんだろう。何がモチーフなのか……めちゃ気になる。
だが、これ以上仲間割れが続くのはダメだろう。そもそも、グリエルモの問題を何一つ解決できていないのだ。
こうしている内にも相手の計画が進んでいる可能性だってある。
「二人とも一応世界の危機が訪れてんだぞ! 勇者と魔王が喧嘩をしている場合か! 緊張感を持ってくれ!」
「すみません……」「ごめんね~てへぺろちんちょ!」
メルに関しては全く反省してないな。




