第127話 お前たちは仲間に相応しくない
☆☆☆いざ戦場へ
一人では戦闘の時に死ぬので、アナスタシアとメイドさんが付いてきてくれた。わんわんモフルン丸で魔族領と人間領の境界線へ移動する。
人間族の大軍が魔族領に向かっている。約数百人規模だ。
このままでは双方で全面戦争が始まる状態だ。この軍は誰が率いて……
「え?」
一番最初に気付いたのはアナスタシアだった。やがてメイドさんや自分も先頭に立つ人物に気付く。
「ジエイミ?」「ジエイミ様?」「ジエイミ殿?」
まさか……ジエイミまで暴徒と化していたのか……いや、そうとなれば、この事態を引き起こした相手と、ジエイミを連れ去った相手は同一である可能性が生まれた。
「ジエイミ殿が……一体どうして……」
「ジエイミ様も暴徒と化しているのはおそらく、『ぼーっと』していたのでしょうか」
…………
……
つまり、今ジエイミは正気を保っていない可能性が高い。ということは……
「ぼーっとして。ぼーっとして……暴徒がぼーっと……」
……うん。無視しておこう。無視だ無視無視……
「メイドさんとアナスタシアで、ジエイミは止められそうか?」
「無理です」「無理だろうな」
まぁ、無理か。かつてのジエイミと戦った時でも手も足も出ていなかった。
だけど、このままジエイミを進軍させれば魔王であるメルとの戦闘になる。
メルは戦闘面は頼りにならないので、確実に負けるだろう。
と言っても彼女のことだから対策は取ってあるだろう。だが正面切って戦うことはまずないことは確実だ。逃げたりするかもな。
彼女は魔王軍を捨てるだろう。魔王軍の連中に犠牲者が出るのは回避したい。そもそも、未だ魔族領は発展途上だ。ここで戦争による死人が出れば、魔族側が黙っていない。必ず報復に出る。
そうなれば、平和な漫画計画や印税生活も全てが台無しになってしまう。
なんとかして、マジョーナお手製のマズマズドタブレットをジエイミに飲ませる必要がある。
正直メイドさんとアナスタシアでジエイミを止めることは不可能だ。
だけど、それは……『今の二人』ならだ。
「二人とも秘策があるんだが……良いか?」
「エクシリオ殿が何か思いついたぞ!」
「……ぼーっとしていますので」
いつまで引きずってんだよメイドさん……渾身のギャグなのは分かるけど。
「二人とも自分のことは『仲間』だと思っているか?」
「はいもちろんです」「それはそうだろう」
二人の認証は得られた。よし……ならば。
「これから自分の起こす行動を受け入れてくれ、そしたらジエイミ対抗できる力が手に入るはずだ……」
二人はうなずいてくれた。
「君達二人は自分の仲間に相応しくない」
恐らく追放勇者の成り上がれの能力はこれで発動するはず。
追放することでバフが得られる。
「はい?」「え?」
「……メイドさんはギャグがつまらない! アナスタシアはう~ん……くっ殺枠だ! この役立たず共め!」
まぁ、この場合自分が一番役に立ってないんだけどな。そういうところも追放モノとして完璧だな。
「ギャグがつまらないなんてそんな! 面白いです!」
「くっ殺枠とはなんなのだ! そんなぁああああ!」
そして彼女達に自分は言い渡す。
「――『追放』だ」
「……失礼ですが、何を仰るのですかエクシリオ様。追放とは?」
「ど、どういうことだ? これでは昔のジエイミ殿と同じではないか!」
二人はこの状況を理解していないようだ。確かに何の言われもなく突然追放されて困るのは分かるけど……
「いや、頼むから追放されてくれ。そういう流れなんだよ。本心じゃなくてそういうお決まりだから!」
「わ、分かりました。エクシリオ様とはもう、仲間ではないのですね……!」
「おう。そういうことなら……!」
追放勇者の成り上がれは発動したのか、彼女達の力が満ち溢れてくる。
「な、なんでしょう……突然力が……!」
「うおおおおおお! ものすごく力が溢れ出てくるぞ! どういうことなのだ!」
やはり、意思を持って追放したのは大きいのか、二人は予想以上の力を手に入れた。
「これなら、ジエイミ様を止めることが出来ます!」
「はい。私達ならできる。共にジエイミ殿を救おうではないか! 今更仲間に入れてくれと言ってももう遅いぞ! エクシリオ殿!」
もう遅いのは知っとるよ……
そのまま、二人はジエイミの元へ走り去った。
自分は……近くの岩場に隠れて見ておこう。どう考えても足手まといだからな。
☆☆☆VSジエイミ
「ジエイミ様!」「ジエイミ殿!」
二人は軍勢の前に立つ。
「……」
しかし、ジエイミに返事はない。やはり暴徒と化して……
「……ライトニング・アブソリューション……」
「……!」「いきなりか!」
いきなりジエイミは二人に最大出力の必殺技をぶっぱしてきた。
「だが、開幕必殺技は……」
砂煙の中から二人の姿は見える。無事なようだ。
「いきなり攻撃とは、危ソリューションですよ。ジエイミ様」
「だから、メイド殿は何を言っているのだ!」
やはり返事はない。完全に意識を失っている。
メイドさんのギャグを無視したくなる気持ちは分かるけど。
「……」
「返答はなし……ですか、ならばこちらから、参ります!」「参るぞ!」
二人とジエイミの戦闘が始まると、追放したおかげか渡り合っていた。
メイドさんの拘束魔法と、アナスタシアの風魔法を駆使してジエイミに上手く立ち回っている。
追放勇者の成り上がれはやはり強力である。追放しただけで、何のリスクもなく力を手に入るのだ。
だけど、不安があった。これは個人的なものであるがこの力を使い続ければ、いずれ自分は一人になるのではないだろうか。
追放して、追放して……皆はきっと追放された先で幸せを見つけるだろう。
もし、この世界すべての人々を追放できたとすれば、孤独になるのは自分だ。
ならばそれは追放されたともう言わないのではないだろうか?
むしろ、孤独になった自分こそが追放されたではないか?
考えれば考えるほどこの能力と向き合うのが怖くなる。
だけど……まぁ、そうなった時はそうなった時に考えればいいか!
「うおおおおおお! 風の力! ハリケーンスラッシュ!」
風魔法の斬撃がジエイミを襲う。これを食らえばジエイミにもダメージが入るだろう。すると……
「……オーバークロック」
ジエイミは加速魔法で回避しようとするが……
「――させません! 高速には拘束です……っふっはっは!」
メイドさんが拘束魔法で封じ込む。さすがメイドさん……。そしてジエイミを戦闘不能にする必要はない。拘束して、口の中にマズマズタブレットを押し込むだけで解決するのだ。
「今です! アナスタシア様!」
動かなくなったジエイミにアナスタシアは風魔法を使う。
「疑似加速魔法……サイクロンブースト!」
なるほど、風魔法を加速に使うとは……かなりのスピードが出る。
「何……口が開いていない! これではタブレットを入れることが出来ない!」
アナスタシアは焦る。
「アナスタシア様! 早くタブレットを入れなくては! 私の拘束はもう、持ちません!」
「分かっている! だがどうすれば……口を開けろおおおお!」
アナスタシアはジエイミの口を開こうとするがびくともしない……
だめだ。このままではジエイミの拘束が解かれる。そうすれば、二度目のチャンスを掴むことは流石に厳しいだろう。相手は最強の勇者だ。
「アナスタシア! 鼻の穴にタブレットを奥まで突っ込め! ジエイミなら恐らくそのまま食べてくれるはずだ!」
「うおおおおおおおおおおお!」
すると、アナスタシアはジエイミの鼻の中にマズマズタブレットを入れた。
「……!」
「アナスタシア様が……鼻の穴……ぶっはっは……あ、拘束が!」
メイドさん笑ってんじゃねーよ! 何をしているんだ!
だが、ジエイミはもがき出す……地面に倒れのたうち回る。
「うっ! うっ……っぐ! うわぁぁぁああああああ!」
物凄い魔力が放出され、後ろにいた人間の軍勢は吹き飛ばされた。
まさか……暴走か?




