第121話 序盤モンスターは強敵です!
☆☆☆強敵出現。
自分はジエイミと別れ大きな衝撃が訪れた方へ走る。村人は叫びながらこちら側に逃げてくる。
それを掻き分けて、急ぐ。明らかに何かが起きている。
「魔物だああああ!」「逃げろ!」
村の広場にたどり着く。そこには大きな魔物が……
「ぐるるるる!」
確か……あの魔物はイノシシを大きくしたような『ボボボボア』だ。
ボボボボアは王都などの冒険者ギルドでは初心者向けモンスターとして、無数に狩られていた。所謂雑魚モンスターである。
しかし、村人は逃げ惑うことしかできない。それはヒト族があまりに弱いため、ボボボボアと戦うことはできないからだ。
かくなる自分も……勝てる自信はない……だが。時間稼ぎぐらいなら……って!
「え」
「ぐるるるる!」
唯一逃げずに向かってきたのは自分であったため、攻撃の標的となる。
やばい……突進してきた。それもかなりの速度……あれ……体が動かない。
そもそも、こいつには特殊な能力や駆け引きが存在していなかった。
今迄戦ってきた相手は何かしらの弱点があり、そこを突いて逃れてきたが……
ボボボボアには何もない。つまり、自分が最も苦手とする相手だった。
単純に隙もなく突進してくる。
それだけで自分は倒されてしまうのだ……
気がつけば宙を待っていた。車に轢かれたかのような衝撃だ……
「っぐ!」
数メートル吹き飛ばされ、近くの木に叩きつけられる……
あれ、生きてる。てっきり死んだかと思ったが……
胸に痛みはあるが大きな怪我はない。動けない程じゃないか……
とりあえず起き上がる。相変わらずボボボボアの標的は自分だ。
「エクシリオ!」
そこに逃げ遅れていたミルコが自分の名を叫ぶ。いや、叫んだら標的はそっちに……
案の定ボボボボアはミルコの方へ突進していく。
「あっ……」
ミルコは最弱種の中の一般人だ……自分で耐えられても、恐らく彼女では耐えられない……
「――ちぃ! 間に合え!」
一か八か、ボボボボアの至近距離に光魔法を放つ。さすがに目の前で死なれたら目覚めが悪い。
「ぐるるるる!」
目くらましでボボボボアの軌道は彼女から逸れ木に衝突する。
すぐにミルコの元に駆け付ける。
「早く逃げろって。死ぬ気かよ!」
「で、でも! お前が危ないじゃないか!」
身を案じてくれていたとは……罪な男だなエクシリオ。
「俺のこと舐めてる? 俺が逃げろって言ったら本気で逃げないと。この村最強のやつをどうして心配する必要があるのさ」
「それは!」
知っているさ。心配なんだろ……だが、
「ぐるるるる!」
「俺が死ぬわけないだろ。それにお正直お前がいると邪魔だな。さっさと逃げろ」
すると、泣きそうな顔をして去っていく。
ボボボボアは自分に向かって突進してくる。
「二度目は食らわない!」
横に飛ぶと木の衝突する。その勢いで試しに胴体を一発殴る。
「うおおおおお!」
しかし、あまり効いていない。ダメか……
その後も光魔法と回避を駆使して何とか逃げ回る。かれこれ十分ほど。
「はぁ……はぁ……」
果たして序盤に出てくる初心者向け雑魚モンスターにここまで苦戦する勇者がいただろうか……
スタミナが尽きてきた。しかし、ボボボボアも条件は同じだ。
突進を繰り返している分。ボボボボアの消耗が大きい。
「……ぐるるる……ぐーぐー……」
突進はもう見切った。遅い遅い簡単に避けられる。
「はぁ……はぁ……うおおおお!」
ボボボボアの足を思い切り蹴り飛ばす。
恐らく足にも疲労が溜まってたことだろう。一気に動きが鈍くなる。その隙に、足を持ち……
「勇者式ドラゴンスクリュー!」
足を掴んだまま右側にぐるりと一回転する。これが見よう見まねでやったドラゴンスクリューだ。
「ぐぐぐぐぐ……!」
「貰ったぁ! くらえ! 勇者式サッカーキック!」
そのまま顎下を思い切り蹴り飛ばす。どんな生物だって、これを食らえば意識を失う……はずだ!
「ぐるるる……」
そのまま、ボボボボアは意識を失った。
「はぁ……はぁ……」
自分も疲労でその場に腰を落とす。何度も言うが、序盤に出てくる雑魚モンスターである。
だけど、自分は漸く……ようやく。異世界っぽい戦闘で勝てた。
「よっしゃぁぁあ! 勝ったぞぉぉぉぉぉ!」
素直に喜んだ。
☆☆☆戦闘が終わって
すると、村人たちが自分の元に駆け付けてくる。
「まさか、エクシリオ……これをお前がやったのか……」
村長が話を掛けてきた。
「あぁ、また俺なんかやっちゃいましたか~うぇ~いうぇ~い!」
「魔物が出てきたら逃げろと決まりだろ! 死んでいたかもしれないだろ!」
めちゃ怒られました。まぁ、適当に流したけど。最高の気分だったのにどうして……でも、確かに危険なことをしていた実感はある。
「はいはい~わかりしゃーした~あじゃじゃした~」
「ところで、エクシリオ。怪我はないのか?」
あれ……そういえば、ボボボボアにぶつかった時の怪我は……
「あ、あーないない。全然ないって。俺最強だよ? ほら無傷……あれ?」
……何か違和感がある。あれ、どうして……先程受けた怪我が消えているんだ。
確かに先程突進を食らった時に痛みが走り胸に傷が出来たはずだ。だが今は完治している。
いくらアドレナリンが出ていたとはいえ、こんなに傷が治るのが早いのはおかしい……まるで誰かに治癒されたような……なら誰がした……?
この村にヒールが使える存在は恐らくジエイミだけ……でも、彼女は別の場所に向かって……あれ……?
そもそも、ジエイミはどこへ行ったんだ。二手に別れたが、戦いが終わればすぐに駆け付けてくるはずだ。
最強の勇者ジエイミの実力であれば、ボボボボアより強いモンスターがわんさかいても一瞬で蹴りがつく。
自分がボボボボアに悪戦苦闘している時間は十分前後。ジエイミがこちら側に駆け付けるにはかなり余裕がある。
なら、どうしてこの場にジエイミはいない……?
「どうした……? エクシリオ急に顔を青くして……」
「なぁ、村長。怪我人は出ていないか?」
「あぁ、それなら平気だよ。襲われた者はいたが、皆怪我一つなかったぞ」
いや、おかしいだろ……どういうことだ? なんで、最弱のヒト族が魔物に襲われても怪我一つないんだよ……
何かがおかしい……? いったい何が起きているのかさっぱり分からない。
何を焦っている……だってあのジエイミだ。そこら辺の雑魚モンスターに負けるはずがないだろう。
でももし……それが、ジエイミを超える圧倒的な力を持つ存在がいるとすれば?
その瞬間。
――ドカーン!
「「「「うわぁぁぁぁぁ!」」」」
先程までとは別格の激しい衝撃に村は包まれる……この魔法はジエイミの必殺技だ。
「こ、今度はなんだ……本当に何なんだ! エクシリオ。お前の仕業か!」
確か……『ライトニング・アブソリューション』ジエイミの切り札だ。
それほどまでの大技を行使したということは、相手は自分や彼女が想定する以上の強さを誇っていたことになる……
どういうことだ? そんな奴がこの村にいるとは思えない。だが、現に起こっている。
行くべきか……自分が向かっても足手まといにしかならない。
だが……それでも向かうべきだ……自分は衝撃の方へ走っていく。
不安がある……ジエイミが負けることはない、自分とは違い正真正銘の最強勇者だ。
だけど……何か、自分とは知らない何かが起こっていることは間違いなかった。




