第117話 変わることの勇気
☆☆☆変わること
川のヌシを釣り上げた。かなり脂乗ってる。刺身で食いてぇ……
「確かに昔のことを想うのは悪くないけど、新しいことが出来るのって楽しいだろ。今まで釣れなかった過去を、釣ったことによって超えたんだからさ」
「……でも、それは、君が強引に……迫ってきて……無理矢理……」
ジエイミに聞かれたら殺されそうだな。
「それでも釣ったのはあんただ。自分という変化の要因が、あんた自身を変化させた。つまりこの瞬間瞬間にあんたは変わり続けている」
強引に話を持って行った。
「変わった……僕が……?」
「案外これから起こることを期待しても悪くないってことだ。良くなるか、悪くなるか『よく分からない』って気持ちを胸に秘めて楽しむ生き方もいいんじゃないかな」
「君は怖くないの? これから先は悪い事が起きるかもしれないんだよ。全部を失うかもしれないのに……それでも、変わっていくことを恐れないのかい」
「怖いか……よく分かんなくても、その場その場で、自分にできる最高の生き方をしているつもりだ。だから、怖いって感じる瞬間があっても、それを乗り越えた時に、楽しかったなって、次は何するかって考えるようにしている。まあ死んだら意味ないんだけどな」
ほんとその場しのぎなんだよな、自分のやってきた生き方って。
思い返せば確かにろくな事しかなかった気もするけど、今こうして生きてこられたし、
今の異世界ライフは楽しいと言える。大変だけど生きているって実感が得られる。
ああ、案外この異世界も悪くないもんだ。
「あんたが何を抱えているか分からない。使命に生きたりするのもいいんだ。でも、案外行き当たりばったりの人生ってのも悪くないよってことだよ。納得いく答えじゃなくて悪いかもだけど」
「……ありがと。良い話が聞けたよ。僕はそろそろ失礼する」
「そりゃどうも、その魚どうするんだ? 一人で食うには大きすぎるだろ」
少し、もらえたりしないかな……刺身にして食いたい。
「川に還すよ。ヌシ様を食べるわけにはいかないからね」
もったいない。すると、釣り人は巨大魚を川に逃がした。
「それもそうか、こっちはもう何匹か釣ってから帰るつもりだ」
食いたかったな……
「ところで、君の名前は……」
え、エクシリオのこと知らなかったのか? この村で有名人だと思っていたけど……
そもそも、こいつどこの子だ? えっと……あれ、居たっけ? こんな人。エクシリオの回想で一回も出て来てない。
「あーっと、エクシリオ・マキナだ」
「……!」
名乗ると表情が一瞬変わった気がする。敵意? 警戒。いや違うか……これは……
「君が……あの……エクシリオ・マキナ?」
そういうことか、釣り人は恐らく、エクシリオのことを噂で聞いていた。
しかし、顔を見たことがなかったから、名乗った時に知ったのだ。
『うわ……こいつがエクシリオか、僕こんな奴と話していたのか……』
みたいなことを考えているに違いない。
「……君とはもっと早くに会いたかったな。ほんと遠い遠い昔に……」
だけど、思ったより好印象だったようだ。微笑んでいるし……
「遅すぎることはないと思うけどな。今会えたんだから。ところであんたは?」
「……あ、ぼ、僕は……そうだね。ヌシ……うーん。ヌシグルというんだ」
ヌシグルか。絶対に今考えたろ、偽名だ。絶対川のヌシから取っただろ。
そんなに名前知られたくなかったのか……
「じゃあ、川のヌシ釣ったんだし。今日からあんたが川のヌシだな!」
「え、ヌシ……? うん……それじゃあ川のヌシで……」
「またな。ヌシ」
それだけ言うとヌシは離れていく。
その後魚を数匹釣った。
ザリガニ釣りの経験を生かしたため、数匹逃したが、ジエイミと食べる分の魚は確保できたつもりだ。
さて、帰るか……
しかし、久々にザリガニ釣りがしたくなった。あれたまにやると楽しいんだよな。
今釣っちゃダメなんだっけか?
☆☆☆帰宅中
そのまま木の桶に入った魚を持ちながら帰路を歩く。
恐らくジエイミも待ってくれているだろう。何を取ってきたのかな。
おや、あれは……
何の目的で集まったかは知らないが村の女子たちがいた。
「あ、エクシリオだ!」
確か、回想でミルコと一緒にいた連中だ。トルミだっけか。
「噂本当だったんだ。帰ってきたって。王都ってどんな感じだったの~」
トルミは随分自分に興味を持っていたようだ。それよりも早く帰りたい。魚食いたいんだよ。腹減った。
「あ、あーそうだよ。マジで王都凄かったわ、マジすげぇよ。マジで。マジマジで」
にんにくマシマシで。
「どんなとこが? 私も王都行きたいんだけど、厳しいなぁ……せめてどんな感じか気になってね~」
あぁ、王都に憧れているから気になっていたのか。だけどヒト族がこの村の外に出るのは正直言って自殺行為だろう。
「あーそうだな。まじで建物でけぇし、あと数分おきに馬車来るしさ、夜でもやっている店もある。まだ未完成のでかい建物だってあるしな」
とりあえず適当に上京した地方出身者あるあるでも言っておいた。
「わーお! それじゃあ、あの噂って本当なの? 王都女子は高級食材を食べている姿を画家に描かせてるって、それを見た有名貴族と結婚できるって!」
……港〇女子かよ、あれって、港〇の奴いないって聞いたけど……
言い換えれば王都女子か!
あ、なら、王都女子って、王都出身じゃない奴なのかな。心底どうでもいいが……
「……そ、それは噂だ。大体画家雇うのにいくらかかると思っているんだよ。それに王都女子を目指すのはやめておけ、ろくな未来が見えないぞ」
「ろくな未来がないあなたに言われると説得力あるね! がはは!」
「「「ははははは!」」」
他の女子たちも笑っている。こいつら喧嘩売ってんな?
「だけど~その王都で成功したのが俺です~あんたらの求めている有名貴族より稼いでますから~」
「「「なに!」」」
「それに、お前らみたいな田舎臭いやつに、貴族が相手するわけないじゃん。くだらない夢見るなら、今の旦那さんを大事にしなさいよ~がはは!」
これぐらい位返すのは良いだろう。
「「「この~~覚えてろよ〜!」」」
それだけ言うと、自分は彼女達を無視して帰っていく。
さて、飯だ……飯が食いたい。




