第116話 大物ゲット?
☆☆☆椅子が釣れました
椅子が釣れた現実に釣り人も戸惑う。
「……え、えっと。これが川のヌシ……なわけないか……椅子だし」
そう言われ自分の方を見られても……気まずいな……
先ほどまでドヤ顔で川のヌシを語ってたのが恥ずかしい。
「あ、あ~これは川のヌシではない。その、そう。住民が不要になって捨てたものが、釣り糸に引っかかって……椅子だからな、恐らく釣りをする環境を整えるために……これだって洗えば使えるはずだ。つまりな……そう、清掃活動をしていたんだ! 自然を守るためにな! ほんとちゃんとゴミは捨てるべきだよ! 釣り人としてちゃんとゴミは持ち帰るべきで……あ、これは川のヌシが座っていた椅子だ! そうに違いない。うん!」
駄目だ。さすがに苦しい……
「……変わっているんだね。君」
相変わらず雰囲気が独自だな。
「とにかく、悪いな。邪魔しちまって」
「別に僕は邪魔だなんて言っていない……この場所には一人になりたい時に来てるだけだから。だってここ滅多に人が来ないし……」
やっぱりか、つまり、群れることを嫌うタイプか。この村の連中頭おかしいもんな。
「だから……その、もう少しだけ釣りをしない?」
こんなところでまだ釣りをするというのか……いや、これは要するに自分と話をしたいと言っているのだ。
随分物好きがいたものだな。
「じゃあ、お言葉に甘えて……えい!」
もう一度自分は釣りを始めた。
「ここにある自然が汚染されていくことをどう考える? 先ほどのゴミもそうだ。時が経てば経つほど、ダメなものになっていくだろう。昔はゴミなんて捨てる人いなかったんだ」
突然の問答が始まる。環境問題の話か……
「ゴミ捨てるのは良くない。だって、川に住む生き物が減ってしまうじゃないか。そうすれば絶滅する生物も出てくるんだ」
一般論を言っておく。後は飼ってるペットを捨てる奴とかよくない。
「そう……だね。君はこの場所を守りたいと思うかい? 昔からある平和な場所。楽しかった思い出がなくなろうとしたら、君ならどうする?」
正直守りたいとは思ってないけど、会話が終わりそうだ。
特定外来生物とかそういう話か? 異世界にそんな話聞いたことないけど。
「まぁ地元だしな。だけど、そんな大きく構える必要はないんじゃないの? どうやったって、時間が進んでいけば変わっていくものだろ」
「そういうもの……でも」
「恐らくそれは『過去』って時間があまりに素晴らしかったからそう考えるんだ。つまりあんたは今現在やこれから起こる未来を楽しく思っていない。違うか?」
占い師の経験が生きるな。
「……それは……どうしたって『過去の後悔』に勝てないよ」
過去に大きな失敗をしたのだろうか……凄く暗い表情をしている。
「変わっていくことが怖い。ずっと大切なものを変わらず守っていきたいって……思うのはよくないことなのかな」
釣り人は言う。なんか人生相談されているな。
スキル。占い師(自己申告制)を習得しておいて良かった。
「今や未来は決まったものではない。過去だけはもう既に決められていて。変化のしようがないから、幸せだった瞬間を噛みしめていたいと言いたいんだな」
釣り人は今幸せではないから……幸せだった過去を追い求めている。
つまり、変わることが怖くて誰かと関わったりするのを恐れているタイプだ。
変化が怖い。だから昔のままがいい。つまりは懐古厨だな。
釣り人はうなずいた。
「だけど、あんたがそう思うのは勝手だと思うし、変化を嫌う気持ちもわかるよ……過去の後悔に向き合わないのも自由だ……お! きたきた!」
すると、自分のウキが沈む。そのまま力を入れて引き上げる。
「よっと!」
すると、魚が釣れた。結構脂の乗ったやつだ。サイズ的にアユかニジマスくらいだろう。
塩焼きにしたら絶対にうまい。
「なんだ。普通に釣れるじゃんか」
「魚……釣れたんだ」
「君も釣ってみればいいじゃんか」
「え?」
☆☆☆釣ること
そうして、釣り人の竿を見せてもらうと、釣れない理由が分かった。
「そもそも餌付けてないじゃないか」
そりゃ椅子が釣れるわけだよ。ルアーもないんじゃ無理でしょ。
「釣りが目的じゃないから必要ないと思って、あの、本当に僕がやるの?」
「とりあえずやってみればいい。今まで一度も釣れていなかったんだし、もし釣れたらそん時の成功は貴重な財産だ。やろうよ。ほらよ」
釣り竿に自分が持っていた餌をつけて渡した。
「わ、わかった……やってみる。えい!」
そのまま釣りが始まる。
「釣り名人が教えてるんだから、釣れないなんてことはない。安心してくれ」
嘘だけど。まあ、その気にさせるのはメンタル的にも大事だ。
凄い人に教えてもらってる。だから失敗を恐れずにやる気を起こさせるんだ。
出来ないと思い込むことをやめさせる。つまり自分という存在を自信に変える。
数分後。ウキが沈み魚が引っかかた。
「あ、引っかかった……ど、どうすれば……」
「思いっきり引っ張ればいいんだよ! どかーんって! ばーんって!」
釣りの知識はないので適当にアドバイスする。
「……えい!」
魚が空を舞った。これは大物だ……いや、かなりでかい。え? マジででかい。
人の大きさぐらいあるんじゃないか……くそでけぇ……
それに比べると自分の魚がカスみたいに小さく見える。アユとマグロぐらい差があるぞ。
「つ、釣れた……初めて……」
「で、でか……え、これ本当に川のヌシじゃないか? 食ったら絶対に美味そうだ」
「川のヌシを……僕が……?」
「やったじゃん! ウェーイ!」
釣り人とハイタッチする。
「うぇい? どういうこと?」
分かっていないようだった。
「どうだ。初めて釣った魚の感想は、しかも最初にこんなでかいんだ。開始早々川のヌシを釣るなんて案外才能あるんじゃないか? 凄いよ!」
「……うん。嬉しかった。ありがと……」
釣り人は満足したのか少しだけ笑っていた。
なんだ。思ったより感情は死んでなかったんだな。
帽子から見える中性的な顔立ち。相変わらず性別は分からないな……




