第103話 迷惑客そしてシェフ
☆☆☆キレる男
しまった……絶対めんどくさい客じゃん。喫茶店に入らなければよかった!
巨大な大男は店員に対し怒り心頭。文句を言っている。
「まずいまずいまずいまずい! いったいどうなっているんだこの店は!」
「……この人どうしてご立腹になっているんですか、あれでは他のお客さんに迷惑です」
「会話から察するに思ったより飯が不味かったんだろう。不味い飯を食えばキレる。自然の摂理だろう。空気が悪い店で食べる飯は最悪だ。別の店にしよ――」
「あの! 怒っている人の口周りに赤いものが……あれはなんでしょうか」
いや、知らんよ。確かに顔を見るとケチャップついているが……異世界にケチャップってあるっけか……
ケチャップつけてブチギレてるって、あんまシリアス感ないな。
「止めないといけません……とりあえずあの男の人を無力化――」
恐らくジエイミが止めに入れば簡単に終わる。
「待て。どんな理由であれ店員に怒鳴りつける行為というモノは褒められたものではない。だが相手の事情を知らずに己が主観だけで悪と断罪するのもいただけないな」
「……ですが」
「とりあえず、ジエイミ。落ち着いてあの男を見てみろ。口に赤いモノがついている。そこから何を連想させる?」
「赤いモノ……血ですか? ということは、あの人はあまりの不味さのあまりびっくりして舌を噛んでしまったというわけですね」
調味料より先に血が出てくるって流石はジエイミだ。
「そのまま大量に出血したため怒りに身を任せていたと……それほどの不味い料理が存在するとは思えませんが……」
「……惜しい。恐らく店員が答えるさ」
「申し訳ございません! 先日雇った店員が変な調味料を持ち込んだせいなんです」
店員が深く謝罪をする。つまり、この事態の原因は店側にあるということか?
「先日~店員~そんなの言い訳だ! いいかてめぇら! 俺の口の周りを見ろ!」
すると念入りに口の周りの赤いものを見せる。ついでに自分達にも。
なにもそんな見せびらかせなくても……
「見ろよ! うわぁ! こいつはよエクステンドバスコなんだよ!」
「「エクステンドバスコ!?」」
自分とジエイミは同時に反応する。
『エクステンドバスコ』みんなもお忘れであろうが、この世界で最上級に辛い調味料だ。
主にマジョーナが好んでかけていたデスソースの一種。
それが料理にかかっていたからこの男はキレていたのだろう。
「エクステンドバスコ……それならばこうも怒り狂うのも頷けます」
いや、頷いちゃダメだろ。確かに怒りたくなるが。
「だよなぁ! それに俺はいま『口内炎』が出来ている!」
「「な、なにぃぃぃ!」」
それ絶対痛い奴じゃん。口内炎に激辛料理は拷問だ。
「本当に申し訳ないです! 申し訳ございません!」
店員は謝り続けている。
「どれだけ痛かったか! マジで許さんぞ!」
「あの、ところで、あなたは何の料理を頼んだのですか?」
突然ジエイミが男の会話に入る。やめとけって……
「『キノコの浜』だ」
「「!!!」」
説明しよう。『キノコの浜』とは、カクセイラン王国で流行っている料理である。
キノコを甘いはちみつ漬けすることで市民にも食べやすい人気メニューだ。
そして、キノコの浜を語るうえでもう一つ必要なものがある。
『タケノコの谷』だ。
タケノコの谷は王国を二分割する人気メニューだ。
タケノコを砂糖に浸し激アマにしたものである。
そして市民がそれぞれ『キノコ派』『タケノコ派』に分かれ、日々言い争いをしている。
……どこかで聞いたことあるんだよなぁ……とぼけておこう。
「つまり、この店は『タケノコ派』ということか。それならば合点がいく。まずあんたは――」
「い、今シェフを呼んできました!」
意味もない推理パートに入ろうとしたところをカットされた。シェフが元凶である。
「お前か! キノコの浜にエクステンドバスコを仕込んだ小賢しい女は――ぐわ!」
男は店の外へ吹き飛ばされていく。
「「え」」
そこには、見慣れた顔が……シェフって……
「なんですか? キノコの浜にエクステンドバスコは主流ですよ? 何がおかしいというのです?」
男は気を失っている。圧倒的な力を持つ魔法使い。
そう、コック衣装のマジョーナであった。え、この人勇者機関だったよね。
どうして、こんなところでシェフの真似事やって激辛ソースかけてんの?
「マ、マジョーナさん?」
ジエイミがつぶやく。
「あ」
反応しマジョーナがジエイミに気付いた。
「あ」
そして当然自分も気づかれる。
「エクシリオ・マキナぁぁぁぁ!」
怒りの矛先は自分向いた。やばい!




