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それは雨と共に 前

レオ視点のお話です

昔から雨が嫌いだった。

いつもめんどうな事は雨と共に降ってくるから。


レオはこの国の第二王子として何不自由なく育てられ、年齢を考慮すれば手のかからない聡明で従順な王子だと言われた。

それは対比として、第一王子である兄が何を言われようが、愚行を繰り返してるからだろう。勉学を放棄し、街で夜を明かし、女や賭博で遊んでいるという王子として信じられない噂だ。レオ自身も顔を覚えてすらいない程、城で会う事はなかった。


けれどレオにとってそれはどうでも良かった。

王子として生まれながら、権力に興味がなかったからだ。先代は荒れたようだが、第二王子なら特に王太子になる事はない。恵まれた暮らしをしながら流れに身を任せて生きていた。


「私がアンタなら王位を狙うのに。あんな男に比べたら私の方がマシよ」


姉上のいつもの言葉を聞きながら、本当に代われるならそうしたいと思う。


「兄上はどんな方なのですか?」

「国すら滅ぼしそうな野心家よ。行動も謎だし、理解できないから私は好きじゃないわね」


僕とは一番遠い場所にいる人間かもしれないな


一度会ってみたいという思いは、ほどなく叶った。ある雨の日、外での授業が潰れ部屋で待機していると、何故か第一王子から、離宮に呼び出された。


「お久しぶりです兄上」

「久しぶりという程会ってないけどな。堅苦しい言葉使いはしなくていい」


第一印象はやはり兄弟なのだなと思う程似ていた。少し荒んだ印象なのは下町で学んだ処世術のなごりだろうか。


「今日は何用で…?」

「可愛い弟の顔でも見ようと思って…と言いたいが、ちょっと聞きたいことがあってな。周囲が第二王子がえらく優秀だと褒め称えてるんだが、お前は王位が欲しいか?」

「は?」


いきなりのとんでもない質問に、思わずぽかんとしてしまった。


「考えたこともありません」

「ふうん。ならば行動に気を付けろ。お前にその気がなくても、気が付けば王位継承に担ぎ上げられるマヌケにされんように」


行動に気を付けろはこちらが言いたい


「そういう兄上はなぜ周りに疑問視される行動をとるのですか?」


ちょっと苛々しながら質問すると、エドが面白そうに笑った。


「噂はうまく広がってるようだな、どう見ても俺はクズだろう?」


それを肯定していいものか、むすっとした顔で睨んでいると、気にした様子もなくエドは続けた。


「クズを演じればクズが集まって来るんだ。次代にそんなものはいらないからな。王子であるうちに出来る事をやっているまで」


つまり排除対象をあぶり出そうとしているのか


「自身の評価が落ちてもですか」

「…だからお前に聞いたんだ、王位を狙っているのか」


王位につける可能性が高いのは現在第一王子と第二王子であるレオだけ。周囲を味方につけレオが王位を望むなら争う構えだという、ある意味牽制だった。レオは野心というものを初めて目の当たりにした気がした。


とんだ昼行燈じゃないか


「けれど兄弟で争う事にならなくて良かった。面倒事はこれ以上増やしたくないからな」

「僕の言葉を信じるのですか?」

「目を見ればわかる。お前、何の意味もなく生きてるだろ」


レオをびくっとして目の前の兄を見返した。そして見抜かれた羞恥心のような、否定したい憤りのようなものが湧いた。


「生きるのに意味が必要なのですか」

「実現できる権力があり、変える事も守る事も出来る立場で何もしないのは罪だと思っている、俺はな?必ずしも覇権を狙うだけじゃないが…時間は有限だ。その中で何も見いだせないのは死んでるのと同じだと思わないか?幼いから理解できないか?」


何も言えずに立ち尽くしていると、エドが興味を失ったように手を振った。


「まあ、邪魔をしなければ十分か。下がっていい」


部屋から出ても、兄の言葉がずっと頭に残っていた。


兄は国を見据えての未来を話されていた、では僕は?


王族としての義務だと言われれば、どんな仕事でもしよう。権利だと言われればそのように振舞う事も出来る。けれど志を持てと言われてもレオには理解できなかった。


外はまだ雨音がうるさくて、その音が思考を遮り、尚且つ自分を非難しているように聞こえて耳を塞ぎたくなった。




それから派閥争いが苛烈になる前に、後継者候補を退く構えを示すことにした。表向きまだ兄が王位につくまでは放棄する宣言は出来ない。二人しかない王子の何かあった場合の控えとして。


「王位をお望みでないというなら、婚約者をお決めになってはいかがでしょう」

「第一王子の派閥の姫君は除外ですね、取り込んでいると敵視される可能性があります」

「けれど無派閥から選ぶのは慎重にならなければ」


あーめんどくさい


「でもあまりに身分差があると…そういえば、侯爵家に先月次女が御生まれになりましたね」

「誰でもいいが、せめて人語を話せる年齢にしてくれ。お守は勘弁してほしい」


周りがああでもない、こうでもないと話し合う中、レオはどうでもよかった。誰になったところで大差はなく、ただ兄に敵愾心はないと証明できればいい。


「では子爵家のハワード令嬢は如何ですか?身分は低いですが血統は王家の血を継いでいます。先代の第七王子である父親が早くに亡くなり後ろ盾もありません」


父親が亡くなるとは、肩身の狭い暮らしをしただろうな


レオ自身も母親は亡くなり顔も覚えていない事に、少しだけ親近感が芽生えた。違うのは王子としての身分があったレオは、不自由を感じたことはなかったくらいだろうか。


「殿下とは歳も離れていますので、エドワード王子が王位につけば婚約破棄しても構いません。それに異を唱えられる身分ではありませんから」


婚約者として利用して捨てろと


見たこともない子爵令嬢を少し憐れに思いながらも、特に反対する意志はなかった。

どうせ相手も資金や権力を求めてくるのだろうから自業自得だ。


王家を捨てた王子の娘か


生まれた時から王子として権力争いに巻き込まれ、婚約者すら選べない面白みのない人生だと思っているけれど、レオはこの生活を捨てるつもりはない。何も持ちえない自分が唯一もっているものが第二王子という肩書だけだから。だから身一つで出て行った第七王子の気持ちはわからないしわかりたくもなかった。


この時はまだ、自分が理解できないものは愚かな行為なのだと、灰色の世界に囚われていた。

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