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近くて遠い

ルイとしばらく話した後、ルシルは食事のために一度自室に戻ろうとした。それをルイが手を掴んで止めた。


「なに?」

「前に、君が望むなら逃がしてあげると言ったのを覚えている?」


そういえばそんな事言われたような?


「まだ返事を聞いていなかったから」


けれど別にルシルは監禁されているわけではない。立場上、断れない理由はあれど自分で選んでここに居る。

しかし、望んで王子の婚約者になりたかったわけでもないし、襲われる危険性は考えてなかった。


「そんなの、無理でしょ。今更逃げてどうするの?貴方が一緒に駆け落ちしてくれるの?」


母みたいに…


「ルーシーが僕を選んでくれるなら」

「選ぶ?」


ルイと逃げる事を選ぶなら、レオや身分も全てを捨てなければいけない。

そんな不敬な行動をすれば、社交界はきっともうハワード家の子爵令嬢を受け入れないだろう。


けど、強引な手段を択ばなくても、レオは私が言えば望み通りにしてくれる気もする


彼の失望する顔を見たくないから、言える気はしないけれど。それに母や家の事だって無関係では済まないだろう。


「今度会う時に教えて。僕はルーシーの望みを叶えたいだけだから」


自分がどうしたいか、なんて聞いてくれる人がいるとは思わなかった。


母は父と駆け落ちする時、何を思っていたんだろう。

ただ、お互い以上に大事な物がここにはなかったんだろうと思った。

けれどルシルにはまだ捨てられないものがあるような気がした。




数日後、母から手紙の返事が届いた。その内容を読みながら、対面に居るレオに話した。


「やはり体調を崩していたようです。街で疫病が流行り出してから医者に診てもらう事が難しいようです」

「そうか…。けれど悪化すれば医者がいないのは命取りになるかもしれない。よければ王都の病院にしばらく入院するのはどうだろうか」


王都には医者よりも治癒力の高い神官がいるが、神殿のある王都からは出られないない為、診てもらうためには近隣に住まわなければいけない。

子爵家の領地は離れているため、神官はおろか医者すら人手不足だった。


「そうして頂けると助かりますが、大丈夫でしょうか?」


王都にはまだ疫病の患者は多くない為、感染者をわざわざ招き入れる事になる。


「流石に王宮は無理だけれど、城下町なら問題ないよ。ルーシーの母親なら僕も無関係ではないから」


ルシルはほっとしてレオを見返した。レオはルシルが自分の事を頼りにしないと言っていたが、十分頼っていると思う。何より、ルシルが母をどんなに大事に思っているかを考えてくれるのが嬉しかった。ありがとうございますとお礼を言うと、ぱっと目線を逸らされたがどこか照れくさそうだった。


そしてふっとルイの言葉を考える。

自分は本当にこの生活から逃げたいのだろうかと。


「何か他にも気になる事があるの?」


難しい顔をしていたのか、レオがさらに聞いてきたのでルシルは首を振って否定する。


「そう、では気になる人が?」

「えっ?いいえ…どうしてですか?私変でしょうか?」

「いつも見てるからかな」


咄嗟に否定したが、何となくレオにはバレている気もする。自分よりもずっと聡い少年だから。

けれど、これはレオには相談してはいけない気がした。


「気になる人といえば、この前ルーシーを狙った奴らの足取りが掴めないんだ。何人かは死体で見つかったけど、残りは潜伏してる可能性もある」


レオが話を変えてくれたが、これはこれで気になるものだった。またあんな目にあうのは勘弁だ。


「しばらくはあまり出歩かない方が安全かな。王宮に居てくれた方が護りやすいからね」

「わかりました。では本だけ返しに行ってもいいでしょうか?」

「旧館の方?ああ、なら僕もついて行こうかな。今日は時間があるからね」


そして二人で旧館に行くことになった。護衛は三人で二人は外に、一人は一緒に図書室に付いてくる。


そういえばルイがいたらどうしよう。まだ返事考えてないわ


それにレオとルイが鉢合わせするのは何となく気まずかった。主にルイが余計な事を言いそうで心配だった。

けれどその心配は無駄に終わった。


「今日はいないのね」

「え?」


ルシルの呟きにレオが反応したため、いつもはここにナルシストの変な人がいると説明する。


「へえ、僕も一度会ってみたいな」


レオはあまり他人に関心を示さないので少し驚いたが、やはり会わなくてもいいのではと思いながら、借りてた本を本棚に戻していく。用事が終わりレオに戻ろうと言おうと振り返ると、何かが倒れる音がした。


「何の音?」


ルシルがレオの姿を見つけて近寄ろうとすると、大声で牽制された。


「来るな!」


レオの目線の先には図書室の扉があり、そこには一緒にきた護衛が立っていたはずだが、なぜか今はうつ伏せに倒れていた。そして後ろには数人の人影があった。


それが見覚えのある姿をしていたのにルシルは気付いた。あのパーティーの帰り道に襲ってきた暴漢たちだ。人気の少ない旧館に隠れていたとしたら…。


「それ以上近寄るな。お前たちの目的は殺傷ではなく、私との交渉だろう」

「ええ、王子様が大人しく従ってくれるなら何もしません。けれど女は人質とさせて頂きます」


ルシルはレオと小さく呟きながら、青ざめながら見つめるだけしか出来なかった。


「…女を狙ったのは浅はかだったな。この女は名ばかりの婚約者に過ぎない、例え殺したところで変わりはいくらでもいる」

「では死んでもかまわないと?」


レオはこちらを見ることなく、いらないと言い放った。そこにはいつも見る可愛らしい婚約者ではなく、冷たい権力者の姿があった。


「けれど身分のある貴族を殺したとなると、それは殺人罪になる。当たり前だが私は言いなりにはならないし、大義名分を持ってお前たちと黒幕を処断させてもらう」


奴らの目的は王子を殺す事ではないし、ルシルを殺せば王子が唯一の証人になりえてしまう。暴漢のひとりが舌打ちしながらルシルを縛り、司書室のような場所に放り込んだ。


微かに振り返ったレオの瞳がとても辛そうだったので、大丈夫だよと声をかけてあげたかったが、その声は届くことなく重い扉で隔たれた。

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