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優しい顔

ルシルとレオの二人は、これまでの溝を埋める様に沢山の話をした。


「じゃあレオは王位につく気はないんですね」

「僕がつくべきなら否が応もないさ。でも長子がいるなら、そちらがあるべき姿だろ?だから兄と敵対する気はない意思表示に、最初ルーシーを選んだと言ってもいい」

「私を?」


そこはルシルも聞きたかった。確かルイが自分がレオの婚約者だと王位が遠のく、というような事を言っていたのを思い出す。


「順に説明していくとね、王位継承戦ってのは陣取り合戦なんだよ。国を動かすのは上位貴族だし、どれだけ派閥に力ある貴族を取り込めるかが五割。後は本人の気質にもよるけど、余程母親の身分が低いとかじゃなければ第一王子が王太子になる」


確か第一王子と第二王子の母は同じだったはずだから問題ないのよね


けれど先代は王子が多くてより優秀な人物をと言ったのが火種になり、結局王位についたのは第三王子だった。そしてその子供たちは王女が四人に王子が二人、王位は男性優位なので王権派の派閥はほぼ二つに分かれた。


「何もなければ兄上がそのまま王太子になるはずなんだけど、その、我が強いというか独特の考えを持っていてるから王子らしからぬ行動が目立って、僕に王位をという者が出てきたんだ。先代が前例を作ったのも要因だと思う」


ああ、自堕落な生活をしてるとかなんとかだっけ?


「お話しましたが、噂通りの方には見えませんでしたね。レオの事も心配してましたし」


そう答えると、レオが渋い顔をして睨んでいた。


「いや、それ多分外面に騙されてるから。愚かではないけど、兄上が相応しいかは未だによくわからない。羊の皮を被ったドラゴンだよ」


ルシルは出来るだけ近寄らないでと念押しされる。あまりに必死なのでうんうんと頷く。


「まあそれでも僕よりは相応しいとは思うよ。僕は王になって成し遂げたい事はないからね。きっと発展も改革もしないだろう。だから兄上を後押しするために、これ以上派閥に力ある貴族を取り込まないようにした」


何となく話が見えてきた。派閥に確実に取り込む方法のひとつに婚姻があげられる為、普通は利益に繋がる身分ある令嬢を選ぶ。しかしルシルは後ろ盾のない子爵令嬢で、それでも婚約者としては恥じない高貴な血筋を受け継いでいる。


私はレオの婚約者の条件にぴったりだったのね


「何か、ごめん…結局利用する形で巻き込んでしまって」

「いいえ、どうせ見ず知らずの方に嫁ぐのは当たり前でしたから」


そこはまだ僕で良かったと言って欲しいと拗ねてしまった。難しいお年頃である。


「ルーシーは僕の名前すら満足に覚えてないでしょ」

「いくら何でもそんな無礼ではありませんよ、レオナルド・ヴィンセント殿下」

「僕ら王族は祖父からミドルネームを頂くんだ。僕の場合はレオナルド・アーサー・ヴィンセントだよ」

「そうなんですね、知りませんでした。あっ」


レオはほらねとぷいっと顔を背けてしまったが、その様子も何故か可愛い。


「僕はルーシーの事なら何でも知ってるのに。母はアリア、ハワード子爵家の長女、父はシリウス、王家の第七王子。十六歳で年上のアリア令嬢と駆け落ちってすごいよね。そういえばルーシーは僕と同い年の頃、森で迷子になって泣きながら…」

「ちょっちょっと!なんでそんなの知ってるんですか!?やめてくださいよ」


子供の頃の恥ずかしい思い出を語られるのは勘弁してほしい。婚約者候補になるにあたって色々調べられたのはわかるが、そんな情報はいらないだろう。


「でも父親はそんな早くに結婚したんですね…」

「知らなかったの?」

「母が話したがらないので、自分から聞くのは悪い気がして…。良い思い出ばかりではないでしょうから」

「自分の親に興味を持つのは子供なら当たり前だよ。どうして悪い事なのさ」


何となく既視感を覚えてレオを見つめると、不思議そうに首を傾げられた。


「いえ、最近同じような事を言われたのを思い出して。自分のルーツには興味を持つものだと」

「…それ、誰に言われたの?」


顔を近づけて、何故か真剣に聞いてくるレオに、今度はルシルがたじろいだ。


「え、と、なぜですか?」

「ルーシー、優しい顔してる」


自分の表情筋が分からず、思わず顔を両手で覆うと今度こそレオは不機嫌になった。




次の日、旧館の図書室にやってくるとお目当ての人物はいつもの場所にいた。変わらぬ笑顔で窓辺で手を振っている。


「やあ、僕の天使。会いに来てくれたの?」


ルイに言われると反射的に否定したくなるのは何故なのか。きっとこのむず痒い挨拶によるものだと思う。


「そう、だけど!この前のお礼を言いに来たのよ!ありがとう!でも貴方あの後どこに消えたのよ!?」

「あ~君にとって害のある人間じゃないとわかったから任せたんだよ。僕はあまり貴族に会いたくはなくて」


その気持ちはわかるけど


「心配した?こう見えて、僕は君より腕っぷし弱いと思うからね」

「見たまんまじゃない」

「ははっそれで?今日も何か本を借りていく?」

「そうね…」


何となく、今流行りつつある疫病の事が頭を過った。それ関係の本はあるかと聞いたが、ちょっと難しい顔をされた。


「医療に関してあまりないかな?薬草とか採取に関してはあるけど…病気は素人じゃ判断できないから、結局医者に診てもらった方が早いからね」

「そう、そうよね…。母から手紙が来ないからちょっと気になって。疫病が広がっているでしょう?」

「そうなのか、それは心配だね。僕は王宮の外の事はあまり知らないから」


先ほどの明るさと一転して暗い顔で外を見つめていた。本当に心配するような顔をしていたので、彼の元妻も外にいるのだろうかと思った。


どんな人なんだろう?すごい美人かしら


「…ねえ、奥さんは貴方のどこを好きになったの?やっぱり顔?」

「え?ええ!?」


あまりに突然の質問だったのか、少し顔を赤くして驚いている。ルイのこんな顔は初めて見る。

こんな質問はきっと少し前のルシルならしなかった。レオの言葉を聞いた直後だから気になるのかもしれない。


「なんでそんな事きくの?」

「質問に答えて」

「う、うーん。彼女は僕の顔に惹かれてはくれなかった。それどころか物凄く喧嘩腰で、最初は仲が悪かったよ」

「それで結婚までしたの?」


あまりに飛躍した言葉だったのか、ルイが笑い出した。


「結婚するまでそれは紆余曲折あったよ?でも最初は何でも興味からでしょう?顔とか、言葉とか、人柄とか、それこそ目が合っただけでも、相手を知りたいから始まるんだと思うよ。通りすがる顔も覚えてない人間を好きにはなれないだろう?」

「そう…」


ルイは愛する人と結婚した方がいいと言っていたので、自分はそうだったのだろう。そんな相手と出会えるのは今のルシルにとって奇跡の事のように感じて、少し羨ましかった。


「ルーシーは興味がある人はいないの?婚約者も含めて」

「そうね…」


俯いて考えていると、ちらと上から見下ろしているルイと目が合った。


「あなた」

「え?」

「何を考えているかわからなくて、今の所一番興味あるわ。貴方変だもの」

「変かあ…」


あまり褒められてないのがわかってるのか、しょんぼりした様子がレオを彷彿とさせて笑ってしまった。それを言うとああ、と何故か納得したような顔で頷かれた。


「そう言うなら、ルーシーも僕の妻に少し似てる。少しだけね」


その横顔が特別な人を思い出しているのがわかるような優しい顔だったので、ルシルは似てると言われても、あまり嬉しくはなかった。あの時、思い出を語った自分の顔を見て、レオが不機嫌になった気持ちが少しわかるような気がした。

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