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月明かりの逃走劇

暗闇の中で追いかけてくる足音に青ざめながら、ルシルは必死で頭を働かせる。

先ほど目の前を掠めたものは、銀色の鋭利なものだった気がする。要するにナイフのような武器だろう。


なんで…?!なんで私が狙われるの?


まさか人違いでしたなんてオチはないだろう。ここは貴族も通る場所で、武器などを振り回すだけでも問題になる。


私がレオの婚約者くらいしか原因はないけど…。私が邪魔な貴族ってどの派閥だろう?第一王子?でも先ほど話した様子じゃそんな感じはしなかった


走りながら自室までの距離を考えて絶望する。きっとドレス姿のルシルの足では捕まってしまう。


それに灯りが焚かれているから丸見えだわ


一瞬灯りに気を取られて止まったのが悪かったのか、追いかけてくる賊のひとりが標準を定めて矢を放った。


嘘でしょ…!?


しかしそれは届かなかった。何かルシルと矢の間にいた人物に阻まれたようだった。


「え?誰…?」

「止まらないで!早くお逃げください!」


返事はせずに、ルシルはそのまま背を向けて走り出した。


夜という条件では、逃げる側も追う側も暗闇を味方につければ有利になる。出来るだけ暗い道を選んで走るとそのまま分かれ道で近くの草木の中に飛び込んだ。


「どっちに行った」

「手分けしよう。どうせ女の足じゃ逃げられない」


全員は止められなかったようで、数人が遅れて追いかけてきた。ルシルは木の側で男達が通り過ぎるのを待った。


どうしよう、戻る…?でもさっき助けてくれた人は見えないしまだ戦ってる可能性も…


戻るのはやめて草木に隠れながら、灯りとは反対の方向に進んだ。ここは王宮なので塀で囲まれており、遠回りでもどこかの建物には辿り着くはずだ。


がざがざと進むと草木にドレスがひっかかり、途中派手に破けた。もう汚れなんて気にしている場合ではない。しばらく道のない場所を進むと、見知った道に出てきた。


ここは庭園?じゃあこのまま進むと…


ルシルは数日前に訪れた旧館の前にいた。以前と違うのは門番は居らず、明かりもついていないという事だった。夜は施錠されるのかと思ったが、門を通り扉に触ると普通に開いた。


しばらくここにいようかしら。いないなら誰か探しに来てくれるだろうし、最悪ここなら朝までいてもいいわ


無暗に動き回るよりは生存率が高いだろうと思い、ルシルは身を隠す事にした。それでも見知った部屋はひとつしか知らないので、よろよろと図書室を目指す。


流石にあの人はいないわよね


まさか襲われて逃げた場所があの図書室だとは、数日前にルイとふざけた時間が嘘みたいだと自虐気味な笑みを浮かべて、部屋の扉を開いた。


「嘘…」


そこには何かの絵のように、月明かりの窓辺にルイがいた。暗闇に立っているルシルに気付き、眉根を寄せて近づいてくる。


「ルーシー!?こんな夜中にどうしたの?一人で出歩いたら危ないでしょ」


危ないどころの騒ぎじゃなかったのだが、ルイの顔をぽかんと見た後にその言動のちぐはぐさに笑ってしまった。


「出歩いたらって…ふふ…あは」


そして彼の顔を見て安心したのか、笑いながら涙が出てきた。流石に怖くて堪らなかった事に改めて気づいた。


「ああ…うああ」

「ル、ルーシー!?」


ルイが側でおろおろしながらルシルを見下ろしている。


「うぅ…パーティーでは、見下されて…ドレス汚されるし、帰りに暴漢に襲われるし、手足は痛いし何なの!」


もうめちゃくちゃだ。数回あっただけの他人の前で泣きじゃくり、姿もボロボロでとてもみっともないのはわかっているが止まらない。ルイに笑われたり呆れられても仕方なかった、けれど彼は何も言わずにゆっくりとルシルを抱きしめてくれた。


「!?」

「よしよし、もう大丈夫だよ、落ち着いて。怖かったね」


けれどルシルも抵抗はせずに、そのまま身体の力を抜いて体重を預けた。まるで子供扱いだったが、今はそれでも誰かといると安心した。しばらく互いに黙ったまま時間が過ぎたが、気まずい時間ではなかった。


「…ごめんなさい。もう平気」


落ち着くと自分の醜態が恥ずかしくなり、離れようとしたが何故か離してくれなかった。


「ふふ、ルーシーが甘えてくれるのはいつでも歓迎だよ。ひとりで溜め込むよりも全然いい。周りにはこうやって本音を話せる人はいないの?」


精一杯力を込めて離れようとしたが無理だったので、ルシルは諦めて抵抗をやめた。


「…だって言っても仕方ないもの。けれど貴方には悪態をつけるのよね…」

「悪態かあ」

「そういえば貴方どうしてここにいるの?」

「ん?月明かりは僕と同じくらい綺麗…」

「もういいわ」


言葉を遮り、派手に破れたドレスから覗く足を隠した。それを見たルイが今度は何があったのかを聞いてきた。なので襲われた事、多分自分が邪魔な派閥のせいだろうと話した。


今まで社交を行っていなかった為、ルシルの姿は知られていなかった。それで今日までこんな危険な目にはあわなかったのだろう。


「でも第一王子とは話したけど、私に危害を加えるような人じゃなかったわ」

「騙す人間ってのは皆親切なんだよ。賢い者ほどそれを悟らせない。けれど…今回は第一王子じゃない、第二王子の派閥だとおもうよ」

「え…?」

「もちろん君の婚約者の仕業じゃない、王族の後継者ってのはそれぞれ派閥と言う後ろ盾がいるものなんだ。そして彼らは自分たちが後見する王子を王位につけようとする、自分たちの権力の為にね」


どういう事?私を婚約者にしたのは王族なのに、一部の派閥は納得してないって事?


「私が婚約者だと、レオは王位につくことが難しくなる…?」

「そこは政治的要素が強くなるけど、彼は王位を望んでいないって事だろうね。そして納得できない過激派がルーシーを狙った」


最後の言葉を呟くとルイの顔が強張った。


「正直、ルーシーが巻き込まれて犠牲になるのは看過できない。守る事も出来ないなら婚約者を名乗る資格もない。君が付き合う必要はないんだよ」

「で、でも…」

「どうしても自分じゃ無理なら僕が逃がしてもいい。言ったでしょう?ルーシーの幸せを誰よりも願っているって」

「貴方は…」


言いかけた時、ルイが咄嗟にルシルの口を手で塞いだ。


え?どうしたの?


視線で訴えかけると、ルイはじっと窓の外を見ながら小さく呟いた。


「誰か入ってきた」

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