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第一印象は変な人

次の日、ルシルはさっそく王宮図書館に行こうとした。本当はずっと行きたかったのだが、侍女や王宮に住む人たちとあまり顔を合わせたくなかったので、いつも部屋で過ごしていたのもある。


ずっと籠っているわけにはいかないし、ちょうどレオとの話にも出てたからいい機会よね


しかしその決意は早々と打ち砕かれた。


「王宮図書館は今日は第三王女様が使うので駄目です」

「え、でも図書館は共用の場所でしょう?…なら明日にするわ」

「明日も他の王族の方がいらっしゃるので」


頑としてルシルの言葉を否定するのは、一番ルシルを見下している年配の侍女だった。若い侍女達はあまり態度に出さず普通に接してくれるが、昔から王族に仕えている者ほど突然湧いて出てきたような子爵令嬢に厳しい。


はあ…他の方が使うからって一日中いるわけでもないでしょうに


「こちらではなく、旧館の方にも図書室がありますよ。令嬢が読む分には十分かと思いますので、そちらに行かれてはいかがですか」


旧館って…今はもう使われていない場所よね


ひと世代前の王族たちが暮らしていた場所で、人数の増加と老朽化の為、新王宮として現在暮らしている場所を新築して移り住んでいる。今は誰も居ないが王族の財産をそのまま置いているため現状維持しているらしい。


レオが経費の無駄だから王族の子供達の離宮にでもしようかと言ってたような


「王宮に住まわれている方の出入りの制限はされておりませんので、どうぞご自由に」


そう言うとさっさとどこかに行く侍女の後姿を見ながら、ルシルはため息を吐いた。




庭園を通ってしばらく歩くと、旧館の前の門番に頭を下げる。最初は侍女も連れていないルシルを不審な目で見ていたが、名を明かせば納得され通された。王子の婚約者は良くも悪くも王宮に住む者達には周知される。ルシルの場合不名誉な噂の方が多かったが。


中は結構綺麗なのね。掃除は行き届いているみたい


人がいないので寂しい雰囲気だが、流石は元王宮であり造りは豪華だった。施錠されている場所の方が多く、目的の図書館はすぐに見つかった。


「ここね。お邪魔します…うわあ」


思ったよりも広く、蔵書がほぼ残っている。埃っぽいのは仕方ないが、丁寧に管理されてきたのか装丁はどれも綺麗に見えた。本を見上げていると、髪が靡いてどこからか風が入ってきているのに気付いた。


「窓が…?」


陽が差している窓辺に誰か座っている。ルシルの言葉に反応するようにその人物がこちらを向いた。


「誰?え…?」


近寄ってきたのは若い男性で、ルシルとそう年齢が変わらないように見える。


深い青い色の目…顔立ちも彫刻みたい、外国人かしら?


「あ、ごめんなさい。私はルシル・ハワード、王宮に住まわせて頂いている子爵家の者です。お邪魔だったでしょうか?」


とりあえず名乗ってみたが、男性は目を見開いて固まっている。信じられない者を見たというような顔でちょっと失礼なほど凝視されている。


「あの…」

「ああ、失礼。貴方がとても可愛かったから」

「…はい?」

「僕くらい綺麗な人間はそういないけど、可愛さでは君が断然一番だね」


どうしよう、変な人かも


ルシルは声をかけたことを後悔した。しかしここで走り去っては失礼にあたるだろう。ここで出会う人間の多くはルシルよりも上位の貴族なので、彼もその可能性がある。


「え、あの、貴方も本を読んでいたのですか…」


苦し紛れに話を変えて、当たり障りのない会話でさっさと帰ろうと思った。


「いや、ここの本はほぼ読んでしまったし、窓に移る自分の顔を見て…」

「ごきげんよう!」


ルシルは踵を返して図書館から逃げだした。





自室に帰ってその話をレオにすると爆笑された。


「ナルシストって初めて見ました。なんと返せばいいのかわらず逃げてしまいました…」

「あははは、まあその人綺麗だったんでしょう?」

「ちょっと見ないくらいの美形でしたね。外国人なのか深い青の瞳が印象的でした」

「外国人…でもあそこは王族関係者か清掃の者達しか入らないはずだけど」


大体なんで王宮図書館に行ったはずなのに旧館に?と尋ねられるとルシルは焦った。侍女にされた仕打ちなどはいちいちレオに報告する必要はない。


「高位貴族の方々と会うのは緊張するので、人の少ない旧館を教えてもらったんです」

「ああ、そうだね。僕もあまり会いたくはないな、性格がいいと言える人達ではないからね」


癖が強すぎて逃げ帰ったけど、そういえばあの人は私の名前を聞いても蔑んだりしなかったな


じっと考えていると、いつの間にかレオがすぐ近くに寄ってきて見つめていた。


「まさか好きになったりしてないよね?好みの顔だった?」

「ええ…?そんなわけないじゃないですか。仲良くなった方がいいんですか?」

「なってもらっては困る」


よくわからない問答をしながら、レオが少し言いにくそうにどこか照れた様子で話を切り出す。


「あのさ、今度兄上の誕生祭があるんだ。王族は参加必須で、ルシルも一緒に参加してくれないかな?そして僕がエスコートしたいんだけど」

「なるほど、婚約者の同伴が必須なのですね」


ちゃんと務め上げますと言うと、レオは少し困った顔をした後にそれでいいやと呟いた。


そういえばレオの口から第一王子である兄の事を直接聞いたことはないが、仲はいいのだろうか?後継者問題は時代によっては殺伐とするが、レオが皇太子を狙っている様子はない。


ルシルが知っている第一王子の情報は、誰もが知っている噂程度だ。街に降りては遊び歩いて女性関係も悪く自堕落な生活を送っているとか。


本当かどうかはわからないけど、王宮で第一王子にお会いしたことはないわね


レオが話さないので、何となく聞いてはいけないような気がして第一王子の話をしたことはなかった。けれど今なら話のついでに聞ける気もする。


「ではレオのお兄様にお会いできるのですね。どのような方なんでしょう」

「うーん…よく、わからない。曖昧に言っているんじゃなくて、本当に本質が読めないんだ。立派な方とは言えないけれど、愚かではないと思う」


嫌いあっているわけではなさそう


兄弟の仲に口を出す権利はないけれど、悪いより良い方がいいだろう。思ったよりも認め合っている様子がきけてルシルは微笑んだ。

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