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愛情と恋情

何も言わないルイの沈黙に耐えられずに、ルシルは思わず顔を伏せてしまった。


勢いあまって私、何言った…!?


けれどなかった事にはしないで欲しいとも思った。何か言われるよりもよほど傷つく。

そろりと顔をあげるとそこには、破顔したルイがいた。


「貴方のそんな嬉しそうな顔、初めて見たわ」

「え?嬉しいよ。ルーシーにそう言ってもらえるのは僕の夢だから」


ルイは嬉しそうにしているが、対照的にルシルは少し悲しそうに笑った。


けれど、それはたった今告白された人の表情じゃないでしょ


ずっと本当は気付いていた。ルイはルシルにいつも好意を向けてくれるけれど、それは愛情ではあっても恋情ではないのだと。


「茶化さないでよ。結局貴方が愛してるのは奥さんだけなのね」

「茶化したつもりはないけれど、そうだね。僕はルーシーに恋愛感情はないよ」


はっきり振られると、強張っていた身体の力が抜けた。知らず、とても緊張していたらしい。

けれど涙が出る様な事はなかった。


そしてゆっくりとルイが近づいて抱きしめてくれた。


「貴方ね…こういう事するから、勘違いするんだってば」

「どうして?僕の正直な気持ちだよ」

「さっき愛してるのは奥さんだけって認めてたじゃないの!私の事は愛してないでしょ?なら、こういう事しちゃダメでしょう」


ルイは首を傾げて困ったような顔をした。


「ん~…確かに僕が女性に愛していると言うのは、生涯妻だけだ。ルーシーは愛しているというよりも…」


何を言うのかと眉根を寄せて、自分を抱きしめているルイの顔を見上げた。


「愛おしい」

「え…?」

「世界で一番、可愛くて愛おしいよ」


その言葉を聞くと何だか涙が出そうだった。けれどその涙は、レオと話した時に流したような自分の為の涙ではない。ルシルに恋情はないと言ったのに、惜しみない愛情を与えてくれているような気がしたからかもしれない。それが溢れて涙になりそうだった。


どうしてかしら


最初からルイには、よく悪態さえ付いていた。それは言い換えれば、自分の本音を見せて甘えていたとも言える。どこかでこの人なら絶対自分を受け入れてくれると、そんな気持ちがないと、人は甘えたり我儘を言ったりしないものだろう。


「けれどルーシーも、僕と逃げるという選択は本当はなかったんじゃないかな」


そうかもしれない


それに、もしルイが妻ではなくルシルを一番に選んでくれたとしたら、好きだと思う気持ちは続かなかったかもしれない。最初から妻を愛してると言った彼の事が好きだったから。

結局ルイとどうにかなりたいと思っていたわけじゃないのだと思う。

ただ、愛する事を素直に口に出せる自由な彼がとても眩しかった。


「うん、私にとって恋愛は一番じゃないのかもしれない。何もかも捨てて、父と駆け落ちした母のようにはなれないわ。それよりも大事な優先順位があるみたい」


なぜだが、レオと離れると思った方が余程辛かったのを思い出した。


「そうだね、君はアリアとは違う」


え?


いきなり母の名前が出たので、思わず目を瞬かせた。


「何で貴方が私の母の名前を知っているの?昔、会った事があるって言ってたけど…」


ルシルが覚えてない時に会ったのなら、一緒に母もいただろうからおかしくはない。けれど、その時ルイも同じく幼い子供だったのではないだろうか。


「貴方は誰…?」


にこりと微笑んだルイが、もう一度ルシルを抱きしめた。


「覚えていて。ルーシーがこれから誰かと結婚して、子供に囲まれながらおばあちゃんになっても、ずっとずっと君の幸せを祈っているよ」

「だから、いつも何なのそれぇ…そこまで言うなら傍で見てればいいじゃないの」


自分の姿が映る青い目を見つめながら、泣き笑いのような声を出しながらルシルは藻掻いた。

すると突然ルイが扉の方を見つめたと思ったら、誰かが走ってくるような音がした。


え?


同じようにルシルも扉を見つめた瞬間、いきなりその扉が勢いよく開いた。


「ルーシー!」


入って来たのはレオで、護衛は外に置いてきたのか一人だった。


「レ、レオ…!?どうしたんですか?」


思わず抱きしめてくれていたルイを押しのけて、レオの方を向いた。かなり急いでいたのか、息を整えながらレオは口を開いた。


「お母上がっ…」

「えっ!?」


まさかと思い、青ざめながらレオに駆け寄ったが、レオの顔は嬉しそうに綻んだ。


「意識を取り戻したらしい。もう大丈夫だよ」


ルシルは言葉もなく、その場で座り込むと涙が出てきた。


「本当、ですか…?良かった」


ルシルの手を取って労うように握るレオの手を、同じように両手で包んだ。


「もう少し回復されたら会いに行こう、一緒に」

「はい…!」


それを言うために、息急き切ってルシルの元に走ってきてくれたのだろう。そんなレオが、先ほどのルイの言葉を借りるなら、とても愛おしかった。


「一度戻ろう。詳細が書かれた報告書があるから、ルーシーも見たいだろ?」

「あっ…と、ちょっと待ってください」


ルシルはルイの前に立って、笑って言った。


「いつも話を聞いてくれてありがとう。貴方は私の初恋だったわ」

「光栄だな、僕が貰ったんだから、他の人にはあげちゃダメだよ」

「ふふっそんな大層な物でもないでしょ」


その様子をレオは怪訝そうに見守った。


「そろそろ行くわ。今度は母と会った後にまた来るわね」

「…そうか。じゃあね、僕の天使」


レオと手を繋いで図書室を出て行く時に振り返ると、ルイはいつまでも見ていたいというように見送っていた。その笑顔がとても綺麗で、どこか儚げで、陽の光に溶けて消えてしまいそうに感じた。

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