表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤い波濤  作者: 岩浪命自
1/4

第一話 端乃島

 「なろう」と一次創作は初めての初心者です。

 以後お見知りおきを。

 激しい風雨が吹き付け、海上では高波が荒れ狂っていた。

 大型船ですら航行が危ぶまれる大荒れの海の中を一隻の小型船が進んでいた。

 大波に揉まれる小型船は、這うような速力で押し寄せる波を乗り切り、時には波に呑み込まれそうになりながらひたすら前へ前へと前進し続けた。

 船内に乗り込む一〇名あまりの船員達は荒れ狂う波に臆した様子もなく、一様に確固たる信念を湛えた目を浮かべていた。

 嵐で荒れ狂う海を進む小型船の前に、島が現れた。嵐で視界不良の上に明るさも暗い海上に黒い影を浮かび上がらせるその島を見た小型船の船長は自ら握る舵を島の方へと切り、スロットルレバーを目一杯押し込んだ。

 波に揉まれていた小型船が強引に加速し、島へと接近する。

 あの島へ、と明確な目的と意思を持った船長の舵取りが小型船を島へと導く。荒れ狂う海上はその小型船の島への接近を拒む様に何度も何度も高波と強風を小さな船体に打ち付けるが、それを凌駕するような強い意思が小型船を島へと進めた。

 船長は最初から帰港は考えていなかった。この船に乗り込む一〇名あまりの船員も同様だ。帰り道の事は心配しなくていいのがこの計画の段取りの内の一つだった。

 浅瀬が近くなるにつれて波の特徴も変わるが、船長は慣れた舵取りでその波を巧みに乗り切る。ずっと舵を握り続けてきたせいで手に豆が出来、いくつかは破裂していたが舵をがっしりと握る手に揺らぎはない。

 海図を見やり、GPSと照らし合わせながら位置を確認した船長は背後の乗員に合図を送った。

「上陸する! 全員衝撃に備えろ!」

 合図を受けた乗員が他の乗員に向かって叫ぶと、乗員達は一斉に手近な物にしがみ付き、その時に備えた。

 船底から不気味に思える擦る音が響き、小型船が姿勢を大きく揺るがす。浅瀬に乗り上げて機動力を一気に落とした小型船に容赦なく波が打ち付け、一気に四五度以上も小型船は傾いた。

 船長は最後まで舵を握り、少しでも船がまともな状態で上陸出来る様に姿勢を維持しようと奮戦した。

 最後に船尾から来た高波に乗る様に一気に島に乗り上げた小型船が大きな衝撃と共に動きを止めると、船長は握っていた舵から手を離し、ふうと大きな溜息を吐いた。

 


 嵐が過ぎた後、小型船の乗員は島へと上陸した。

 一人が防水袋に仕舞い込んだ旗を持ち、もう一人が組み立て式のポールを持って島に上陸していた。

 船長が島まで自分達を運ぶべく奮闘してくれた小型船を島の浜辺でじっと見つめている間に、島に上陸した乗員達が島の山の頂上へと昇り、そのてっぺんに組み立て式のポールを突き立て、旗を繋留した。

 ばっと強風になびかされる旗は、赤い旗に五つの五芒星を配した五星紅旗。


 中華人民共和国の国旗だった。



 日本国海上保安庁第十一管区本部に尖閣諸島の最南端の島、端乃島に中国国旗立つ、の急報が入ったのはそれから六時間後の事だった。

 嵐が止んでいつものように領海パトロールに出た第十一管区の巡視船PL90「いぜな」が端乃島の標高五〇メートル程度の小山の頂上に中国国旗が昼がっているのを発見し、更に島の上に一〇名ほどの人影を確認した。

 更に島に接近して確認を試みた「いぜな」乗員は島の影に乗って来たと思われる小型船を確認した。嵐の中強引に島に着上陸した為か、船体は自力での離岸は困難なレベルに損傷しているのが外観からも分かった。

 ひとまず第十一管区本部に緊急電を送った「いぜな」乗員が双眼鏡で監視を行う中、島に上陸している一〇名ほどの小型船の乗員は何のアクションも起こさずに沖合の「いぜな」を見つめていた。

 現場の「いぜな」からの報告で自力での帰投が困難と見られる小型船の乗員の救助を名目に、武装した海上保安官を乗せたヘリコプター、アグスタ139が端乃島へ飛んだ。

 中国国旗を日本と中国の領土問題係争地に建てるだけでも大問題だが、嵐の中を突っ切って島に上陸して来た集団と予想されるだけに、過激派活動家団体の可能性も充分にあった。その為、アグスタ139に乗り込む海上保安官達は64式小銃と防弾ベスト、ヘルメットを着込んで完全武装状態で端乃島へと向かった。

 第一発見者である「いぜな」は現場に留まり、ヘリの支援に当たると共に、近海に展開していた他の巡視船全てが現場に急行した。

 端乃島へ到着したアグスタ139、愛称「かんむりわし1号機」が島へとアプローチを試みる中、島に上陸している一〇名あまりの船員達はじっと島に着陸するヘリを見つめていた。

 小火器を携行していないのを上空から確認した「かんむりわし1号機」の機長が、端乃島へ着陸を行う間、一〇名あまりの船員達は何のアクションも起こさず黙って着陸するヘリを見つめていた。

 銃火器類は持っていない様に見えるとは言っても、小型拳銃やナイフなどを隠し持っている可能性があるだけに、「かんむりわし1号機」から降りた海上保安官達は64式小銃から手を離さずにそろそろと船員達に近づいた。

「我々は日本国海上保安庁第十一管区の者です。責任者は誰でしょうか?」

 隊長が英語で問うと小型船の船長が前へ出た。

「私だ。貴官らも見たであろう船の船長で、乗員一一名の代表者だ」

 名乗り出る船長に隊長は小銃を片手にまずは負傷者などが居ないかを確認する。

「怪我をした方、病気の方はおられますか? この島に上陸した目的は何ですか?」

「怪我や病気の者はいない。島へ上陸した目的は旗を見れば理解出来ると思う」

 ややこしい政治家の問題ごとに発展するぞ、と嫌な予感が脳裏を過る中、島の頂上に建てられた五星紅旗を見上げて隊長は答えは分かっていたものの日本側としての立場を要求した。

「ここは日本国の領土です。不法に上陸し、中国国旗を立てる事は日本側の領土侵害に当たります。速やかなる撤去を願います」

「日本側の言い分は聞き入れられない。我々はこの島の中華人民共和国の領有権を主張すべく上陸した。ここは『歴史的に見ても』中国の領土である」

 強めの口調で返す船長に、隊長はこれは互いに自国の主張を譲らない並行線の展開になる事を予感した。政治家レベルで幾度となく繰り返されてきた駆け引きだ。

 頑として聞き入れる様子がない船員達は明らかに中国人の活動家のそれだった。

 拙い事になったぞ、と隊長が眉間に冷や汗をかく中、隊長以下の船員達は懐に隠し持っていたノリンコ拳銃を引き出した。

「ここは中国の領土だ、貴官らこそが『招かれざる客』である。立ち去れ」

 海上保安官達を感情を吹き消した目で見つめる隊長がノリンコのスライドを引く音が、全ての始まりを告げる合図となった。



 端乃島へ中国人活動家が上陸し、それに対応する為に海上保安庁が部隊を展開させて間もなく、中国海警局の巡視船四隻が端乃島目掛けて日本の領海を侵犯した。

 これに対して、海上保安庁側も巡視船「たけとみ」「なぐら」「かびら」「たらま」を向かわせ、対応に出たが海警局巡視船は海上保安庁巡視船の再三の警告を無視して領海を侵犯し、端乃島に急接近した。

 海警局の船の一隻の進路妨害を試みた「たけとみ」に、海警局側も進路維持でその意思を示し、結果二隻が物理的に衝突する事態に発展した。

 端乃島で海警局巡視船と海上保安庁巡視船が激突した事を受け、事態を重く見た海上保安庁は首相官邸に連絡。

 首相官邸で急遽開かれた危機管理センターの場で、海上自衛隊に現場海域へ調査目的での展開が指示された。



 佐世保基地から発った海上自衛隊第二護衛隊群第二護衛隊あさひ型護衛艦DD109「あさひ」とむらさめ型護衛艦DD102「はるさめ」の二隻は「あさひ」の艦長、御倉健蔵(みくら・たけぞう)一等海佐指揮の元尖閣諸島端乃島へと急行した。

 同時に海上自衛隊はP-1哨戒機、航空自衛隊はE-767早期警戒管制機を発進させ、二隻の支援に当たらせた。

 P-1哨戒機が離陸して直ぐに、御倉一佐の元へ不穏な情報が入った。

 尖閣諸島の北三〇〇キロで艦載機の発着艦訓練を行っていた中国北海艦隊所属空母「福建」が護衛艦二隻を伴い、端乃島へ向けて転進したと言う情報がP-1哨戒機から入ったのだ。

「こちらが動けば、向こうも動くか」

 CICでP-1哨戒機から送られてきた「福建」の位置を示したモニターを見つめながら御倉は呟いた。

 嵐で荒れ狂う海の中乗っ切って来て端乃島へ上陸した中国人活動家だ。明らかに素人では無い。その手の訓練を受けた工作員の可能性もある。

 初動対応に当たった海上保安庁からの報告では上陸した乗員全員が拳銃を所持していると言う。発砲騒ぎには発展していないとは言え、身柄の確保の動きを見せた海保側に拳銃の銃口を向けて威嚇に出たと言うから事態の悪化が予感された。

「副長、『福建』艦隊が端乃島へ到達するのはいつ頃になる?」

 御倉の問いに「あさひ」副長兼船務長の飯田智樹(いいだ・ともき)二等海佐は算出した予測時刻を見て曇りがちな声を返す。

「我が隊と同時刻です。向こうは何かあれば艦載機の航空支援が受けられますが、我が隊は……」

 航空自衛隊の那覇基地に展開する第九航空団のF-15J戦闘機とF-35A戦闘機がスクランブル待機をしているとは言え、「あさひ」「はるさめ」の元へ直ちに駆け付けられる訳でもない。

 無論、中国側も突然問答無用に撃って来たりはしないだろうと御倉は思ってはいたが、心配になった。

 空母「福建」は数年前に竣工した中国海軍の最新鋭国産空母だ。カタパルト三基を装備した中国初の空母であり、そのカタパルトはアメリカ海軍でも実用化が遅れている電磁式カタパルトだ。

 最新鋭のステルス戦闘機J-35やカタパルト発艦に対応したJ-15、KJ-600早期警戒機(AEW)やヘリコプター等を含めれば空母航空団の総数は六〇機ないし七〇機に達するとされる。

 中国はウクライナから購入したアドミラル・クヅネツォフ級空母二番艦「ヴァリャーグ」を修理・改修して空母「遼寧」として配備した後、その「遼寧」を徹底調査して002型航空母艦「山東」を自力建造し、続いて世界初の電磁カタパルト装備の003型航空母艦「福建」を建造した。

 一体どこから電磁カタパルト実用化の技術を習得したのか、と世界中のシンクタンクが調査を続けているが、今のところ明確な答えは出ていない。アメリカから技術を盗用したと言うのが定説だったが、裏付け出来る証拠や根拠が得られていない。

 カタパルトを装備した「福建」のアドバンテージは艦載機に発艦時のペイロード制限を課さなくていいと言う所にあった。

 従来の「遼寧」「山東」ではスキージャンプ方式と呼ばれる発艦方法を取っていた。これは文字通り艦首のスキージャンプ勾配を利用して艦載機を発艦させると言うモノだった。この方法は発艦する艦載機側に燃料、兵装の搭載数に制限を課すデメリットを生む一面があった。一応、バディポッドと呼ばれる艦載機に空中給油機任務装備を施すことで作戦機に燃料、兵装に制限を貸すことなく発艦させることも可能ではあったが、空中給油機運用に作戦機を割く必要が生じる為、実戦ではペイロードに制限を課すことがないカタパルト発艦方式が有利な面が大きかった。

 空母「福建」はその作戦上の制限を解消出来ただけでなく、従来の蒸気式カタパルトとはシステムが異なる電磁式を用いているだけに一部のシンクタンクからはその航空機運用能力はアメリカ海軍やフランス海軍の原子力空母に匹敵するとすら言われていた。

 そんな日本にとって脅威度の高い空母が、僚艦二隻を引き連れて尖閣諸島端乃島へ向かっていると言う。


「中国海軍としては、ある意味デモンストレーションでしょうかねえ」

 不安げにモニターを見つめる飯田に御倉は腕を組み唸る。

「デモンストレーションと我々への威嚇も兼ねているだろうな。まあ、いきなり撃って来たりはせんだろうが」

「今頃、官邸や民間じゃ大騒ぎでしょうな」

「違いないな。官邸の総理達はまあともかく、民間レベルじゃきっと今頃SNSとかで『すわ戦争だ』とか『この機会に中国を叩きのめせ』とか言い合ってるだろうな」

 ため息交じりに言う御倉の予想を確認する術はない。乗員のスマートフォンは今は全て圏外だし、仮に圏内だったとしても警戒部署を発令している今、スマートフォンやPCを弄っている暇はない。



 佐世保を出港して二日後。

 現場海域へ到着した「あさひ」「はるさめ」にやや遅れる形で、中国海軍「福建」も尖閣諸島端乃島の沖合一〇〇キロに接近しつつあった。

「司令官、既に海上自衛隊の護衛艦二隻が近海に展開中の模様です」

 空母「福建」のCICで艦長の李浩然(リー・ハオレン)大校(大佐)の報告に、「福建」艦隊の司令官を務める楊博文(ヤン・ブォエン)少将は無言で頷いた。

 先頭を切って進む「福建」の右サイドには055型ミサイル駆逐艦南昌型DDG102「拉薩」が、左サイドには054A型フリゲートFFG576「大慶」が布陣していた。

「海警局の船は?」

 楊の問いに艦隊参謀の魯大校がCICのモニターを利用して説明する。

「現在、端乃島南西一〇キロに一時後退し、海上保安庁と海上自衛隊と睨み合っています」

「ふむ……」

「海上自衛隊は佐世保から護衛艦『あさひ』と『はるさめ』の二隻を派遣して来たとの事です」

「『あさひ』か……」

 モニターに表示される自衛隊側の艦の名前の一つを呟きながら、楊はその艦名を目を細めて見つめる。

「司令官?」

 どうかされましたか? と伺う魯に楊は大した事ではないと手を振りながら返す。

「去年の我が国でのフリートウィークの際に、『あさひ』が派遣されてきた際にかの艦の艦長とは会った事があってな。まだあの艦に乗っている筈だ」

「ほお、面識があるのですか」

「中々、強かな男だ。私がこの艦に乗っている事を知れば驚くかもしれんな」

 微笑を浮かべて楊は魯や李に向けて語った。

 日本の護衛艦の艦長と面識があると語る楊に政治将校の朱大校が興味深そうな視線を向けたが、深入りはして来なかった。

 


 空母「福建」艦隊が端乃島の沖合一〇〇キロに達する頃、楊たちの元へ北海艦隊司令部から指令書が届いた。

 指令書を読んだ楊は航空団司令の王大校に北海艦隊司令部からの指示を伝えた。

 程なくして、「福建」のカタパルトから二機のJ-15が発艦した。



 後方に展開するE-767AWACS(早期警戒管制機)から、空母「福建」より二機の戦闘機発艦を確認と言う急報が「あさひ」の御倉達の元へ飛んだ。

 まさかな、と思いつつ。御倉は「対空警戒厳に」と飯田以下部下に下命しつつ、「はるさめ」艦長の松井二佐に連絡を取った。

「撃って来るとは思いませんが、一応、対空戦闘も視野に入れて警戒を厳に」

≪司令部からは武器使用許可等の指令は受けていませんが≫

「何かあったら私が責任を取ります。艦と海保の皆さんの身柄の安全が最優先です」

≪了解しました≫

 松井艦長との通信を終わらせた時、対空レーダーを見つめる電測員が「あさひ」の対空レーダーが捉えた機影を報告する。

「方位150、距離五〇キロ、高度五〇〇〇メートル。二機編隊、真っすぐ近づく」

「AWACSより『福建』よりJ-15二機の発艦を確認との報告」

 モニターに二機のJ-15のシンボルマークが表示される。

 高度五〇〇〇メートル。かなり高い。何かしら攻撃を事前に意図していたとしたら見つけて下さいと言わんばかりの高度である。

「撃って来る気は無いな」

 そう呟きながらも御倉は対空警戒を厳にの発令を解かず、様子を見守った。

 二隻の護衛艦へ向かって飛来するJ-15は距離二〇キロまで迫って所で揃って高度を落とし、「あさひ」と「はるさめ」の元へ向かって進路を維持した。

「J-15二機、高度二〇〇メートルへ降下。進路変わらず」

「攻撃態勢でしょうか?」

 緊張感を滲ませて尋ねる飯田に御倉は頭を振った。

「それならとっくに対艦ミサイルのレーダー照射が来ている筈だ。威嚇飛行の為に降下したんだろう。皆、慌てるな、落ち着くんだ」

 戦闘機二機が高度を落として突っ込んで来る事に緊張感が高まるCIC内に聞こえる声で御倉は言う。

 二〇〇メートルまで高度を落としたJ-15二機は更に高度を落とし、高度一〇〇メートルまで最終的に高度を落とした。

 艦の奥にあるCICの中からでも、接近するJ-15二機のターボファンエンジンの咆哮が聞こえてきた。

≪艦橋よりCIC、方位150、高度一〇〇メートルよりJ-15二機こちらに接近中!≫

 艦橋にいる航海長が艦内無線を介してCICにいる御倉達に知らせる。

 刹那、轟と言う轟音と共にJ-15二機が低空飛行で「あさひ」と「はるさめ」の頭上を航過した。

 頭上を通過するJ-15の翼下を見た見張り員が航海長に装備が吊るされている事を知らせた。ミサイルか爆弾かは不明だが、何らかの爆装はしているらしい。

≪艦橋よりCIC、見張り員がJ-15のパイロンに爆装を確認≫

「爆装?」

 怪訝な表情で呟く飯田に御倉も爆装とは何だろうか、と考えを巡らせる。

 J-15が装備出来る航空兵装は多種多様だ。空対空ミサイルは勿論、空対艦ミサイルや空対地ミサイル、対レーダーミサイル、爆弾、空対地ロケットまで様々な兵装を搭載出来る。

 カタパルト発艦が可能になったお陰で、J-15の一度に搭載出来る兵装のバリエーションも豊富になっている。戦闘機としての世代は型落ち気味だが、最新のアビオニクスなどを装備しており、アメリカ海軍のF-18と同性能と見る声もある。

 J-15二機は揃って「あさひ」と「はるさめ」の頭上を通過すると、少し距離を取ってから揃って反転し、再び二隻の頭上を通過する。

「くそ、我が物顔で飛び回りやがって」

「事態を余計エスカレートさせる気かあいつら?」

 艦橋でJ-15を見上げる航海科要員が忌々し気に二機の機影を見上げる。

 何かあった時に備えて、御倉は一応第九航空団に応援機を寄こす様に横須賀の自衛艦隊司令部に要請を出す。

 那覇基地の第九航空団所属のF-15J二機がスクランブル発進した頃、J-15二機は文字通り好きなように「あさひ」と「はるさめ」の頭上を飛び回っていた。

「何だよ、航空ショーのつもりかオイ?」

 エンジンの音を響かせながら自由気ままに飛び回るJ-15を見上げた「あさひ」の航海長がぼやく。

 F-15二機がスクランブルし、向かっていると言う報告を受けた御倉がモニターに表示されるJ-15を見つめていると、不意に二機のJ-15は気ままに飛び交うのをやめ、何か探るような軌道を取り始める。

「ウォッチ(見張り員)、警戒を厳に。様子がおかしい」

 艦内無線の受話器を手に吹き込む御倉に、艦橋の航海長が≪艦橋、了解≫と返す。

 それまで威圧するとも、自由気ままに飛び交っているともとれる機動を取っていたJ-15は何かを伺うような動きを見せながら「あさひ」と「はるさめ」の頭上を旋回する。

「CIWSをスタンバりますか?」

 そう尋ねて来る飯田に御倉はダメだと頭を振る。

「武器の使用許可は出ていない。あくまでも我々は『調査』が目的だ」

「……了解」

 歯痒いと言う表情を返す飯田に、御倉は我慢強い表情を浮かべながらモニターを注視する。

 こちらの動向を伺うような機動を取るJ-15は時折、翼下の武装をちらつかせる様にバンクする。

≪艦橋よりCIC、J-15は二機とも翼下に爆弾を吊るしている模様。ミサイルではありません≫

「爆弾? ミサイルじゃないのか?」

 ますます分からない、と言う表情を浮かべる飯田が困惑した声を上げる。

 爆弾とは言っても、もし当たれば「あさひ」「はるさめ」にとっては大きな脅威だ。

 

 那覇基地から離陸したF-15が到着するまであと五分、となった時、J-15の動きに変化が出た。

 高度を上げて二〇〇〇メートルまで一旦上昇したかと思うと、くるりと上下をひっくり返し反転急降下を開始したのだ。

「J-15、二機、急降下!」

 対空レーダーを見つめていた電測員がレーダーの表示を見つめながら告げる。

 急降下して来るJ-15のエンジン音がCICにも響き渡ってくる中、不意に艦橋でJ-15を監視していた艦橋要員が一様に「何!?」と叫んだ。

 護衛艦二隻目掛けて急降下するJ-15が翼下に抱いていた爆弾それぞれ二発を「あさひ」と「はるさめ」目掛けて投下したのだ。

「J-15が爆弾を投下!」

「シ、CIWSを!」

「待て、落下予想コースは!?」

 慌てて応射を指示しようとする飯田に御倉は鋭い声で電測員に問う。

「わ、分かりません! 本艦のレーダーは対砲レーダーではありませんから!」

 頼りないが、実際そうとしか答え様のない飯田の返事に御倉はもどかしさを覚えつつも、モニター越しに映される爆弾を見つめた。

「航海長、進路そのまま。こいつは当たりはせん! だが至近距離には落ちるかもしれんぞ。総員、衝撃に備えろ。『はるさめ』の松井艦長にも下手に動くなと伝えろ。下手に動いたら逆に当たるかも知れん!」

「了解!」

 ひとまず御倉の判断通り進路を維持する「あさひ」と「はるさめ」の頭上を機首を引き起こしたJ-15が通過する。マストすれすれの高度を轟音を立てながら飛び抜ける中、二機が二隻に向かって投じた爆弾は、御倉の判断通り「あさひ」と「はるさめ」の両舷側の至近距離に着弾し、着水の水柱を突き上げた。

「応急長、被害報告!」

 即座に応急指揮所の応急長に艦の被害の有無を確認する飯田に、応急長から暫しの間をおいて「被害なし」の報告が上がる。

 二隻の護衛艦の両舷側に着水した爆弾は爆発する事も無く、そのまま海中へと沈んで行った様だ。

 大した腕前だ、と精確に自分の艦の両舷側の至近距離に爆弾を投じたJ-15のパイロットの技量に御倉は感嘆すら覚えた。

「威嚇の爆撃か。通信長、艦隊司令部と官邸に報告だ」

「了解」


 爆弾を投じたJ-15はリアタック態勢に入る事も無く、母艦へと戻る進路を取り二隻から離れて行った。



 その日の内に、日本政府は中国大使館を通じて中国政府に中国海警局に端乃島へ上陸した活動家一一名の身柄を引き渡す事を条件に、空母「福建」艦隊の撤退を要求した。

 事態悪化による日中の武力衝突を懸念する日本側の譲渡したこの提案は中国側に即日受諾され、後に「端乃島事件」と呼ばれる日中の緊張は一応の決着を見せた。

 しかし、この時の日本政府の姿勢は国内から「弱腰外交」「利敵行為」として痛烈な批判を浴び、低調だった内閣支持率は暴落し、一か月後には内閣総辞職に至るまで日本国内の政治情勢は荒れる事となる。また同時に日本国内での対中国感情がSNSを中心に悪化し、事件とは無関係の在日中国人や中国系企業に対する日本人の風辺りが一気に悪化する事態にもなった。

 中国国内でも一時的な対日強硬論が国内で盛んに主張され、在日中国人への日本国内での扱いに対する報復として在留日本人への風当たりが一時的に悪化する事態が発生したが、暴動や日本商店への破壊などの事態には至らずに済んだ。



 端乃島での一件後、一か月ほど報告書の山の処理や事情聴取などの対応に追われる羽目になった御倉と飯田はその後、揃って「あさひ」の艦長、副長の職務を解かれ、別部署への配置換えを自衛艦隊司令官の大山隆斗(おおやま・りゅうと)海将から直々に言い渡された。

「アメリカ……ですか?」

 配置換えの辞令を読んだ御倉は行き先の文字と大山の顔を交互に見ながら聞く。

「最新鋭艦の艦長の職を君に頼みたい。『端乃島事件』で確かな状況判断を見せた君になら頼めると判断した」

「最新鋭艦……『例の艦』ですか」

 アメリカで建造と乗員含めた要員の練成が行われていると言う海上自衛隊の最新鋭艦の話は、御倉も聞いていた。

 いずも型ヘリコプター搭載護衛艦で培った固定翼機運用のノウハウを存分に反映した最新鋭艦が、アメリカで建造されていた。国内のドックはもがみ型多機能護衛艦やたいげい型潜水艦の建造で忙しく、また固定翼機を搭載する艦の建造ノウハウに長けたアメリカでしか建造を頼めないと言う理由からだった。

 また抽出できる国内の造船技師を送れるだけ現地に送って建造にも関与させ、艦の諸々の技術を提供してくれていると言う。

「アメリカ海軍に頼んでいた艤装委員長は先日、日本人に交代する事が決定した。君には艤装委員長として、初代艦長としての任を与える事になる。

 向こうではかなり忙しくなるぞ。心してかかってくれ」

「了解です。で、最新鋭艦の副長は?」

「君の前乗っていた『あさひ』の飯田二佐を当てておいた。付き合いも長い彼とならやっていけるだろう?」

「飯田とですか。承知しました」

 また飯田と組める事になるか、と嬉しさを感じる一方で、責任の大きさにじわりと緊張感も高まる。

「ところで、最新鋭艦の艦名は何と名付けられることになっているのです?」

 艦長職を拝命したのだからそれ位のネタバレはして貰いたい、と言う御倉の言葉に、大山は微笑を浮かべて答えを口にした。

「『しなの』だ。固定翼機搭載護衛艦『しなの』」

「『しなの』ですか……先代はたった一〇日の命だった大和型戦艦三番艦改装の巨大空母」

「そうだ。縁起が悪い、と言う声もあったが、現代でその縁起の悪いイメージを払拭してくれる働きを期待して防衛大臣と熟慮の末決定した。

 向こうで三か月後に予定している進水式を行う際に、一般にも公開される」

 固定翼機搭載護衛艦「しなの」。戦後日本が本格的に保有する事になる空母の名として八〇年以上の時を経て日本の防人の船の名として復活するその事に、御倉の心の中ではその先の航海がどうなるのか期待と不安の両方が湧き上がっていた。

 ハーメルンやピクシブで二次創作をメインに活動しているので第二話以降の投稿は超絶スローペースになりますが、どうか長い目でお付き合いいただけると幸いです。

 本作及び私個人からのあらゆる団体、政治界隈への批判等の意図は一切含みません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 元ネタよりもよりリアルに尚且つ丁寧に仕上げられていて非常に良かったです。 固定翼機運用艦を日本ではなくアメリカで建造するのは盲点でした。人員を沢山送ってるという事はノウハウの供与がしっかり…
[良い点] 空母いぶきのストーリーに沿いながらも、続編であるGREAT GAMEの要素も取り入れた上でオリジナル要素も入っており全く同じ展開にはならないことを予想させるスタートだと感じました。 これ…
2022/12/11 18:34 趣味全開人生
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ