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再輝

 えっと……なんでこの人、自殺しようとしてんの?


 卓上に立つ小人、第三課長スローニンは突然銃を抜いた……銃を抜いて、すぐにその銃口を自分の頭に向けている。

 メイはその行動に、取るべき対応に困ってしまい……途中まで伸ばした手を動かせないでいた。


「……何がしたいのかわからない」

 と、隣から聞こえた馴染みのある声と口調でメイは我に返り……敵意がないなら、まずは話を聞こうと声を掛ける。


「なぜ今、貴方は死のうとするのですか? まずは落ち着いて、理由を聞かせてください」

「先ホド、顛末ヲぺどろカラ聞イタ」

 スローニンは銃を下ろしてはくれなかったが、とりあえず話をしているうちは……早まらないだろう。

 メイはまっすぐな視線をスローニンへ向けて、傾聴しようと意識した。


「小生ハ今回ノ異界侵入ノ際、麾下(きか)ノ者ヲ統率シキレズ……」

「し切れず?」

「副官ガ十数名ヲ連レ、あうぐす課長ト合流……反乱ニ加担サセテシマッタ」

「反乱に加担……したとは限らないのでは?」

「ソレハ、ぺどろカラ……」

「私が各所へ設置していた隠しカメラに、第三課の副官たちが率いる部隊の動きが捉えられていましてナ」


 各所に隠しカメラ? そんなことが、ペドロ課長の一存で可能なのか?


 メイはペドロの説明に強い違和感を覚え、思わず視線を動かしそうになったが……踏みとどまった。

 今のところは、スローニンの生命より優先すべき疑問ではないはずだから。


「隊カラ、局長ヲ害スル賊徒ヲ出シテシマッタ……ソノ責、負ワネバナラズ」

「スローニン課長……」


 つまり、部下がエステルの反乱に加担した、それを止められなかったから責任を感じて自害したいってことか。


 ……いやそれは困る。課長級が一人管理局からいなくなる、そうなると課長級一人分……の何割かが、私の仕事になる。

 さらに仕事が増える、それは困る。


 生き残った人材は、なるべく活かさないと。



「貴方の言い分は分かりました、しかし……それなら、責任を感じていると言うのなら……逃げないでください」

「逃ゲ……」

「貴方の部下が独断で管理局の破壊、局長の殺害に荷担したことを悔いるのなら……」

 メイは語りかけながらテーブルへ身を乗り出して、


「……貴方が責任を持って第三課を、管理局を立て直してください」

 句を継ぎながらスローニンに詰め寄り、顔を近づける。


「そうせずに自殺して逃げることのほうが、よっぽど無責任です!」

 そしてメイは、スローニンの間近で語気を強めた。


「めい課長……」

「生涯を懸けろとは言いません……せめて、局の体制が整うまでは……力を貸してくれませんか」

 スローニンの表情が微かに揺らいだのを感じて、メイは目を見開きながら……今度は静かな、頼みこむような調子を意識して声を出す。


 そこには、少しだけ……メイの本音が混ざっていた。

 局長が復帰して、局の体制を立て直せたら……その後は。


「……小生ハ……」

 スローニンが(つぶや)きながら、力なく銃を下ろした。メイは視線の端でそれを認めて、スローニンの身体へ両手を伸ばす。


「お願いします、スローニン課長……」

 肩から上腕の辺りを(つか)んで、メイは祈るように目を閉じていた。


「……フフ、フフフ……貴女ガ有事ノ際ノ代行者トサレタ、ソノ理由ガ解ッタ気ガスル」

 初めて聞いたスローニンの笑い声が優しく思えて、メイは何となしに彼を掴む手を緩めていた。


「……今日一日ダケ、考エサセテホシイ」




「スローニン課長を一人にして、良かったのですかナ?」

「まだ安心はできない」

 スローニンが立ち去ってしばらく後、会議室に残っていたペドロとマリエが口を開いた。


「戻って早々、あまり追い詰めすぎても……と思ったので」

「それにしても……代行どのと呼ぶにふさわしい、見事な立ち振る舞いでしたゾ」

「メイはやれば出来る。私は疑ったことがない」

「……あまり買いかぶらないで」

 まだ状況が具体的に好転したわけじゃない、今のうちから持ち上げられても気が重いだけ。

 そう捉えてしまうメイの心中は、あまり明るくはなかった。


「いやいや、本当に……さて、暖かい飲み物でも飲んで、少し休憩しましょうかナ?」

「私は要らない。メイは……」

 私も要らない、と答えようとしたところ……ペドロの身体から機械的な、大きな音が鳴り響いた。


「はいナ、こちら疾風ペドロ……第四課? ふむ、なるほど……では代表者を何人か適当に、こちらへ向かわせてくれますかナ? では、さらばですナ」


 ペドロによると……帰還拠点(ターミナル)からこちらへ、今度は第四課所属の管理官が向かっているとのことであった。

 彼らの到着までに少し時間があることから、メイは一旦会議室を出て……睡眠導入装置で眠るタムの様子を見ておくことにした。


 空き部屋に置いてもらった睡眠導入装置、その中には……薄笑いを浮かべているように見えるほど安らかな寝顔で眠るタムの姿があった。

 その姿を目にして、ひどく安心したメイは会議室に戻る。



「おお、代行どののお戻りですナ」

「まだ第四課は来ていない、他にもとくに問題はな」

 ちょうど、問題ないとの報告を聞き取る直前……マリエの声が来客を告げる電子音にかき消され、同時に門前の様子を映す画像が会議室の壁に表示された。


 そこには……以前に異界で見かけた獣人によく似た、馬のような頭部……というか白い馬面と、馬面と似た背丈でありながら頭や腕の所在すら見て分からないほど多量の茶色い毛に覆われた物体が映っている。


 ……第四課の課長……か? こんな外見だったっけか?

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