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いきなりベトベトでやんなっちゃう

「うんうん、やっぱどんな美味しい肉も……酒が一緒じゃなきゃねぇ」

 とこぼしながら、しみじみと(うなず)くメイの姿。かわいい。けど少し心配。



「飲み過ぎはよくない……」

「あははっ、わかってるって……そ〜んな説教じみたこと言わないでぇ、マリエちゃん」

 メイはいつもよりずいぶん酔っているらしい……数日ぶりに帰ってきたとはいえ、酒を飲めるのがそんなに嬉しいのだろうか。


「ちゃん、なんて私には似合わない……」

「もー、そんなの気にしない気にしないの〜……あ、おかわりいる?」

「メイにあげる、私はいらない」


 肉はともかく、酒なんか飲んだって……(こころ)の力も(いのち)の力も、強まりはしないのに。

 酒を飲むのが楽しい、というのもよく分からない。


 けれど、酒があっても無くても……メイと一緒に過ごすのは楽しい。

 楽しいし、時々ドキドキする。



 表情や態度にこそあまり出ていないが、マリエ……暗めのホワイトベージュというような薄い髪色の癖っ毛を伸ばした、青い瞳の女はいつも……メイとのお喋りを楽しみにしている。

 だからお互いの予定が合ったときは、たいてい会っている。


 ……メイが局長と逢うことを知っている日と、その翌日を除いて。



 なんにしても、今回も……メイが無事に帰って来れてよかった。





……………………………………………………………………………………………………………………………





 今回は手短な仕事になりそう。つまり、あまり遊べなさそうということでもあるんだけど。

 依頼の目的もその背景も聞いているし、依頼を完遂できないことによる影響も『未来予測』ではっきり分かっている。言ってみれば一本道というやつだ。

 現地語翻訳の適用も事前に受けて、面倒な処理をすべて終えてからの異界侵入。


 裏を返せば、現地であれこれ調査したり、情報をまとめたりしているような状況ではないということなのだろう。



 白い壁の小部屋の中、いくつかの無機質で合成的な声が響き合っていた。


「目標地点周辺面に生体反応はないか……検出なし、クリア!」

「生存性パラメータの確認よいか!」


「ふん囲気組成ふつう、温しつ度やや高め、重力低め、病原性び生物少なめ、なんとか線量多め……だけど前の作業員もチェックしてたから全部ヨシ!」


「適合性確認完了? ……えと、異界転出、準備できたです!」



「了解、みんなお疲れ様」

 メイの声に従って、室内のあちこちに散らばっていた小さな半透明の人影たちが透過度を高めていき、やがて消えた。



 作業員に、一人頼りないヤツがいるなぁ。なんか不安だし、早めに代えてもらったほうがいいんだろうか。


 というか、前……? そうか、今回の依頼は……誰かが失敗した、その尻ぬぐいでもあるのか。

 何となくそんな気はしてたけど……そうとなると、あまり油断はできない。気をつけないとね。





 異界に侵入したばかりで既に……奇怪な生物の胎動を思わせるような、ときおり脈動するピンク色の壁に四方を囲まれていた。


 ここは一体……?

 生体素材の一種が用いられた部屋、なのだろうか?



 壁沿いに歩きながら室内を見回してみるが……自分と壁以外に動くものはない。


 で、あれば……まずはここから出なければいけない。

 今回の目的は……この異界で戦いを続ける「ダン・ウィンロウ」という男を手助けし、侵略者を討ち倒した英雄、救世主として生存させる……こと。

 少なくとも彼はここにいないようだから、まず人……彼でなくてもいいから、誰かから話を聞ける場所へ出たい。


 しかし出口が見当たらない。


 困ったな、こんな場所であまり時間をかけたくない……


 メイはもう一度壁沿いに歩き、今度は壁を触ってみたり、軽く叩いてみたり、ヒダのような出っ張りをつねってみたりした。

 するとちょうど壁沿いを一周したあたりで、壁のある一か所が割れ目のように裂け崩れて、そこがヒクヒクと(うごめ)いているのが見えた。



 その様子はどこか、なんというか……誘っているかのような。

 まあとりあえず、他に道はないみたいだし……行ってみよう。



 メイは少し狭い口を手で押し拡げながら奥へ進んでみた。

 出口から一歩踏み出したところで、目の前は同じ色の壁だった……と、身体は落下していた!



 落とし穴にハマった!? 大丈夫かな……


 辺りは薄暗く、少し生臭い。そのなかで、細い管らしき構造を、斜めに滑り落ちていく。


 うえっ、ちょっと待って何この感触!? ヌメヌメしてて……気持ち悪い!!


 ふとももに、腹に、胸に、顔に……柔らかくよく滑り、それでいて粘り気のある壁が貼りつき、ぬちゃぬちゃと身体を撫でていく。

 メイは鳥肌が立つほどの寒気を感じて、慌てて体勢を入れ替えた。単に不快だからというわけではなく、壁に膜を張る粘液? で鼻や口を塞がれるのを防ぐためにも。


 時々降下の向きが変わるため、うまく力を入れて仰向けの体勢を維持するが……管の内部自体がやや狭いため、背中だけでなく左右の手足にも粘ついた壁が続々と触れる。


 そうしてほぼ全身が粘液まみれになった辺りで、吐き出されるように別の部屋へ突き飛ばされた。


 辺りを見回してみるが、それよりも謎の液体による身体のネバネバが気になってしまう。

 今のところ皮膚や服への被害はない? みたいだけど……少なくとも精神的にはとても有害だ。



 来て早々、気持ち悪い……くさい、つらい……携帯浴室や着替えは無事かな……


 それはそれ、まずは周囲を確認して……

 少し色味が赤茶に変わっているが、先の部屋と似たような壁……が一方を塞いでいた。

 しかし振り向いてみると、壁の反対側と向かって左側が大きく開けていた。


 そしてやはり、壁以外に生き物の気配がしない。


 目立った危険はなさそう? だけどここでシャワーを浴びても、またさっきみたいな目にあわないとは限らない……

 どうしようかな……



 と、メイの背後、壁から……しなやかでぬめやかな(ツタ)のような、軟体動物の()()と思しき触手がいくつか生え出て……

 メイの肢体を捕らえようと、にじり寄っていた。

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