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改生

 翌日……


 明日には仮の帰還拠点(ターミナル)が稼働しますゾ。今後、少しずつ……異界から管理官たちが戻ってきますナ。その前に是非……


 との文句でペドロに呼び出されたメイは、タムを連れて地下研究施設の一角を訪れていた。


 眼前の扉……ペドロが二重のセキュリティロックを解除して、メイたちを先に入室させた。ただ扉の先では、


「ひろーい、ぎゅ〜ん」

 タムが突然走り出していた。


「タム、ちょっと待って! どこ行くの!?」

 メイの呼び止めにも振り向きすらせず、どこかへ走り去ってしまう。


「走り回ったら危な……」

「ご安心くださいナ、ここは私が選りすぐった最小限の人員……信頼できる職員しか入れませんでナ」

 追って部屋に入ってきたペドロは、心配不要だと言う。


「いや、そういうことではなくて……はぐれてしまったら」

「寂しがるだろう、と? まったく、優しいお父様ですナ」

 メイの心配をよそに、ペドロは緊張感のない笑顔を見せた。ただしその笑顔はすぐに改められる。


「しかし、しかし今は……」

「今は?」


 ……何を言いたいのだ? 今だと、何か問題でもあるのか?


「あいや、彼女には少し刺激が強すぎるかもしれませんからナ」

「刺激? それは一体?」

「もうすぐ着きますゾ、せっかくなので彼女より先に……まずは一目見てくださいナ」


 そのために呼ばれたのだし、従っておくか……とメイは一つ(うなず)いておいた。

 ペドロの先導に従って少し進んで、再度セキュリティロックを解除した……飾りっ気のない扉の先には。



 シリンダーが立っていた。

 薬液で満たされているらしい円柱状の……大きなシリンダー。

 その中に、人影が一つ見える。少し暗くて見えにくいが、小柄な裸体が浮かんでいる。


 パチリと音がした。スイッチの音だ。

 それに伴って、灯りがシリンダーを照らし……人影を明るく、はっきりと視認させる……

 その姿は。


局長(ショボー)!!」

 視認できたその姿は、一目でわかった。

 見間違うはずはない。恋人の身体だと。


 銀色の髪、目鼻の立ち、華奢な肩に腰、押しなべて小さな身体……

 あの子の、姿……


 メイは意識の全てを()()に占められて、シリンダーの真下まで一気に飛びついていた。


「ど、どうして…………」

 しかし、なぜ局長の肉体がそこに在るのかという疑問が湧く。

 管理局をすっかり更地と化してしまった大爆発の、その爆心地に居たはずなのに。

 その疑問と、肉体が液中で力無く揺らめく……生を感じさせない様子から受ける喪失感に、戸惑ってしまう。


 戸惑いが頭の中を、いや身体中を何往復かして……胸の内をひしゃげさせて、膝を無力に折らせて。


 メイは座り込んで声も出せなくなり、ただ呆然とシリンダー越しに少女の肢体を見上げていた。


「そろそろ、私の話を……代行どの?」

 声は聞こえているが、メイは応えられないでいた。それどころか、視線すらシリンダーから外せなかった。


「代行どの、困りますナ。この程度で狼狽(うろた)えていては」

「この程度? そんな、そんなこと……」

 しかし続いたペドロの声が冷酷に聞こえて、心中に湧き起こった反発がメイの口を開かせていた。


 そんなこと、言われたって……こんなものを見せられて……


「貴方は……貴方は何の目的があって、こんな、悪趣味な!?」

 声が震えていた。


「悪趣味、悪趣味……そうかもしれません、ナ」

 思わず(なじ)ってしまったメイに対し、ペドロは何やら合点がいった様子ですんなりと指摘を受け入れる。


「な……そう簡単に認められるのなら、なぜ!?」

 悪趣味と分かっていて、どうしてそれが成せるのか……今のメイには理解ができない。

 冷静であれば、単なる露悪趣味かもしれないと波風立てぬよう流せたかもしれないが。


「ええ、悪趣味……悪趣味とは申せ、これは……実は、局長の意向でやっていましてナ」

「……局長の?」

「はい、それを貴女に知っておいてほしかったのですゾ」


 よくよく考えたら、それもそうか。

 局長どうこう関係なく、彼の一存でこんなことはできない。人形を一人で作って、自室に飾って眺めている程度ならともかく……ここには他の職員もいるんだし。


「なるほど、けどそれならもう少し、センシティブな……配慮をされては?」

 ようやくメイは立ち上がり、背後のペドロへ向き直す。


「それも、局長は承知の上でしてナ。処理薬剤の純度維持や外観からの早期異常察知など、あくまでも作業能率、成果を最優先で……という指示ですゾ」

 どうやら単に局長の姿を再現しているのではなく、何かしら別の意図があってやっていることらしい。

 それも、冷静に考えれば当然なのかもしれないが。


「技術的な話をされると、私にはあまり強く言えませんが……」

「ただ()()()()ので、公私両面で貴女にはご一報を……というわけですナ。本当はもっと早くお話しすべきだったのですがナ」

 ペドロはメイの隣まで歩み出る、ただし顔は(うつむ)き気味で。


「しかし代行どのがあまりにも落ち込んだご様子だったので、話すタイミングをつかめなかったのですゾ」


「進捗の順調さというか、成功のメドが立つまでは迂闊(うかつ)に話せないナ……と思いましてナ」

「成功? なんの……」

 メイは質問しかけたところで……一つの答えを閃く。


「ま、まさか!? いや……」

 閃きはしたが、すぐにそれはあまりにも都合の良い……妄想じみたものだと考え直す。

 メイは口をつぐんで俯き、首を左右に振る。


「どうかなさいましたかな、代行どの?」

「いえ、何でもありません」

「フフ、前にも言いましたナ? 貴女はとても察しの良い方だと……ナ」

 ペドロには、メイが何を考えたのか予想がついたのだろうか。


「実は……このような事態に備えて、局長と我々とで秘密裡に研究を進めていたのですゾ」

「研究とは、殉職者の蘇生……ですか?」

「その通り、局長自らが被験体……というのは想定外でしたがナ」

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