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けだもの×けだもの

「んっ、あ……」

 ……少しぼやっとする。それに喉と頭が痛い。

 そうか、確か、絞められて……だから頭が痛いのか。


 だから、腕も脚も動かないのか。



 頭痛は嫌い。

 けどイヤじゃない。彼女がくれたものだから。




 メイは目を開く。

 すると自身の胸のふくらみ、その上下に紐を走らせて挟んで……それらを強調しようとしている銀髪の少女の姿が見えた。


「うーん……こっちはやっぱナシでいいかな?」


 そしてそれとは別に、目には見えないが……手を後ろに回して椅子の背に括りつける紐と、スカートの下で開いた腿を膝の辺りで椅子の脚に括りつける紐が身体に密着しているのが分かる。


「またか……やっぱり」

 想定の範囲内……思わずため息をついた。



「ねえショボー、いつも言ってるでしょう? 縛るなら先にアウターくらい脱がせろって」

 メイは、怒りというよりは呆れた様子でショボー……銀髪の少女をたしなめる。

 しかし失神している間に身体を椅子に縛り付けて拘束していること自体には、特に文句をつけない。メイもそのことについては、すっかり許容しているのだろう。


 そして、「予め服を脱がせろ」というのは……その後二人がどうなるかを理解し、それを許容しているからこその物言い……なのだろう。



「あ、ごめん……めんどくってついね〜」

 彼女は胸元に絡んでいた紐を外して放り投げつつ、メイの正面に回った。

 そして、椅子に括りつけられたメイの腿に跨がるようにして身体を寄せる。


「ねえ、ほら…………んっ、ん……」

 そこから顔を伸ばして、メイの赤い瞳と見つめ合った金色の瞳を閉じてから……二、三度軽く口づける。

 そうしてから、顔をメイの首筋へと下げた。



 首の前側はあまり反応しないと、知っているはずなのに……珍しい。キスマーク……か?

 そうか、もしかしたら……私とリンプーとのひとときも、局長権限である程度確かめているのかもしれない。そんなこと、管理局の誰が知っても、権力の濫用だと反感を持たれそうなものだが。


 そんなことを気にするショボーじゃない、か。



「いっッ!?」

 そうやって考えを巡らせているうちに与えられた感触は、どう考えても……唇で吸い付いたものではなかった。


 前歯で噛まれた。それも割と強めに。


「ひはッ、首あっか……」

「……何よその妙な笑い声は」


 首筋の傷跡を確かめたショボーは満足げにメイの身体から降りて、横からメイに寄り添っていた。

 


「ところでさあ、さっきの服の話……なんで?」 

 ショボーは服の件を蒸し返し、何故かとメイに()く。

 しかし、それを(たず)ねる彼女の顔は……疑問を浮かべている、またはまるで理解できていない者の表情をしていない。


「ねぇ、なんで〜?」

「服着たままだとシワになるし、なにより汚れちゃうでしょ」

「うん、シワはわかるけど……なんで汚れるの?」

 彼女はしつこく訊き続ける。

 その目は……理由を分かった上でわざと問いただしている、そういう者の目つきとしか思えない。



「ねぇってばぁ、なんでそんなことにこだわってんのかなぁ? このぱいぱいおねえさんは」

 メイの黒髪をかき上げて露出させた耳へ、(ささや)きを寄せる。


「ん…………それは、ええ……」

 少しゾクリとさせられたメイは半ば根負けしたように、答えを返す。


「誰かさんが、あちこち触ってくるからでしょ」

「ふーん……こんな子どもに縛られて、触られて、反応しちゃうんだぁ……ダメなおねえさん」

 にやにやと、笑顔を作りながら煽りかけてくるが……内心では認められて少し嬉しそうな、そういう笑顔にも見える。



「こんな子供? 貴女だから、よ」

 ……少しでも喜んでいるのなら、ありのまま伝えよう。


 私はダメでもいい。

 貴女になら、ダメにされてもいい。




「……うーん、六十点! まあまあ!」

 基準はよく分からないが、合格点ではあるらしい。


「それじゃお待ちかね、六十点のごほうびあげるね!」

 ショボーは笑顔を浮かべて、「ごほうび」と言いながらメイのスカートを勢いよくまくり上げた。



「ってあれ、ボディソープ変えた?」

 スカートの裾を手にしたまま彼女が問う。


 単に普段と香りが違う……という意味ではないのだろう。

 これほどはっきりとボディソープが香る、ということは……実は彼女が訪ねてくる以前から、準備万端……シャワーを浴びてあれこれ整えて、彼女が来るのを今か今かと待ち構えていたのではないのか?

 というところまで踏み込んだ、彼女の問いなのだろう。



「……そうね」

 メイは彼女の言葉を肯定するが、質問の根っこの部分には触れてやらない。


 そこをはっきり答えるのはさすがに恥ずかしいし、それ以上に……きっと彼女には答えが解っているだろうから。





……………………………………………………………………………………………………………………………





 縛り付けられたままで。

 身体の自由を奪われ、身柄を支配されたままで。



 いま、私は彼女の手の中。


 私は孤独でない。私は自由でない。私は私自身の王でない。


 彼女に責められるたびに、責められて皮膚を震わせるたびに、耐えきれず身体をよじろうとするたびに……それを、実感する。


 それが、堪らない。




 メイは夜通し責められ続けた。

 のどが()れるまで、いや身も心もすべて()れるまで……


 今回の更新をもって、本章『やさしい獣人の世界、しがみつくもの』完、となります(次回投稿の際には、次の章が立ちます)。

 今後も一章で一つのお話がまとまるスタイルにしていく予定です。

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