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お待ちかね、誘いこめ

 う〜~ん…………待ちくたびれた。


 『保育館(ここ)』に篭ってから、もう十日は経ってる。

 さすがに、これだけ待っても攻めてくるどころか偵察にも来ないのなら……もう帰ろうかな。

 食糧の備蓄も減ってきたし、そろそろお酒飲みたいし、備蓄食美味しくないし……


 それに、相手が既にこの異界から抜け出してる可能性がある。もしそれなら、『礎界(そかい)』に残ってるマリエがこの異界での出入りを監視してくれてて、うまくすれば捕まえといてくれるかも……とまでは、期待しすぎかな?

 向こうでもみ合いになったら逃げられることはないと思うけど、普通に()っちゃいそう。事情は知らないだろうし、力関係の問題もあるし……

 まあそれならそれで、不法な闖入(ちんにゅう)者として身元をじっくり調べれば……なにか手がかりが出てくるかもしれない、か。



 ………などと、暇にあかせてぼんやり思案していたメイのもとに信号が届いた!

 待ってましたとばかりに映像を表示させ、確かめると……『保育館』出入り口周辺の監視機が二つの人影を捉えていた。

 二つの人影……赤い帽子をかぶった少年? と、それよりは年上らしき女の姿。二人はときおりのん気そうに顔を見合わせながら口を動かしている。

 しばらくして、二人は引き続き口を動かしながら地面を調べ始めた。ときおり顔を上げて辺りを見回しているが、どちらの表情もやはりしまりがない。二人のその様子は、周囲をあまり警戒していないように見える。


 メイは監視機の設定を変えて、音声も拾わせることにする。


「で? ホントにこのへん掘ってればあの女のハウスが見つかるっての?」

「ここ担当予定の管理官(キュレイター)は地下開口型シェルターを使うと調査済み、ってはなし聞いてたでしょ。この辺で急に消えたんだから間違いないよ、ほらはやく手伝ってよ」

「メンドクサ……そーんな砂遊び、アタシの仕事じゃないっての」

「またそんなこと言って……そんなんだからあのジジイに嫌われたんでしょ」

「ハァ? あのクソヒゲなら、ニヤニヤしながらベタベタさわってくるからビンタくれてやっただけで」

「えっ!? え〜……そんなの、もったいないなあ……」

「もったいない? なにが、よ」

「言うこと聞かないと訴えて勝つよ、ってゆすったりゴネたりできそうなネタなのに」


 聞こえてくる会話から考える限り、どうにも緊張感に欠けているようだ。仲は良さそうだが。

 メイは監視を続ける。


「それにしてもあの女、どこかで見たような……」

「ま、アタシら二人で接近戦に持ちこめば……あっちは一人だろ?」

「そうだね、ターゲットの破壊だけでも十分とは言われてるけど、どうせジャマしてくるし先に殺しといたほうがあっ」


 少年のような姿が、何かを感じてかピクリと跳ねた。


「ん? どうかした? 入口見つけたとか!?」

「いや通信きた、ってかシャルも宛先入ってるよ?」

「え? 知らない、アンタ読んでよ」

「ええ……まったく、もう……えーと、緊急? 目標変更、第一目標を発見した管理官の殺害とし、当初目標だった白環球の回収もしくは破壊……は第二目標とする。詳細については後ほど、身の安全が確保されしだい添付資料を一読されたし…………だって」

「へえ、じゃああの女を殺せばオッケイか……わかりやすくていいじゃん」


 どうやら積極的に攻めに来てくれそうな流れになったらしい。

 それならメイの外見をはっきり知らない、というのは好都合だ。油断してくれるにこしたことはない。

 しかし、このタイミングでの通信は……なにかが少し引っかかる。


 一体どこの誰が、この場へそんな指示を出せる?

 それこそ……どこか離れたとこから指示を出せるほどこの場、状況について把握してるなら……なぜ私のことを彼らに教えない?


「けどそれだったら、あの時撃ち殺せてたらよかったんだけどなあ」

「しょうがないでしょ距離遠かったし、だいたいアタシ狙撃は専門外なの。それでもアンタが撃つよりマシでしょ?」

「ハァ……いっつも何でも、ボクのせいだよね……不器用でごめん!」

「チッ……いいよ!」


 なんだこいつら……と少し呆れていたところ、


「画角内にて、人為的な光波長への干渉を検出」

 耳と脳内、同時に声が響くような感覚がメイを襲った。

 先日の任務での失敗を反省し導入してみた、『保育館(インキュベーション・モーテル)』の環境構築・維持防衛を担う最新鋭の情報処理知能体……ヴィネアからの通信。


「何者かが『保育館』周辺で光学迷彩を使用しているものと予想します。よって私は、乱反射粒子の散布による処理能希薄化(ダイリューション)、光学処理の妨害を提案します」


 なるほど、光学迷彩か。

 目的はなんだろう。指示? 監視? それとも……


「ヴィネア、今はやめておこう」

 二人の様子からは、とてももう一人の同行者がいるようには感じられない。この緊張感のなさというかユルい雰囲気からして、同行者の存在を知りつつ上手く誤魔化している……という可能性は低いと思う。

 今はまだ、気づいてないふりをしておこう。

 気づいてないふりをしつつ、この二人を分断したあとどこか都合のいいタイミングで……あぶり出してやる。



 よし、だいたいの立ち回りは想定できた……じゃあそろそろ、誘いこんでみようかな。


「ヴィネア、入口のセキュリティレベルを(グルース)から(エクレウス)に下げて」

「何故でしょうか? 理由が分かりませんが、声質から主人(マスター)の命であることは確認できました。セキュリティレベルを(エクレウス)へ移行します」

 メイは準備万端、闖入者を迎え入れる……



 あまり簡単にセキュリティ突破できるようにすると、怪しまれるかもしれないから……がんばれば侵入できる程度のセキュリティレベルに落とす。


 入口の秘匿性、ガードを緩めて……さあ、いらっしゃい……



 入口の秘匿性が下がったためか、外の二人は早々に『保育館』の入口を見つけていた。

 少年のような姿がそれに気づき、ツールボックスを漁ろうとする。するとどこからか奇妙な装置……メイにも見覚えのない装置が二人の足下へ転げ出た。


「あれ、シャル……この装置いつ買ったっけ?」

「知らない、そんなのアタシが覚えてるワケないでしょ」

「まいっか、これなら……」


 その装置は『保育館』入口に近づけられると低く濁った音を発し、ものの数秒でセキュリティを破っていた。


「あれ、もう終わり?」

「えっ、すっごいじゃんそれ……」



 あれ、意外と……簡単に入られちゃうのね。別にかまわないけど。


「ヴィネア、回廊のトラップは準備できてるよね?」

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