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荒野にはあらくれがよく似合う

 とりあえず今回は狙い通り、なんの問題もなく異界に侵入できたみたい。

 ……今回の作業員たちには何も妨害されていないのか、何かされてたのをマリエがカバーしてくれたのかは……帰らないと分からないけど。


 ま、とりあえずここでの仕事を済ませとこう。




 異界の大陸、乾燥帯に点在する水場の一つ、そこから少し離れたところに拓かれた小さな町の酒場、メイは現地のヒトにまぎれて食事を取っていた。


 なんでもこの異界は……過去にここへ転生した『遣体(けんたい)』の無分別な言動により早期に火薬と銃器が発明され、急速に広まってしまった結果……各地で国家による統治システムが崩壊したのだという。

 この町も、近辺一帯を支配する武装勢力……平たく言えば山賊団に水場を押さえられ、水場から少し離れた場所へ移転させられたらしい。


 秩序がすっかり失われた、そんな世界には倫理や道徳心など残らない。そこでは力こそが尊ばれる。

 そして力が尊ばれる社会では、力の弱い者は軽んじられる。力の弱い性は軽んじられる。


 そんな社会の中で、一人の旅人としてふるまうメイは異質な存在として見られるらしい。

 しかしメイ本人はそれをあまり気にせずに……主に他ごとを考えている。



 まずは狙い通りの時代に侵入できた。

 最初に、なぜか覚醒せず、記憶も取り戻せないでいる『遣体』の男とコンタクトして……力を覚醒させる。

 その男は、この町で柔弱な宗教者として暮らしているらしい。探してみよう。


 けどその前に、ゴハンでも……けど、うーん……

 この「つばめむぎの練りもの煮」? これあんまし美味しくないな。一緒に頼んだ「リンガドラゴネ」って酒もなんか辛いだけだ。頼んだとき、理由は分からないけど変な顔されたし。


 ま、次に期待しとこかな。



 メイが汁物料理と酒を少しずつ口にしながら、あれこれ考えを巡らせていると……


「女一人でこんな所うろついてるようなのを客扱いするなんて、大丈夫なのかい?」

 店の女将が主人らしき男と小声でひそひそ話している。


 声の大きさに気を使ってるっぽいしぐさだけど、普通に聞こえてる。

 この異界のヒトは、あまり耳が良くないのだろうか。


「金は持ってたし、ちょっと変わった形だけど(レボルバ)も持ってた。変に追い出すのも怖くてな」

「いさかい起こして逃げてきた情婦(イロ)とかじゃないだろうね?」


 この時代のこの世界では、銃を所持し扱えるなら侮られることは少ないという……それは事前に調べておいた。

 とはいえ女だと、こう卑しめられることもある、そういう世界らしい。

 男だからとか女だからとか、そういうの私は好きじゃないけど……異界をいくつも回ってたら、いろんなヒトの社会がある。

 それは世界の成り立ちや情勢にもよるし、それに所有権者(シェアホルダー)の意向が混じってたりもする。

 ここに住みたいとか、所有権を買い取って自分の世界にしたい……とかってわけじゃないし、私が口を出すもんでもない。



「まさか。こんな肉々しい、黒髪の女……気に入る男はそうそういないさ」

「ああ、なるほどねえ……けど、かと言って身なりも動きも賤民にゃ見えないし、あたしゃなんだか気味が悪いよ」

「まあ(めかけ)の子とかそんなんだろ」


 この時代のこの世界では、私のような容姿の女はあまり好まれないらしい。詳しくは覚えてないけど、赤い肌の女が人気みたいな話があった。

 ま、もしかしたらこのほうが楽かもしれないけどさ。

 ていうかこっちは静かに食事したいのに、うるさいなあ……



 メイは美味しくない飯をあらかた食べ終えて、飲み物を追加注文しつつ今後の動きを想定しようとしたが……


「ガハハハハ!!」「ヒャハハ!!」

 それは野卑な笑い声に妨げられた。



 今度は後ろもうるさい。気が散る。

 もう少し静かにしてくれないかなあ。


「んで? そのバカデケェ石? とかいう、ここの牧師が隠し持ってる石がフゴーのジジイに高く売れるって?」

「グァバデキア石です、お頭」

「ああそれだ、ハッハ! まちがいまちがい!」

「なんでもいいよ、金になれば! ハヒャヒャ!!」

「ちげえねえギャハハハハ!」


 ……ホントうるさいなあ。バカ笑いしすぎ。


「さて、どうしますお頭? さっさと貰いに行きますか?」

「あー、いやなんか気が乗らねえな……旅の疲れかもしれねぇ。今日はみんな、女でも抱いて寝ようや」


 ……ああ、こいつら……下品だなあ。


「おかしらぁ、こんないなか町にさあ、呼んで揉んで抱いていい気持ちになれるようないいオンナいるのかよ?」

「そりゃオレもぜいたくは言わねえよ、パツキンとまでは言わねえ……赤毛のほっそい女いねぇかな?」

「お頭、こんな田舎町でそんな……相変わらず贅沢ですね、そこの黒髪の女くらいで我慢してください」


 ……私のことか? なんかうっとおしいな……


「やだよあんなデカ胸ぶよぶよ女」

「まったく、本当に贅沢ですねお頭は」


 黙って聞いてたら、やだとか言われた。

 まあ声かけられてもウザいんだけど……これはこれで割と不愉快。


 だけどこんな奴らは放っておこう。

 それより、こいつ等がさっき言ってた牧師……探してみないと。その牧師が目的の『遣体』って可能性が高いから。


 なんにせよ、早めに仕事の段取りをまとめたいな。

 ここのヒト達あんましいい感じしないし、さっさと仕事して帰っちゃうのもアリっぽいから。



 メイは品性に欠けた男たちの集団が酒場から立ち去りそうにないことを確かめてから、先に酒場を出た。

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