元凶打ち壊して
奴らが大勢、飛んで向かってきてる……下手したら百体超えてるかもしれない。
動きが単調だから、数えやすい。
そして、狙いやすい。
何かを手にして空を飛ぶ多数の有翼人が、メイのいる側へ向かってきている。
メイは両手に握った熱線銃で彼らを迎え撃つ。
……予想外な動きもしないし、まるで射撃訓練初級みたい。
狙いをつけづらい左右二丁での射撃の上、メイ自身あまり調子が良くないと感じている。それでも、七、八割がたの熱線が標的を撃ち抜いていた。
「かー!!」「こけ!?」「くっきーー!!」
味方が次々と倒されているのを知ってか知らずか、有翼人たちは叫び声を上げながら続々と攻め寄せてくる。
メイは慌てず正面の有翼人たちを処理しながら、ときおり下方や左右……地上や他の空域にも目を向けるが、そちらへ迂回して攻めようとする者は見当たらない。
「……バカばっか」
何の工夫もない、無駄死にの連続。
味方がバタバタ墜ちてる危機的状況なのに、ブレイクスルー……解決どころか、そのきっかけすら見つけられないらしい。
あれ、でも……この異界で最初に襲ってきた奴らには、上下挟み撃ちの作戦、発想があった。
たまたま奴らが特に優れた知能か進化躍進性の持ち主だったのかも、運良くそれを早めに潰せたのかもしれないけど。
……ま、どちらにしても……所詮は付け焼き刃、天の配剤によらない不当な進化の過程……ということだろうか。
そんなことをぼんやり考えながら向かってくる者たちを撃ち落としていると、やがて有翼人たちの攻勢が止んだ。
向かってくる者はいなくなった、メイは少し前進して水たまりのある低地を見澄ましてみる。すると焼け落ち黒焦げた有翼人たちの遺体に混じって一箇所、人が通れそうな大きさの穴が空いていた。
地下に有翼人の拠点があるのだろうか? メイは左手の熱線銃をしまい、右手の一丁だけを構えて穴に狙いを定めながら少しずつ近づいてみることにした。
……結局その穴に接近するまで、そこからは誰も出てこなかった。
他に同じような穴は見当たらない。ここが地下とつながる出入り口だとして、これまでに現れた有翼人の数を考えると……別の出入り口がありそうに思える。
となると、見つけやすかったこの穴は罠という可能性もある? いや、有翼人たちにそんな知能があるとは考えにくいか。
メイは内外の様子を警戒しながら、穴から侵入してみる。
中の通路は開けている上にほぼ一本道で、数体の有翼人を射殺した以外には特に問題もなく……開けた部屋のような場所にたどり着いた。
そこの中央に、メイの背丈の倍ほど高い卵型の楕円体が台座に横たえられていた。
その楕円体から何かが放出されているのか、楕円体の周囲では空気が揺らいでいるように見える。
「危険! 危険! 粒子線量過多!」
観察の途中で、管理アプリから警告音声が届いた。
「この場は極めて危険です! 三十分以内を目安にこの異界から退避し、精密検査を受けてください!」
脳天から耳へ金属音が突き抜けるような不快さを伴って。
どうやら、ここを調査する時間はあまりないらしい……と楕円体のそばに視線を移すと、周りに数十個の小さな楕円体が並べられていた。
近づいて一つを手に取り確かめると、鳥類の卵らしき感触がした。
ということはもしや、これが……?
……とりあえず、これを破壊して帰るか。
熱線銃のエネルギーは残り少ないが……二丁合わせてまだ十数発は撃てる。
メイは熱線銃の出力を最大にして、楕円体の中心あたりに二発撃ち込んでみた。しかし熱線は受け流され楕円体を貫けなかった。
そこで熱線を当てた辺りを触って確かめてみると、微かにスジ状の傷が付いていた。効果がないわけではないらしい。
それなら……傷を付けてから爆破してやれば、壊せないだろうか?
メイは熱線銃の全エネルギーを使い、できるだけ大きく深く傷を付けた。
そののちツールボックス内の手持ちの工具をあさるが……爆薬を持ってきていないことに気づいてしまった。
しまった……爆薬がなきゃ爆破はできない…………仕方ないか。
最近トレーニングサボってるから、ちょっと心配だけど。
今なら拳のほうが潰れたとしても、すぐ『礎界』へ帰ればいい。
やってみる価値はある。
「御旗楯無もご照覧あれ……!」
つぶやいた独り言がずいぶんしっくり来たのを感じながら、メイは脚を開いて腰を落とした。
メイは長めのスカートをはいているが、柔らかめな布地のため動きの邪魔にはならない。
「すぅ〜〜…………」
視線を楕円体の傷口に刺し、そこに意識を集中させ、息を吸い込みながら右手を引き軽く握る。
そして。
「えいっっッ!!」
掛け声と気合いと、強く握った右拳を真っすぐに突き込む!
「警告! 生存条件逸脱! すぐに退避してください!」
楕円体は真っ二つに割れてから左右に転げて、周りの卵を砕きながら自身も細かく砕けていった。
その影響なのか、周囲に放出される粒子線がさらに濃くなったらしい。
良かった、まだまだ身体も鈍ってないみたい。
とりあえず『礎界』へ戻ろう……
「こぅ……」
「!?」
礎界へ帰還しようとしたメイの耳に、鳴き声が一つ聞こえた。
どうやら一つだけ、ちょうど孵化するタイミングの卵が楕円体の崩壊に巻き込まれず無傷だったらしい。
つい今しがた殻を破り、生まれ出た一羽の雛。
雛はそばにいたメイを本能的に母と見なしたのか、覚束ない歩様でメイの足元へすり寄ってくる。
しかしその姿には、翼と足と、腕を具えている……
この異界の未来のために、排除すべき者。
されど無垢に私を慕い、頼ろうとする者。
それを、自らの手で殺さねばならない。
けれど……いや、それが私の使命…………
メイは目を逸らし、顔を背けて……瞳を固く閉じる。
そして、身を寄せる小さな生命を終わらせようと
いや、それじゃダメだろう。
加害する自分が、自身の勝手な感情のために目を背けているのではなく……
死にゆく生命を、徒に苦しめないよう。そのために、目を見開くべきだと。
一瞬だけ、いやその一瞬すらも苦しまないように。
視界の中心にしっかり捉えて、一気に踏み潰した。
……少しだけ、涙ぐんでいるのを感じた。
雛を潰した足を、暫く動かせなかった。
このことだけは、局の誰にも話していない。