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粗野なものたちに襲われ

 山の斜面に少し広がった平地で、メイは現地の生物らしき者たちに囲まれていた。


「タマゲタナッツォ」「クリツビィ」「レダダエマオ」

 メイを囲む毛むくじゃらの塊たちは、距離を保ったまま何やら口にしている。


 何を話しているかは分からないが、それぞれ話す内容が異なっているのだろうか。となれば……おそらく彼らは個別の、独立した生命体なのだろう。


「イワコ」「イコツナイケ」「ヤイ チョトケ」「イカシオ」

 毛むくじゃらの塊たちは、メイの姿を前に対応を決めかねているのだろうか?

 塊たちはわずかにも近づいてこない。メイは念のため熱線銃に手をかけるが……


 言葉も考えも分からないが、彼らからはこれまでに出くわした有翼人のような攻撃性……敵意や殺意があまり感じられない。それもなぜかは分からないけど。



「イコツナイハネ」「ナイハネ」「イカシオ」「チョトイワコ」

 メイを囲んだまま話し続ける塊たちは、どうやら毛の中に手を引っ込めているらしい。

 しかしよく見ると何体かは、ふわふわとした毛の終端から先の丸い棒状のものを飛び出させている。


 肉体の一部? それとも……武器?

 ……もし武器を手にして戦うという知恵と技能を有しているなら、彼らは…………

 って、自動翻訳アプリのロールバック長くない? 時間かかりすぎじゃ……


 というかこれ、どうしようか……?

 囲まれてるうちに少し数が増えたけど、囲んでるだけで……襲いかかってくるどころか距離も詰めてこない。

 彼らが本来の霊長(ヒト)である可能性もあるから……それを考えると、むやみに先制攻撃したくはない。正当防衛だと言い張れる状況になるまでは、殺傷力の高い熱線銃は使いたくない。

 打撃なら銃よりは安全だろうけど……むしろあのフカフカの毛に打撃が効くのか? 打棒……あ、電気打棒って手も……いや彼らの体組成が分からないから、どれだけ電流が効くか微妙か……それにエネルギー消費が心配。


 塊たちの動きがほぼないため、メイは彼らを警戒しつつもあれこれと考えていた。



「ショマシド」「ナイハネヘンヘ」「ヤイ キテキイナ」

 塊たちはメイを囲んだまま、どうにものんびりしている。

 ときおり、メイや塊たちの間に涼し気な風が吹くが……それが塊たちを動かすことはない。


 じれったいな……ここでガマン比べしてても、なんか意味があるわけでもないのに……


 少しいら立ったメイの額から横顔に、汗が一筋伝った……が、それとは無関係に場の均衡が破られた!


「アルハネタキ! アルハネ! アルハネタキ!」


 山上の方向から聞こえたその声に、塊たちが反応した!


「ロケニ!」「ロケニクヤハ!」「オーマンタ!」

 塊たちは、先ほどメイを取り囲んだ時とは比べものにならぬほどきびきびと、メイの包囲を解いて洞穴へ向かっていく!


 あ、あれ……置いてかれた? いったい何が……!?


 左右を見やると、塊たちは続々と洞穴に入っていく。

 穴の反対側では、いつもの有翼人たちが飛んでいる!



 しかし、飛来した有翼人たちはこれまでにメイが対処していた集団とは規模が違い……気づけば十体以上の有翼人が空を統べていた!


 数が多い……私が出くわした連中とは違う……? 計画的な襲撃なのだろうか?


 メイはひとまず身構えて、有翼人たちが自分へ向かってこないことを目視で確かめる。

 山肌には逃げ遅れたらしい毛の塊たちがおり、有翼人の一団はそちらへ向けて飛び込もうと身体を傾けていた!


「けーーーっ!!」

「ファー!」「ウァー!」


 それまでの両者の態度ゆえなのか、はっきりとは分からない。分からないが……メイはとっさに有翼人へ銃口を向けていた!

 毛の塊たちへ飛びかかろうとする有翼人たちへ、熱線、熱線! また熱線と連射!


 横槍を入れられる格好で熱線に貫かれた有翼人が墜落する、そして撃たれずに残った二体も……毛の塊を捕らえるには至らず、メイの追撃により射ち抜かれた!


「ウエ!?」「エ……」

 毛の塊たちは有翼人たちの異変に気を取られたのか、それともメイに注目していたのか……ともかく一瞬動きを止めてから、洞穴へ向かっていった。

 メイも、特に意識しないまま洞穴へと走っていた。



「ここけ!」「ここけ!」

 メイが洞穴のそばまで駆けつけた頃には、大半の毛の塊たちが洞穴の中へ逃げ込んでいた。対して十体ほどの有翼人たちが、洞穴を見下ろす格好で空中に漂っている。


「こっほーう!!」「けけ!」

 緩急をつけるでもなく、有翼人たちは叫び声を上げながら洞穴へ攻め寄せていた。

 乗りかかった船だ、メイは有翼人たちへ狙いを定め撃とうとする……が。



「自動翻訳ver.1.1、構築完了。言語野ヘノ適用ヲ推奨シマス、ゴ裁可クダサイ」

 それを邪魔だてするかのようなタイミングで、自動翻訳アプリのわざとらしく人工的な声が頭に響いてきた。


「十カウント内ニ適用許可サレナイ場合ハ、記録ヲ破棄シマス」

 メイは無言でアプリの干渉を許可する。すると間髪入れず、何かが頭の中に染みこんできて、そこに棲み着こうとするような……重く鈍い頭痛がメイを苛む。


「っ…………」

 アプリの干渉に照準を乱されたメイは、洞穴へ攻め寄せた有翼人全てを撃ち落とすことができなかった。

 狙いを外してしまった数体が、滑り込むように洞穴の中へ侵入する……!

 メイも急ぎ、有翼人を追いかけて洞穴をくぐった。


 しかし、洞穴のなかでメイが目にしたのは……自らの毛で有翼人を絡めとった塊と、その周りで捕らえられた有翼人をタコ殴りにする毛の塊たちの姿であった。

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