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毛玉のような者に触れ

「今日もご飯がおいしい! 大事なことよねっ」


 からりと香ばしく揚がった衣と、それが弾けた内側で存在を主張する肉と、そこから温かく流れ出る鶏のエキス……口の中でそれらが混じりあったうま味、風味と歯ごたえ。さんざん味わって、最後は口に残ったあれこれを酒で洗い流す。この一連の楽しみを二回くり返す。

 カラアゲを二つ食べて、自分でもはっきり分かるほど顔がほころぶ。


「あーうまそ……いっこちょうだい!」

 メイがカラアゲを食べる様子に心引かれたのか、レイナはいつの間にか山盛りパンケーキから離れて……移り気なところを見せる。


「はーい、たーんと食べてくださいね〜、お肉重くしてありますよ〜」

 料理をねだられて、それを快諾する言葉……らしきものがメイの口から漏れていた。


 あっ……またか。

 しかし、肉が重い? とは……肉の重さとはなんのことだ? 大きさではダメなのか?

 今度のは、まるで意味の予想がつかない。



「え? なに、どゆこと、にくが重いってなに……ってか重いと味とかちがうの?」

 レイナは目を丸くしながら真っ当な質問を投げかけてくる……が、正直なところメイも同じ疑問を抱いている。

 自分で言ったはずなのに、何のことだかわからない。だから適当にごまかすしかなかった。


「あ、いやその、美味しいから食べたいだけ食べちゃって……足りなきゃまたデリバリ頼むから」







……………………………………………………………………………………………………………………………








 岩肌と横穴……黒、茶、灰、黄色などさまざまな色をした塊が山の表面で横穴を出たり入ったり、または一箇所で留まったり……している。


 メイはしばらくの間、山のふもとから遠眼鏡で塊たちを観察していた。しかしそれらが何をしているのか、何の目的で動いているのか、なぜ岩山にしかいないのか……というところは見えてこなかった。


 ……ここからじゃ、意志を持って動いていそう……ってくらいしかわからないか。

 けど、とりあえず有翼人以外の生き物はひさしぶりだし、近くまで行ってみよう。ある程度近づいてからなら、光学迷彩も使っていける。


 あれエネルギー消費大きいから、なるべく使用時間を短くして……節約しとかないとね。

 まだ何の手がかりもないようなもんだし。



 メイは山の中腹あたりを目指すことにし……たが、ふと思い立ち事前に食事を取ることにした。


 機材のエネルギーは節約したいけど、私のエネルギーはもりもり補充しとかないと。

 この際、味はいまいちでもしかたない。

 だけどこんなとき、こんな所だからこそ……とにかく食べとこう。


 できる準備は、確実にやっておこう。




 メイは簡単に、ただし多めに昼食を取ってから山登りへ向かった。

 食後すぐ動いている上に坂を登るのはあまり慣れていないためか、道中では身体のあちこちに汗がにじんでくる。


 ときおり立ち止まって適当な岩に座り、遠眼鏡で塊たちの様子を見ながら休憩することにした。

 安静にしていると、たまに山頂の方角から涼しい風が吹いてきて気持ちがいい。


 風景はそんなでもないけど、こういうのもたまには悪くないかも。

 けどそんなのんびりしてる場合でもないか。いつ有翼人が飛んで来てもおかしくないし。



 休み休み山を登っていると、やがて日が暮れだした。塊たちの居所に少しは近づいたが、それ等の様子に変化はない。


 ……朝早めに動けば、明日の夕方までには接触できそうかな?

 今日は休んでおくか。


 メイは安全に眠れるよう、地下に『保育館(インキュベーション・モーテル)』を出現させた。その中でシャワーを浴びて汗と土ぼこりを洗い流しながら、塊たちについて考えをめぐらせる。



 こちらに気づいていないのか、そもそも気にしていないのか。

 朝と夜とで行動パターンが変わるのか、特に変わらないのか。

 一般的な有機体の生物なのか、無機物で構成されているのか。

 いやまずあの塊たちは、個々に独立した生命体なのだろうか。


 よくわからない、わからないけど……今は目についたもの、手がかりになりそうなものを調べてみるしかなさそうだし……


 考えこむうち、シャワーでは物足りなさを感じてバスタブに湯を張った。そこに肩まで浸かって、暖まっていると……

 心身両面の疲れからか、意識がぼんやりとしてきて………………


「ゴブゴボッブハっッ!?」

 溺れかけた。


 すぐに目覚められてよかった……呼吸困難になってヒヤリとした。


 メイは反省してちゃんとベッドで熟睡し、翌朝早くから山登りを再開した。




 登山は道中順調に進み、いつしか肉眼でも塊たちの姿がはっきり見えてきた。そこで光学迷彩を起動し、岩肌の横穴へ一気に近づいていく……

 するとどうやら、塊のように見えていたのは多量の毛が何かを覆っている、もふもふした物体らしかった。


 光学迷彩で身体を不可視化し、塊たちを近くで観察していると……

 ときどき塊から手らしきものが伸び出て、草やコケを取る、それを持って穴へ運ぶ、などの作業をしているのが分かった。まれに、取ったコケをそのまま塊の奥へ引っ込めてしまう者もいたが。


 石は拾わない……採取すべきものを選別し、そして採取したものを手持ちで別の場所へ移す……ある程度の知能があるらしい。

 もう少し観察してみようかな……


 などと思案していると、


「クイギミカ」「ナイ リダヒダ」

 声……? 言語コミュニケーション?



 そのときメイに閃きが走った。

 もしかしたら、この塊たちは……!?


 メイは奥へ進んだ塊二つを追いつつ、自動翻訳アプリを起動した。言語データのバックアップを呼び出し、ロールバックを……


 そのときメイに電流が走った。

 しまった、なにか引っかかった!?


 死角を移動していた別の塊の、毛の端っこがメイの体表に引っかかり……毛が絡んだことで電位が乱され、光学迷彩が解けてしまった。



「タマゲタナッツォ!」

 メイに引っかかった塊が大声を上げた、それにつられて近くにいた塊たちが一斉にメイを取り囲んだ!

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