荒野貫き振り返り
とりあえず、飛行物体に気をつけながら、かな。
メイには特にあてもないが、他に行動のしようもなく……適当に歩いてみることにした。
ただ方向だけは決めて進もうと、四方を見渡して……比較的近そうに見える岩山を目標にしてみる。
他には目印も障害物も少ない荒野だが、視界は良い。念のため周辺位置情報と進行方向を記録して確認できるようにしておけば、環形彷徨……同じ場所をグルグル回り続けてしまうおそれは小さいだろう。
足元に基準点となる発信機を埋めてから、メイは歩き始めた。
しばらく何となしに歩いてみたが、誰も現れない。散歩しがてら考え事をする要領で、善後策を考える。
有翼人か、現生霊長のはずの人類……仮に無翼人としておくか。まずはどちらかに会って、話をしてみないと……状況がつかめそうにない。
少なくとも有翼人は言葉が通じないから、自動翻訳アプリを初期化……いや待った。無翼人が見つかる可能性を考えて、言語データのバックアップを取ってからにしなきゃ……
こういうときは、まずできることを着実に……メイはトラブル対応の原則として、そう心がけている。
「異界言語自動翻訳、起動……プロセス構築実行」
「……基本スキームノ設定完了。言語検出ヲ開始」
自動翻訳アプリのわざとらしく人工的な声が頭に響く。
アプリ自体には問題なし、ヨシと。
それにしても、なぜさっきの有翼人たちは……
「音声ノ検出ナシ……検出ヲ続行? 動力消費ノ影響?」
脳内でエラーを示す声がメイの思考を邪魔する。
検出なし……それはそう。動力消費は……致し方ないかな。
どうにもならなかったら、緊急脱出するしかないだろう。異界侵入自体ミスしてるし、その理由が分からないから……緊急脱出に頼るのも、それはそれで少し不安だけど。
まあこのままなら、そっちのエネルギーより先に私の食糧が尽きるはずだし。
こんなとこで酒もなく飢えるくらいなら、たまの失敗くらい気にしないで帰ろう。
「言語検出ヲ続行、継続」
思考が深まったせいか、今度はメイの邪魔にならなくなっていた。
……局長にお仕置きされるくらいならともかく、外野がうるさくするなら……いろいろ考えなきゃいけなくなるけど。
おっと……あ、そうだ、なぜ有翼人たちは私を襲ったんだろうか……?
ちょうどこの異界へ侵入したところを見られていたとしても、有無を言わさず殺そうという考えに至るだろうか?
怪しい女をひっ捕らえてあれこれ調べてみよう、というならありそうな……というか、それが普通の流れだと思うけど。
不意にバサバサと、羽ばたく音が小さく聞こえた。
左……メイは視線を向けるが、
「けーーーっっ!!」
突然大きな叫び声を上げながら近づく者がいた!
「……ばっかじゃなかろうか」
メイは半ば呆れながらつぶやきを漏らした。
ただそれは捨て置いて、熱線銃を右手に構えながら視線を向け……視界に入った二つの空飛ぶ人影へ熱線、熱線!
メイの精確な射撃、対して有翼人たちはそれに反応……特にかわそうとする様子を見せるでもなく、メイの狙い通りに頭を撃ち抜かれていた。
有翼人たちは墜落してくるが、メイはそれよりもまず周囲に他の有翼人がいないことを目視で確認する。
誰もいない。
声を囮にして、別の方角からも攻めかかる……というわけでもないのか。
メイは一息ついて、地に落ちた有翼人たちを調べてみることにした。
どちらも、身体を軽く痙攣させているがその動きは弱まりつつある。もう意識はなく、絶命寸前というところだろう。
弾痕から微かに流れ出た血は既に熱で乾いているが、どうやら彼らの血は赤いらしい。
と確認したあたりで、死体二つとも燃えだした。
熱線により、身体のどこかが引火点を超えて熱されたのだろう。
メイは念のため、少し離れて燃え尽きるのを待つことにした。
待ちながら、有翼人について仮説立ててみる。
彼らは私の射撃に反応していないように感じる。
射撃を避ける動きができなかったのか、避ける気自体なかったのか?
あの距離で避けるべきものがあることを知らない、のだろうか?
もし弓矢や銃というものを知らないのなら、避ける必要性を理解できなくてもおかしくはない。
それにさっきの振る舞い……まだ断定はできないけど、有翼人の知能はあまり高くないのだろうか?
と、まずそもそも論……基本に戻るべきか。
死体を焼く火が消えたのを見て、メイは再び歩き出した。そしてまた、身体を動かしながら考えを巡らせる。
今回の異界侵入の目的は、破壊工作。
何者かの手によって宇宙からこの星の地表へ打ち込まれた隕石、その中で燃え尽きずに残っていた詳細不明の物体。
それはこの星の生物の進化をねじ曲げ生態系を大きく狂わせるものであり、またこの異界には存在しえない組成の物体であった。
即ちそれは、この異界に属さない生物体による不当な干渉。
それが管理局の異界調査……キュルソン遡及・未来予測分析によって明らかになったことから、実行犯の特定と干渉物体の破壊が計画された。
その第一段階として、異界の在るべき姿、自然な在り様を妨げる干渉物体の早急な捜索と破壊が……第九課、つまり私に依頼された。
同時に別の課へ、実行犯の特定に向けた調査、物証の収集が依頼されて……!?
またも、不意にバタバタと……羽ばたく音が聞こえた。
左。メイは視線を向けて、有翼人の姿を捉える。
今度は一人か、何か持って向かってきている。もう敵意の確認は不要だろう、面倒だし撃ってしまおう。
煩わしさを感じたせいか、メイは熱線を三連射して……有翼人を撃ち落とした。
その一体の他に羽音がしなかったことから、メイは有翼人の落下地点を目で追っていた。
あれ、落ちたとこ遠いような……?
今までより遠いということは、先ほどまでより大型の有翼人が距離の問題で他と同様に見えていた……ということか。
一応様子を見ておこうかな。
メイはこれまでと特徴の違う有翼人の死体を確かめておこうと考えて、そちらに足を向けてみる。
メイが墜落現場の近くに着くと、これまでより二回りは大きそうな死体が炎を上げて燃えていた。
それなら燃え尽きるのを待とう、と……死体から真っすぐに登る煙と、死体の側に落ちている巨大な斧槍らしき得物を見ながら今回の目的を思い返す。
今回の目的は、この星の生物進化への干渉防止……
そして事前説明で聞いた、この星の現生霊長の特徴には、翼が生えているなんて事項はなかった。
つまり有翼人は、現生霊長ではないはず……だが彼らは、何らかの言語によるコミュニケーション能力を持ち、一部とはいえ武器を手にしている。
言語と武器……それらは、管理局にヒトと見なされるだけの知性、文明を有することを意味している。
私がこの異界へ来た目的は、不当な進化の防止。
そしてこの異界では現生霊長でないものが、おそらく進化し、ヒトたる文明を……
……つまりここは、私が侵入するはずだった時代から遥か先……遠い未来である可能性が?
もしそうなら、思ってたよりひどい侵入失敗。相当なシステム障害だ……この後どう転んだとしても、帰ったら仕事の山か…………
いつの間にか燃え尽きていた死体の前で、メイは思わず大きなため息を吐いていた。
それと同時に、腹が鳴っていた。




