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本人もトラブルを迎え

「ぴき ぺけけっ、こかっ!?」

 メイは異界に着いて早々、聞き慣れない音を耳にしていた。


 侵入の瞬間を現地人に見られた!?

 こりゃ失敗、まいったな……侵入作業システムの構成員を代えたのがまずかったんだろうか?



 ある世界の、ある荒野……メイはヒトの行き来どころか他の生物すらまばらな地点に現れた、はずだったが。

 現地のヒトに現れる瞬間を見せず、別の世界からそこへ侵入したことをうかがわせるような着地点設定はしていない、はずだったが。


 私を見て声を上げたわけじゃないなら、ありがたいんだけど……そんな都合のいいこと考えてもしょうがない。

 どう対処しようか……


 メイは音のした方に視線を向ける。すると現地人らしき二人の人影があった。


「ほー……こっこぅ、ここくか?」

「ここけ?」

 人影はメイのほうを向いて、言葉を交わしているらしい?

 しかしメイにはその内容が理解できない。


「こんにちはー」

 そこでメイは現地人らしき者たちに声をかけてみた。

 しかし彼らはメイの声に反応しない。


 あれ? 言葉が通じてないのか?

 今回はこの異界、この時期の現地語を事前に翻訳して、アプリも有効化してるはずなのに……?


 相手が反応を返してこないので、メイはひとまず人影の姿かたちを確かめる。


 二足歩行し、腕と翼を持つ灰色の……言うなれば有翼人。

 いや……よく見ると、それは少し前に出ている一人だけ。斜め後ろにいるもう一人には腕が生えておらず……脚と翼しかないようだ。


 二人で骨格が違う……いやちょっと待って? ここのヒトは翼が生えてるなんて、一言も聞いてないはずなのに?


 それはさておき、次に顔へ注目すると……口が尖って前に出ているように見えた。

 例えるなら、鳥のくちばしに近いだろうか。このタイプは……同期にもいなかった気がする。



「こき……ここけ! ほーう、ほーう……」

「こけ!」

 メイの観察、思案をよそに……有翼の二人は短い会話ののち互いの横幅を数人分ほど空けて、また腕がある方は棒のようなものを手にしていた。

 両手で棒状の得物を持ち、その先端をこちらに向けて……構えているらしい。


 言葉は分からないけど……敵意、いや殺意? のようなものが感じられる。

 少なくとも友好的ではないし、脅したい、または尋問したいという態度にも思えない。

 脅しや尋問をしたいのなら、むしろ固まって数や武器の存在、自分たちが優位であることを誇示するような……何となくだけどそんな気がする。



 二人は少しずつ距離を詰めてきているが、彼らの速度、間合いはよくわからない。

 メイは早めに臨戦態勢を取っておくべきだと考え……左手に熱線銃を握り、右手に拳を握る。


 と、そうしたところで……メイは別の感覚を掴んでいた。

 何かが羽ばたく音が耳に入ってくるのだ。

 メイは視線の向きを変えずに、その音が意味するところを察する。


 上から羽音が聞こえてる。音からして、一体が空中浮揚……私の上で止まっている、ということか。


 なぜそう考えるのかはまだわからないけど、こちらは飛べないと思われている。

 そしておそらく、地上の標的を倒すには空中の死角から襲いかかるのが最も有効……という経験知があるのだろう。

 それで、空中と地上の一斉攻撃か。

 どちらかといえば本命は死角の空中側、とにかく二段がまえで私を刺すつもりなのだろう。



 しかし、彼らには羽音が聞こえてないのか?

 それとも、こちらに対処する能力がないと見下している?

 聴覚、知能どちらかが不足していると、高を括っている?


 じゃ、こちらも気付かないふりをしてやろう。

 前方の二人を目で捉えつつ、意識はむしろ頭上の羽音に向けておく……


 そうした上で、メイは左手の熱線銃が主体と想定する。

 飛ぶものを素手ではたき落とすのは難しい。羽虫でも射撃試験でも、飛ぶものは撃ち落とすに限るから。


 あー、けどこうなるなら……銃を右で持っとくんだったな。



 睨み合い、少しずつ間合いを詰めながら……どれほど時間が経っただろうか。

 正対する三人の間を二度ほどからっ風が通り抜けた頃……

 それまで規則正しく鳴っていた、空中からの羽音が止んだ。


 羽音のリズムが乱れた瞬間、メイは真後ろに飛び退いた!

 それは奇しくも、地上の現地人二人がメイへ飛びかかるのとほぼ同時だった。


 有翼人たちの踏み込みの速さが読めないので、メイは力いっぱいバックステップしていた。

 が、有翼人たちの踏み込む脚力はあまり強くないのか、地上二人とメイの間合いは完全に外れていた。


 ただしメイは勢いあまってよろけ、尻もちをつきそうになっていた。

 対多数での戦闘で座る、寝転がる体勢は悪手……耐えといたほうがベター……!?

 とステップを早めようとしたメイの眼前に、青っぽい何かが落ちてきた!


 それは地上の二人とは異なる青色をした有翼人だった。彼は棒状のものを地面に突き刺した体勢で振り返り、メイを睨む。



 うん、地面に穴が開くほどの刺突……これなら間違いなく、私を攻撃しようとしたものと記録できる。

 それに、隙だらけ! それならっ!


 メイは尻もちを堪えるのをやめて、倒れ込みながら熱線銃を構えて有翼人たちを撃ち抜く!

 熱線、再び熱線、熱線三射!


 熱線銃を撃ちながら倒れ込んだメイは、身体をひねって手を付き、急ぎ身体を起こした。

 三発の射撃は、結果二人の有翼人……腕のない者と青い外観の者を撃ち殺し、焼き殺していた。

 灰色の有翼人が残ったのは、青い有翼人の身体が射線の大半を遮ったのと、体勢が悪く狙い切れなかったのが原因か。


 さて、生き残った灰色は咄嗟(とっさ)の判断に迷ったのか死体二つの前で戸惑った様子を見せている。

 メイには今さら、彼を生かしておく理由はない。仮に無抵抗だとしても。


 仮に一目散に逃げていたとしても、メイに彼を見逃す理由はない。

 現時点では言葉も通じないから、捕らえてコミュニケーションを取る意義もない。



 メイの冷たい思考から動作が起こり、その先で発生した熱線が……生き残っていた有翼人の頭を正確に貫いた。



 困ったな、状況がつかめない……

 話を聞こうにも有翼人は言葉が通じないしなんか敵対的だし、事前説明(ブリーフィング)で聞いてたはずの現生霊長(ヒト)を探すのも……ここじゃ難しそう。

 翻訳機能を使うにしても、現生霊長を見つけるにしても、いろんな人に会ってみるしかないかな?

 そして、ここにはもう誰もいない。


 ま、有翼人は熱線銃の通常出力で焼けることと、空を飛ばせなければ大したことなさそうなことが分かったのは収穫かな。


 メイはとりあえず、あてもなく歩き始めた。

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