おんなは尋問官のように
さて、と……どちらに訊くべきだろうか?
これまでの印象だと、姉のほうが単純というか裏表がなさそうだけど、理解力が少し不安。
妹のほうは知力については問題なさそうだけど、その分意固地になられると厄介。
……ま、とりあえず二人と話をしてみるか。
妹と話しつつ、姉の反応を見てもいい。
あ、というか……そもそもどこら辺まで知ってるんだろ? この娘たち。
いや、お互いに……か。
異次元に構築された、安宿のような一室のなかでメイは一人立ちつくし、思考を巡らせる。
「…………ん……ん゛っ………………」
メイの足元には二人の……頭の上に耳を生やした若い女が倒れている。
そのうめき声が、メイの視線を床へ落とした。
二人は意識こそ保っているが、全身に電流を流されたために身体を動かせないでいる。
赤茶けた髪色は同じだが、一人の耳は鋭く尖り、もう一人の耳は少し丸い。
いや、そんなとこ見てるよりも……
あちこち弄られたら面倒だし、今のうちに拘束しとこう。
拘束方法は……
椅子に座らせて、腰を背もたれか座面に固定する。可能なら腿または脛も固定する。
手は左右の太腿に乗せる感じで下げて、指と手首、または手のひらを固定する。やむを得ず手首だけを固定する場合は、両の手指が触れないように距離をあけて固定する。
一般的な二足並列歩行型の生物なら、これが……長時間拘束しても身体に負荷のかかりにくい体勢なんだそうで。
メイはどこからか取り出した紐状の物体と特殊樹脂製の手枷を用いて、獣人の姉妹を一人ずつ椅子に縛り付けた。
不慣れな行為のため時間がかかってしまったが……その縛り付ける時間で、二人とも口がきける程度には回復するだろうと予測しつつ。
「正直に答えてくれたら、悪いようにはしない……プレゼントもあげる。だから教えてほしい」
そろそろ頃合いだろうと思い声をかけてみた。
「ぅ……んっ?」
「教えて。貴女たちのお祖父さんは、私の何を知っているの? どんな人間に会って、私の何を教えてもらったというの?」
メイは率直に姉妹へ問う。
時折、視線を部屋の隅に横たわる老人の遺体へ向けながら。
「レイさん? なんのこと?」
姉妹の姉、ジェニはメイをまだ本物のレイだと思っているらしい。
祖父の話を聞いていない、ということか?
「貴女たちのお祖父さんが、私がレイ・コムナイではないことを誰かから教えられた……貴女たちも聞いているのでしょう?」
少なくとも姉のほうは、思った以上に素直だった。それを考慮して、メイは率直な問いかけを続けることにした。
「え? そ、そんなこと知らないよ。私たちはあのあと宝物庫に案内されて、お宝をいろいろ見せてもらったから、一度おじいちゃんに相談しようと思って部屋に戻ったら、もう…………」
「まさか、レイさんが?」
「……まず私がお祖父さんを殺してないことは理解してほしいかな」
「私は貴女たちと一緒に王の広間まで行った、それは確かだよね? そして貴女たちが宝物庫に案内されてからはずっと、王や大臣と話をしていた……だからそんな時間はない。疑うなら、後で城の人に聞いてみて」
「でも、おじいちゃんをこんなかんたんにころせる人なんて……」
彼女たちの祖父は相応の実力者だったらしい。
であればやはり、あの匂いは……
困った。どう転んでも、面倒揉め事。
何故か微かに、そう考えていたメイの胸の内側がざわつく。
それが何かを思い出させて、ひどく感傷的になって……メイは思わず無抵抗なジェニの耳を撫でていた。
「んひっ……や、やめ……」
初めて聴いた気がする、心から恐れるような弱々しい声。
それでいて、どこか色気を隠しきれていない艷のある声。
妙に強く、そう感じてしまったメイの胸の内側がひりつく。
それが過去の愉しみを思い出させて、ある娘の艶姿を思い出して……思わず電気打棒を取り出していた。
「やっ、それやだあ゛っっっ」
「……抵抗しないなら、使わないよ?」
既知の品に恐れおののく姿……あのときの彼女とは違う。
未知の体験に戸惑いと羞恥を混じらせながら、私を受け入れてくれたあの娘……リンプーの姿とはまるで違う。
有無を言わさず感じさせるような魅力はない。
けれど今回は、実益を兼ねて……だから。
ちょうど、後遺症の少ない責め……だから。
メイはそうして自身を納得させながら、獣人の姉……ジェニの拘束を一旦解いてから……目隠しした。
「わっなに!?」
「私の指示なく動かないで、痛くはしないから」
メイは木馬……馬の胴体を模した台形の箱をいくつか床に並べて、そのうちの一つにジェニの身体を覆いかぶせた。
そして全身で箱に抱き付くような格好になったジェニの肘と膝を箱に括り付ける。
「えっなに、なにこれ!?」
「木馬の一種だけど……どう? 気にいった?」
メイはジェニの問い掛けに答えつつ目隠しを外してやった。
といっても、ジェニの身体は木馬へうつ伏せに密着させられており……前方しか見ることができないが。
「もくば……? て、なんでこんなかっこう」
「貴女たちが嘘をついていないことを確かめるのと、それと気分転換にね?」
メイは四つん這いのような姿勢で拘束されたジェニの背後へ回る……
回りながら、管理局の不可解な規制に呆れていた。
はあ、こんな時あの誘導剤が使えたら楽なのにな……
どこの誰だか知らないけど、現実も見ずに面倒なことを言ってくれたものだ。
自白を強制させるのが問題? そうじゃないでしょ。
大事なのは私たちが効率的に仕事しつつ、現地人に後遺症を残さないことなのに。
下手に尋問や拷問しちゃうよりはよっぽど心身への負担も少ないし、自白内容の信頼性だって高くなる。
それをもっともらしい屁理屈で販売規制するなんて……実際に異界で働く者のことをまるで考えてない、マイナスしかないのに。
「事件は会議室で起きてるんじゃない! 現場で起きてるんだ!」
「はい?」
メイは何時の間にやら、まったくの意識の外で浮かんだ言葉をがなり立てていた。
そうしてしまったことに気づいたのは、後方にいた獣人の妹ジュニの間の抜けた声を聞いてからだった。
「またか……フフ、ごめんね」
照れ隠しに笑いながら、メイは近くにあったジェニの尻を軽く引っ叩いてみた。
乾いた、張り詰めたような……いい音がした。