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跳ね耳の姉妹と女

 城の兵士? に案内された私たちは、濃い顔のおっさんが集まってそうな広間に踏み込む。

 遅刻してるから、あまり怒らせないように大人しめに……


「こんちゃ! ご依頼は!?」

 姉さん……


「ちょっと姉さん!? あ、すみません、遅れました……」

 大人しめにとか意識するまでもなく、素直に心から申し訳ない……

 いつものことだけど、ほんと手のかかる姉さん。


「まっ、待っと……くれ……い、息が……ふぅ」

 けどおじいちゃんもはぐれずに着いてこれたのはよかった。遅刻だからって全力で走っちゃったし……



 頭上に三者三様の耳を立てた……それを隠しもしない獣人三人、若い女二人と白髭の老人が広間に通されていた。




「ちょうどいい、まずは自己紹介をしてくれないか」

 会議の場なのに、鎧を着込んだ男……重装備に慣れた男にしては、小綺麗な顔と甲高い声をした男……が立ち上がりながら、三人に声をかける。


 獣人の三人組、西大陸北部のギルド支部からの紹介で招かれた者たちは寒さに強いのか、もう秋だというのにやけに薄着であった。

 特に若い女二人の服装は、動きやすさを重視しているのか身体のところどころが露出したものになっている。それが二人の、しなやかに引き締まった細身の体型を強調していて……これまた、先の女魔術師とは趣の異なる女の色気を匂わせている。


 理由あって、敢えて男の世界に身を置くこの鎧騎士には少し目の毒である。



「キャンピール……ジュニ・キャンピールです。こちらが姉のジェニ、後ろの老人が祖父のコリです」

 若い女のうちの一人が、全員分の紹介を簡潔に済ませた。

 その、ジュニと名乗った獣人の女は列座した者たちの感情を……彼女の名乗りを聞いた直後の姿から、それを感覚的に察していた。



 あ〜……これは多分、遅れてきたことに怒ってる雰囲気じゃないな。

 私たちのこと、()()()()って顔だ。


「ギルドの紹介で来た以上、依頼の達成が第一です。他支部の人間でも依頼の邪魔はしませんから、ご心配なく」


 今回は、よそ者も人間もみんな仲間だよ……と言っておこう。

 うまく言えてないかもだし、信用されないかもだけど。



「ふむ。私の隣が大司馬のリューズ・カボション殿……そして私は尚書のアワー・ツツ・ガンキー、私たちが本件の依頼人です。ジュニどの、どうぞよろしく」

 細かそうなおっさんがあいさつを返してくれた。


「と、なにやら不穏な様子だが……なにか問題があるのか?」

 と、おっさん……尚書のアワーも私と同じように雰囲気の悪さを感じ取ったらしい。


 普通の人間っぽいけど、それにしてはするどい。すごいね。




「すまないが降りさせてもらう」

「同じく、こいつらと組む気はねえ」

 と、男数人が立ち上がり、退席しようとしていた。


「それは認めんぞ、話を聞いた以上は……断るなら死んでもらう!」

 男たちの言葉を聞いて、入口にいた兵士が笛を鳴らした。するとその音に遅れることなく、大勢の足音が入口を固めに来た!

 現れた兵士たちはみな、弩を構え室内へ向けている……



「待てぃ!!」

 主座に着くリューズが兵を一喝していた。


「はっ、しかし、そういう手はずでは……」

 リューズは慌てる兵士に歩み寄る。


「まだ私は彼らに話をしておらんだろうが!」

「え? ……あっ!?」


「まったく、早まるでないわ……いや、慣れぬ仕事をさせて、気負わせて悪かった」

「あ、いえ、申し訳ございません!」

 リューズは頭を下げ、兵士も跪く。



「と、お見苦しいところをお見せしてしまったな。ちょうどいい、今回の依頼について説明させてもらおうか」

 リューズは席に戻りながら卓の面々に語りかける。


「いや、このまま帰らせてもらいたいのだが」

「勝手もわからん旅先で、こいつらと組むなんて嫌だぜ」

 先ほど退席しようとした男たちが、退出を願い出る。


「同じく、帰れるうちに帰りたい。今回は内容の問題じゃないんだ」

 その中には、殺気すら潜めていそうな悲愴な面持ちの者まで居る。



 ん〜、ずいぶん恨まれてるなあ。この人見覚えないけど、そんな酷いことしたっけ?


 ジュニは耳だけを男たちに向けて、警戒し続けていた。



「そこを何とか、引き受けてくださらぬか? 引き受けてくれれば、ギルドへの支払いと同額、ギルドへの分とは別に、皆さんへも払おう」

 リューズは彼らへ身体を正対させ、真摯な目で訴える。


「へ、陛下!? それでは予算の倍が」

「おいアワー、お前は狼狽(うろた)えるんじゃない……」

 陛下と呼ばれたリューズは思わず右を向いてから、頭を抱えてため息をついていた。



「もし……」

 一人の女が控えめに挙手していた。

 この場にはあまり似つかわしくないように見える、黒髪の魔術師らしき女。


「コムナイどの、どうかなさったか? お聞かせ願おう」

「では……」

 先ほど「陛下」と呼ばれるのを聞いたからだろうか、女はリューズの許可を得てから話し始めた。


「こたびのメンバー、あまり折り合いが良くなさそうです。まずは小集団に分けてみては如何でしょうか?」

「小集団?」

「わざわざ他国の腕自慢を呼ぶほどの難事なれば、まずは離脱者を減らしましょう。戦力の分散は下策かもしれませんが、離脱はもちろんのこと気の合わぬ者を一緒くたにするのも戦力の低下に繋がります」


「ふむ……なるほど一理ある」

「この場には九人招かれています、私とキャンピールさん達、それと他の皆さんで組分けしてみては」

 女は組分けまで考えていたのか、すらすらと提案する。


「ポリッシュ、それでよいか?」

「少し作戦を練り直すことになりますが、そこは何とかします」

 リューズは左手の鎧騎士に確認し、了承を得る。

 そして、


「皆さんも、それで何とか……話を聞いてくださらぬか?」

 深々と頭を下げるリューズを拒む者も、注文をつける者もいなかった。



 うまく話が運んで、よかった。なんかいい金になりそうだし、後ろから刺される心配もしなくてよさそう。

 お姉さん、もしかしたらこの恩もアダで返すかもだけど……とりあえずありがとう!



「よし、アワーよ、コムナイどのとキャンピールの皆さんをもてなしておいてくれ。まずは彼らに、私とポリッシュで説明する」

「さてさっそくですが、まずは我らの敵、竜騎……」




「しばらくはこちらでお待ちください。食事なりベッドなり、お望みでしたらご用意いたしますよ」

 アワーに案内された客間で、女魔術師と獣人三人が待機していた。


「何なりと」

「では……できたら、お風呂をいただきたいのですが」

 さっそく女魔術師が要望していた。


「おふろ!? おふろってあのあったかいアレ!?」

「姉さんちょっと落ち着いて」

 獣人たちのうち姉妹は話に加わり、老人は居眠りしている。


「風呂、か……あの件以降、城の風呂はしばらく使っておらんのだ」

「そうですか……」

 人間二人が表情を少し曇らせる。


「しばらく手つかずだからあちこち不備があるかもしれん。それでもよければ、準備しよう」

「ありがとうございます」


「……で、三人分、でよいかな?」

 アワーは深々と頭を下げる女魔術師に顔を向けつつ、獣人姉妹を横目に見て……微笑んでいた。

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