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将軍、魔術師、獣人など女たちが

 本投稿より新章『すくって、すくわれかけて』となります。

 本章では、前章までとちょっと表現を変えていますが同じ主人公のお話です(ねんのため)。

 石造りの広間、その中に大きく重く鎮座した円卓……


 そこには円卓を囲むように木の椅子十席ほどが設けられ、それとは別に石造りの意匠を凝らした美しい座が一つ備えられている。

 貴人がそこに座る、その左右がやや貴である他には、明確な席次がない。


 その、やや貴な一席に一人の男……否、男装の麗人が座っている。


 この国の鎮軍将……現時点では最上位の将軍とされる女将軍。




 少し早く来すぎただろうか。

 配られた資料を何度かパラパラ眺めて、出席者が集まるのを待っている。


「こちらでお待ち下さい」

 兵士の声がするたび、今回招待された出席者が広間に入ってくる。

 既に着席してるのは三人。体格には違いがあるが、いずれもややガラが悪い。それでいて、手練れらしき雰囲気を隠しきれていない壮年の男たち。


 ……残りのメンバーもこれだったら、あまり希望は持てないな。

 確かに私より強いかもしれない、だがその程度では……アイツには勝てない。

 私と勝負になる程度じゃ、あの「龍を退けし(つわもの)」に勝てるはずもない。


 というか、私には参加者名簿くらい用意してくれてもいいんじゃないのか? 大臣さあ……

 いくらアイツと私が建国前からのパーティメンバーだったからといっても……深い仲だったわけじゃない。



 と、自分たちからは離れた席の一つに、大きなフードを目深にかぶった者が着席しようとしていた。

 私は今しがたこの円卓の間に……この国に招かれてやってきた、会合参加者の一人へ目を向けてみる。


 その者は、フードの大きさとは対照的な、丈の短い肩掛け……飾りの付いたケープショールのようなものを身に着けている……女だろうか?

 とさらに目を凝らして歩く様子を見てみると、これまたフードとは対照的な、ぴったりとした肩掛けが身体の線……肩幅や胸の厚みをはっきり示している。特に、布地の端を持ち上げる胸の盛り上がり……ん?

 それは見るからに女のものだった。


 また視線を下げると、上下一体らしき薄茶色の衣はあまりこの国、大陸では見かけない型……胴の部分が、身体に密着したような型をしている。それにより、脇腹から腰にかけた女性特有の曲線が柔らかく描かれている。

 それは私がひた隠す部分。


 さらに目線を下げると、スカートは……円卓で膝下が見えない。ということは、この大陸で一般的なものより長いか。

 しかしここに呼ばれた、名のある冒険者が好んで着ている以上……裾を踏んづけることは無いように(あつら)えられているのだろう。



 その女は、私の真向かいに座っていた。

 やはり、肩幅は普通の女とあまり変わらない。体型からして、前衛で闘う戦士ではなさそうだが……魔術師だろうか、それとも?


 あれこれ考えているといつの間にか、国王陛下がお見えになっており……大臣も着席していた。

 今はまだ陛下の命であることを公にしないため、臣下の礼を取らずに対応する……という手はずだったから助かった。


 ホッと胸をなで下ろしていると、鐘が二度鳴った。


「まだ揃っておらぬようだが……定刻だ、始めようか」


「西大陸冒険者ギルドの精鋭諸君、此度(こたび)はこの大陸まで遠路はるばるお越しいただき……先ずは御礼申し上げる」

 陛下は数席空いた円卓の全体に顔を向けながらお声をかけている。


「さて、互いに自己紹介をしようか。先ず私は、本件の依頼者であり、この国の大司馬を務めるリューズ・カボションという者だ」

 大司馬……国防大臣といえば分かりやすいか。

 ただこの国では、それは国王陛下が兼ねている職権だが。それは他国の貴賓でもない余所者にわざわざ教えてやることじゃない。


「では私の……右手側から順に名乗られよ」


「尚書のアワー・ツツ・ガンキーです。私も依頼人の一人です……よろしく」

 尚書……めんどいから大臣でいいや。



 ガンキー大臣のあとは、私の直前まで西の大陸から招かれた精鋭たちの名乗りが続くことになる。


 そのうちの四人めが、先に注目した魔術師らしきフードの女。



「陛……あいや、依頼人の御前である。顔を見せられよ」

 あっ、大臣どの……陛とか御前とか……この人なんか口下手ってか、危ういんだよなあ。

 ま、そこ別に隠す理由もないような気がするんだけどさ。

 そのへん何か小難しい事情でもあるんだろう。


 フードを取る要求……


 この大陸にはあまり多くないが、他の大陸には獣人……尻尾があったり、耳の付き方とか体の一部が純粋な人間とは違ったりした人間が住んでいる。

 見た目以外にも多少人間との違いがあるが、何より彼らは好奇の目を向けられたり、差別的な扱いを受けたりすることを嫌って顔や尻尾を隠すことが多いらしい。

 またそういう事情を知っているから、普段は顔や体を隠していてもそれを指摘しないのが一般的な気づかいだそうだ。例外として、貴人の御前であれば、顔を隠さぬのが作法……



 というわけで、今回は一応フードを取る義務はない……ということになるのか?

 と思いきや、女はサッとフード……と肩掛けを外して脇に抱え、立ち上がっていた。どうやらフードと肩掛け部分が一体となった構造らしい。


 て、あれ、普通の人間……?

 魔術師であればそのグラマラスな体型の不利は少ないだろうが……なぜ冒険者なんて危険な稼業を続けるのだろうか。

 そう疑問に思えるくらい魅惑的なことを除けば、普通の人間。



「私は、レイ・イシューリア・コムナイ……ご無礼をお許しください、身の安全のため普段は顔を伏せておりますので」

 黒髪の女はそう言いながら、それまでの三人と同様に銀の板で彫られたギルド証を取り出し、卓に置いて提示する。


 しかしその様子は、どこかスムースでないというか……たどたどしいしぐさに見えた。



「この女が、名門コムナイ家の……」

「北西部の魔術師一族、コムナイ家の一員がギルドに加わったとは聞いていたが……既に白銀位とはの」

「俺も初めて見たが、しっかしこいつぁ……」

 俄然、他の冒険者たちの注目を集めていた。


 こいつは……いい女、と言いかけたな?

 私もドキドキしちゃってるから、気持ちはわかる。


 とても婀娜(あだ)っぽく、妖艶で、色っぽい。

 身体つきだけじゃない、表情や視線、髪や瞳のつややかさも。



 この感覚は久しぶり、しばらく忘れてられたのに……

 ああ、身体が熱くなってきた。困ったな。



「うぉっほん、静粛に……一先ず、全員の」

 と、リューズと名乗った……陛下が話を進めようとしたとき。


「こんちゃ! ご依頼は!?」

「ちょっと姉さん!? あ、すみません、遅れました……」

「まっ、待っと……くれ……い、息が」


 頭上に耳を立てた……それを隠しもしない獣人三人、若い女二人と白髭の老人が広間に通されていた。

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