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巻きで早めに帰っちゃう

作者試行中……

「ご馳走さまでした、ダン……私はメイといいます」

「メイ? 聞いたことねえ名前だな……俺の知らねえシェルターがまだ生きてるのか?」


「……No.76、知ってる? そこで家族と暮らしてたんだけど、みんな死んじゃったの」

 メイは事前に……この異界へ侵入する前に聞いていた情報をもとに、己の身上を取り繕う。


「ななじゅうろく? ソアサント区に16バンチあったっけか……?」

 ダンという男、現地人のはずだが……この世界の過去についてはあまり学んでいないらしい。

 メイは事前情報で、この世界のシェルター区画が全て二十区切りで造設されていたことを知っている。ダンが知り得ない話ではないはずだが。


「なにはともあれ、よろしくね、ダン」

「あっそうだ、もしダンって呼びづらかったら……サッチとか、サッチャーって呼んでくれてもいいぜ」

 ダンは自分のモジャモジャした髪を、手でポンポンと軽く押さえながら言う。


 ……いや、そっちのほうが呼びにくいんじゃないかな……


 この男、やや残念な頭をしているのかもしれない。メイはその点に気をつけておこうと心に留めた。

 とはいえ、自身の素性を誤魔化すには好都合か……とも思いながら。



「つか、あれ? そういやお前、どこ行くつもりなんだ?」

「それがね、実は私……行くあてが……っ!?」

 メイは根なし草を装うが、それどころではなく……

 突然ダンの後ろで床の一面が円形に青ざめ、そこからムチリムチリと音を立てながら何かがせり上がり雄々しく屹立(きつりつ)した!


「危ない!」

 ちょうどいい、排除のついでにこちらの力を見せておこう。

 メイは横に跳びながら銃を取り、巨大な不定形の何かに熱線を浴びせた。


「ぁン?」

 すると半固体状のそれは、奇妙な音を出しながら半分ほどの大きさに縮む。


 即死しそうな感じではない、ならば様子見がてら……

 メイは熱線を数発連射してみた。


 数本の熱線を続けざまに受けた、半固体状らしきそれが出す奇妙な音はますます大きくなり、それと反比例するようにその体がみるみる縮んでいく……


「よし!!」

 ダンはその様子を好機と考えたのか、二、三歩助走を付けて物体に近づき、膝下ほどの体高まで縮まった()()を蹴り飛ばしていた。


 何がよし、なのか?

 少なくとも壁や床から湧き出す物体については……体が急速に縮まるのは、近寄っても問題ないほど弱体化していることを示している……と考えて良い、ということなのだろうか。

 ここでの戦い方、立ち回りの参考になりそう。




「おまえつええな。」


 何故か口ぶりが変わっている。

 それはともかく、首尾よく戦力として認めてもらえただろうか。


「私、行くあてがないの。ここで会ったのも縁だろうし、一宿一飯の恩もあるし……ダンについて行ってもいい?」

「いっしゅく……なんとかはよく分かんねえけど、一緒に戦ってくれるんならオッケーだぜ!」

 ダンは見た目よりも若い……少年のような、屈託のない笑顔で握り拳を見せた。


「ていうか……できれば、手伝ってくれると助かる!」

「手伝う……戦うのを? それは構わないけど、誰と戦うの?」

 メイは内心ほっとしながら、答えを知っている質問をする。


王母(マーチ)って呼ばれてる……っつったらわかるよな? こいつらの親玉」

 ダンは先ほどの物体が居た辺りを指差して睨みながら、生唾をのんでいた。




 メイはダンの案内で、何らかの生体めいた構造の中を進んでいく。ときおり襲いかかってくるものたちを打倒しながら……

 そして昼も夜もない構造のなか、ダンの時間感覚に従って定期的に休息を取る。



「けど、これだけやれる戦士がいたなら、今までに名前を聞いてねえはずがねえんだよな……」

「物心がついたころにはもう、近くのシェルターに誰もいなかったからね。長いこと家族だけで広々と暮らしてたんだけど……私一人になっちゃうと、逆に維持できなくて。燃料も減ってきてたし」


「なるほどなあ……そう聞くと、やっぱここらで動いて正解だったかもしんねえな」

 ダンは湯ざましを飲み干す。


「俺のシェルターでも物資が尽きかけてる。だから、もう小競り合いやってる場合じゃねえ、思い切って親玉を潰しに行くしかねえ……って思ってよ」


「名案ね……話変わるんだけど、お酒持ってない? ここだと風が気になって、なかなか寝付けないの」

「ねえよ、ねぇ。てか酒なんて、おっさん連中の昔話を聞いただけで実物見たこともねえよ」

「そう……」

 ここにはない。辛い事実。



 そんな会話をしながら身体を休め、また王母(マーチ)の居場所へ向かって進み……と繰り返し、何度目かの休息を取っていた時……


 何か奇怪な虫がぞろぞろと(すだ)くのを目にしたような……妙な不快感に襲われて、メイは目覚めた。

 何故かとても、嫌な予感がする。


 まずはダンに異変がないか聞いて……と、少し離れた場所で火の番をしているはずのダンが居た辺りに目を向けた。

 だが、当のダンは……大きないびきをかいて居眠りしている。


 まったく、仕方のない人。

 と、吹き出しそうになったところで……船を漕ぐダンの先、暗がりでうっすらとゆらめく歪んだ影が見えた。



 壁なのか、生物の大軍なのか……その断定すらできないほど広範に展開した、濃密に密集した肉塊が(うごめ)いている。


 その手前に立つ、蜘蛛が這うような姿で脚を地に付けた生物らしきもの数体。そのうちの一体が、既にダンへ近付いてきていて……



「ダン、起きて!」

 メイの声にダンは飛び起き、生物はダンではなくその荷物に飛びついていた。


 生物は前脚を模したような部分を器用に操り、ダンの荷を解いて床に散らかしている。

 二人は生物を睨みながら、その様子をうかがう。


 やがて、生物が漁る荷の中の一つに……女の子が好みそうな少女型の人形が見つかった。生物はそれに興味を抱いたのだろうか、残りの荷を払い除けて人形だけを拾い上げる。



 荷を選別している? もしや、この生物は…………


 メイはその振る舞いに、生物の認知能力、知能の一種を感じていた。

 もう少し、この生物の行動を調べたい。あるいは彼らも、遠い将来高度な知能を身に付け、この異界の霊長(ヒト)たり得……


 メイは『管理官』の仕事の根本を思い出す。

 しかし時を同じくして、ダンの顔色が変わっていた。



「そいつに触るなッッ!!」



 あ、そうか、()()だ……


 メイは閃いた。

 ここでダンの行動を変えさせることで、この争いの本来の結末……ダンと侵略者たちの相討ち……を改変し、ダンを生存させる。

 それによってこの異界の顛末……「次に現れる侵略者による現生霊長(ヒト)の滅亡」を回避する。


 それが、依頼完遂のための最適解、か。

 依頼でここへ来た以上、仕方がないか。



 ここで彼を無駄に消耗させないこと、それが肝心要。

 ここで不要な戦闘を避けてダンの体力を維持させることにより、ダンと侵略者たちとの闘争を……相討ちではなくダンの勝利、生存という結末に導く。

 それが私の、第一目標。


 更に言えば、()()()()で私が姿を消すことにより……ダン一人をこの世界の救世主、英雄として神格化させる。

 それが私の、第二目標。


 ……そのためには。



「それに触るんじゃねぇ! 返せッ!!」

「待って! 待ちなさい!!」

 飛び掛かろうとしたダンを背後からなんとか捕らえた。が、ダンの馬力を押さえ続けるのは難しそうに感じて、やむなく羽交い締めにする。

 

「うぐ……離せ! 離してくれ! お前に何がわかる! あいつだけは、あいつだけは!!」

狼狽(うろた)えるな! 落ち着きなさい!!」

 ダンを羽交い締めにしたまま、その耳元で声の限り叫ぶ。


「うぉっ、み、耳が!?」

「私が行く、私が必ず取り返しておくから!!」


「おねがい、信じて……私がこいつらを足止め、いや全滅させて、あの人形を取り返す。だから貴方はとにかくマーチの所へ急いで、そして奴を倒して……絶対に!」

「えっ、あ……」

 メイがダンの拘束を解くと、ダンはまずメイの側へ振り向いていた。そして頭に手を当て、迷う素振りを見せるが……


「オス! 分かった!」

 そのままメイの後方へ駆けていった。


 変に頭の回る人物でなくて、良かった……

 普通なら、戦力の集中……二人で目の前の敵を叩いてから次、と考えるだろう……と思うから。


 そうさせなくて、良かった。



 これなら、彼の人形を壊さないことだけ考えて……全力で闘える。

 彼の思いを尊重しつつ、ちょっと早めに帰還できるかもしれない。


 帰還すれば、私も美味い酒が飲める。

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