そむかずに
「あの話って、なんの話……主役? って……どういう意味? あ、それと局長って呼ぶのいい加減やめて?」
メイはいろいろと気にかかってしまったせいか、つい二人への質問と指摘を混ぜて口にしてしまった。
「ってあれ、メイやんあの話知らないの? メイやんにしちゃなんかレアっぽ」
レイナはいかにも意外だという様子で目を丸くして唇をすぼめて、不思議そうにメイの顔を見上げている。
「よしっ、じゃあさ……ん、アレ……えと、マリっちおしえたげて〜」
と、レイナはメイを見たままニヤリと口角をあげて、赤い横髪をピョコっと跳ねさせる。そして何かを言おうとしたが……一拍、間を取ったような調子でマリエに話を振っていた。
「本当に知らない? 教えるのは構わないけど、私には信じられない」
マリエはどうもメイを疑っているらしい……が、メイにはどうにも心当たりがない。
少なくともメイにとって良い話ではなさそうだ、という予感はしているが。
「この噂、私は……悪い話だとは思わない」
「……とりあえず手短におねがい」
メイの直感を読んだかのような物言いは流して、話を早めてもらう。
なにしろ、今はタム……娘を迎えに行く途中なのだから。
「そう、なら端的に。近々、無事に再建が完了する予定の使座堂……その、記念すべき最初の催しは……新局長メイの叙任式、そのほかにはあり得ない……という話を何度か聞いた」
……は?
「ああそうそう、反乱ちんあつの立役者のメイやんをなんとか〜……とかって話もあったよねぇ」
え、いや、そんな話……まったく知らない。
というか、なんでそんな飛躍して…………
「な、何よそれは……」
思わず、素で問いかけてしまった。
「次期局長はメイで決まり……局内のあちこちで、そういう噂になってる……ただ、詳しくは知らない」
普段はメイを真っすぐに見つめているはずの、青い瞳が横目に……目を逸らしている。
普段は冷静沈着なマリエからは想像できないほど……まるで違和感に気付いてくれと言わんばかりの、不審な様子。
まさか……彼女も一枚噛んでいるのか?
そして、そのことを察してほしい……のか?
「どこからそんな噂が出てきたのか分かんないけど、本当に私って話なの? もっと経験とか、やる気とかある人が……」
「やっかみや嫉妬から、また軋轢が生まれかねない……というなら、その心配は要らない」
「そんなんだいじょぶっしょメイやんだし」
そういう心配……が、無いわけではないんだけど。
正直なところ……単に気が進まないってのが本音。
「私の見る限り、そんな輩はもういない。それにもし」
「もし?」
「もしそんな輩がいるなら、放ってはおかない」
気が進まないメイを置き去りにするように、二人の話が進んでいく。
「パァン、って?」
「私はレイナとは違う……こっちで」
一人が笑顔で、人差し指と親指で拳銃を撃つようなジェスチャーを示した。
もう一人は真顔で、手元に巨大な鎌を顕現させてその切っ先を指し示した。
どうやら、反乱分子には実力行使もやむなし……とまで、新局長メイの就任後を想定しているらしい。
「あのさあ……二人で盛り上がってるとこ悪いんだけど」
「どしたん? メイやん」
「そういう、不満を持つ人がいるなら……私が出しゃばらずに、控えておこうかなって話で……無理やり黙らせちゃだめでしょ」
「今はそんなことを言ってるような状況じゃない……メイがそれを理解してないとは思わない」
「つかあたしも、メイやんが局長だったらうれしーし」
メイの指摘は、二人の熱気をまるで冷ませなかった。
この二人は……噂の出所や真偽とは無関係に、メイが局長となることを望んでいるのだろう。
そして、そんな噂が不穏な様子もなく広まるということは、おそらく二人以外にも……
……私が局長だったら嬉しい、か。
「ね、マリっちだってそうでぶべしっッ」
と、レイナがマリエに同意を求めたところ、突然吹っ飛んでいた。
「いっ、言わないでよッ!!」
いきなり、力強くレイナを突き飛ばしたらしい。マリエは目を見開いて、眉を……いや顔中を、そして声を震わせている。
……さすがにもう分かっている。そもそも自分でも、察してくれというような態度だったのに……何を今さら?
あ、もしかして……バレバレでもいいが、改めて人に言われるのは嫌……とか?
ま、なんにせよ……
そろそろ潮時ってやつ……なのかな。
「貴女が乗り気じゃないのは知ってる、けど逃げるのは良くない」
「逃げ……か」
「貴女が局長に気を遣いたいのも、わからなくはない……けれど、だからこそ逃げてはいけない」
今度は、青い瞳で真っすぐメイを見据えている。
「局長のためにこそ、貴女が立たなければならない」
「……建前としてはそうなんだろうけど、ね」
「貴女が局長になると言うなら、私はいつでも支える……これは、嘘じゃない」
マリエは視線を動かすことなくメイの手を取って、少し痛いくらいに強く握っていた。
また……視線こそメイに留めたままだったが、その青い瞳は微かに震えて、そして潤んでいた。
……思っていた以上に、外堀は素早く確実に埋められていたのかもしれない。
そろそろ観念して、覚悟を決める……しかないのかな。
あの子が、いつか帰ってきてくれると信じて。
娘と手を繋いだ帰り道、メイは何も言えず……ただ歩いていた。




