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さがれずに

 はじめて局長の蘇生に失敗したあの日から、半年ほどが過ぎた。

 ……私は、管理局を去ることができなかった。


 すぐそばで局長の、あの子の傷ひとつない肉体(からだ)を見て……すぐにでも元気な姿で蘇ってくれるはずだと思わせといて、何度も何度も生殺し。

 そんな状況では、逃げようもなかったのだけど。

 あの子を置いて管理局を辞める……なんてことは、あり得なかったから。




 今日はトラブルらしいトラブルも、難題もなくて良かった。急ぎの事務処理もだいたい済んだ……タムを迎えに行くで多少時間もあるし、たまには身体を動かしとこうかな。


 半年ほど局長代行として働いて、その仕事にも多少は慣れてきたのだろうか。

 この日、余力を残して一日の業務を終えられたメイは訓練場へと足を運んでいた。



「みんな〜、局長来てくれたよ〜」 

 訓練場に着いたメイを見かけたらしい人影が、背を向けて声を張り上げる。


 ……だから私は代行だ、って……大半の局員がずっとこんな調子では、今さらツッコむ気力もわかないけど。


 メイは軽くため息を吐きながら場内へ進む。


「あ、局長さん! 来てくれたんですね!」

 すると、場内中ほどの人溜まりから一人が……外見には特に目立つ特徴のない中肉中背、声も一般的な元気のある女声で……管理官(キュレイター)リリアセウスがメイの前に飛び出してきた。


「お疲れ様です、リリさん」

「覚えていてくれたんですね、局長さん! お疲れ様です! あの、いきなりですけど、その、よかったら……」

 挨拶を交わした直後、メイはリリアセウスから急激な闘志の高まりを感じた。しかし……


「待ちなさい……」

 間を置かず、低く暗く沈むような声が人溜まりとは別の方向から聞こえて……


「私に勝てない者には、メイ……局長の相手はさせない」

 長身痩躯、美しくも表情に乏しい女が殺気を伴って横から現れた。

 その声も殺気も、マリエ……メイにとって身近な友人から発されるもの。


 マリエも訓練に来ていたのか。意外と暇なのかな?


「っ……」

「メイ局長の胸を借りるなら、まず相応の力を示さねばならない」

 メイのとぼけた感想はさておき……マリエはじっとりとリリアセウスを睨みつけながら、その手首を掴んでいる。


 ああ、マリエならそう言……いやいや局長じゃないって。

 貴女くらいはちゃんと「代行」と呼んでくれないかな……でなきゃ示しがつかない。


 ま、それはそれとして、この二人のマッチアップ……見てみようか。



「よし、打ち合わせ通り……みんな行くよ!」

 と、リリアセウスが自由な側の手を上げてからマリエに身体を預けて押し出した、その動きに合わせたように人溜まりが散開し一斉にマリエ達を取り囲んだ!


「今です、ドムーク姉貴!!」

 マリエ達を囲んだ人溜まりの中から叫び声が聞こえて、


「ありがと、リリ」

 メイの眼前にはそれとは別の、重厚な姿が一つ……


 女と見るにはあまりにも力強く、しかし男と見るには柔らかな色気が漂っている。

 その見るからに強靭な、薄い茶の肉体……管理官ドムークのそれは、以前会った時よりも更に逞しく鍛え上げられていた。


「局長、手合わせお願いしまッス!!」

 ドムークは有無を言わせず飛びかかってきた、メイはとりあえず受け止めてみることにする。


 なんか無防備というか、不用意な飛びこみに見えるけど……多少の反撃は耐えて、とにかく掴みたいってところか?


 メイはドムークの突進を止めようと手を伸ばした、しかしドムークは体勢を低く落としてメイの手を避ける。そしてメイの胴体を抱え込むように抱きついて、両腕で一気に締め付けてきた!


「くっ……」

 素早く強烈な締め上げで、メイは息が詰まるのを自覚する。


 これはなかなか、馬鹿力ね……


「まだまだ、もっとギュッと締めるッスよ……っ!?」

 メイは右手の掌を立てて自身の胴体とドムークの腕との間に差し込み、その手を目いっぱい下げた。そして身体を左にひねりながら右腕を持ち上げることで投げを打つ!

 メイはさらに、両足で飛び上がりドムークへのしかかる力を加えた……ドムークの力強いフックを利用して、床へ頭から落とす体勢を狙ったもの。


 ただタフなだけなら、このまま手を離さずに床に頭と肩をぶつけて、耐えようとする可能性が高い。

 冷静なタイプなら、受け身を取るために一旦手を離して……次のチャンスを狙うだろう。



 結果、投げの勢いと受け身、追撃を避けるための横転……いくつかの要因により二人の間合いが空いた。


「すごいッスね、局長」

「貴女こそ」

 どうやらお互いに、相手の実力の一端を理解したらしい。

 ドムークは屈託のない笑顔をメイに見せる。


「それにいい匂いがしたッス」

 しかし笑顔とともに発された言葉は、どうにも場にふさわしくないものだった。


「……は?」

「あっ、いやなんでもないッス……」

 まずいことを言ったと気付いたのか、ドムークはすぐにメイから顔をそむけていた。


「……どういう」

 訓練とは別の目的があったのか、とメイは問い詰めようとした。


「っと」

 問い詰めようとしたが、疑問を投げかけるより早く局員の身体が吹き飛ばされてきた。

 もう一方の手合わせ……局員たちの包囲を破ろうとしたマリエが、囲みの一部を吹き飛ばしたのだろう。

 メイは飛んできた局員を受け止めて、床に寝かせてやる。


「あっちはそんな持たないッスかね……局長、もう一度お願いしまッス!」

 ドムークはまたも、牽制の打撃を見せることもなく不用意にメイへ飛びついてきた。

 メイはドムークの突進に合わせ顎を軽く突いてみる。当てることを優先した突きが顎に触れ、顔を揺らした……が、ドムークはゆらりとよろけながらもメイの身体を掴む。

 ところが、メイの身体を捕らえたドムークは頭を付けて……それ以上の攻めを見せなかった。


 顎に綺麗に入って、動けなくなった……かな?



「すぅ〜〜〜〜〜〜〜〜…………」


 身体に頭を付けて大きく息を吸い込んでいたドムークを、メイは思わず全力で突き飛ばしてしまった。


 ドムークは壁まで吹き飛んで身体を痛め、メイはひび割れた壁の修繕費を請求されて懐を痛めた。

更新遅れてごめんなさい

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