表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

102/110

うまれずに

 お待たせして大変申し訳なく……

「さあ、一月ほどのバカンスから……目覚めていただきましょうゾ。各員、用意はできてますかナ!」

 メイの横で、ペドロが珍しく大声を張り上げた。

 しかし……


「ペドロ課長、まだシステムのクールダウンが終わっていません。蘇生スタンバイまでもう少し時間が必要です」

「な、なんと……どうやら早まったようですナ」

 すぐに部下らしきオペレーターからの冷静な指摘を受け、ペドロは気勢を削がれていた。


「ペドロ課長、待ち時間があるなら、この機会に……この蘇生システム? についてご説明いただけませんか」

 苦笑いしながら丸い青頭を()くペドロに、メイは話を振ってみる。


「そうですな……ふむ、簡潔にいうなら、クローナル肉体……新しい身体に回収済みの霊体・精体を押し込んで、拒否反応が出ないように騙しながら三極を和合……馴染ませていく感じですナ」

「……騙す?」

 なんとも科学的でない言葉に、メイはつい反応していた。


「ええ、今回のケースでは霊体・精体が死を自覚していますからナ」

「『識死汚染』……」

 メイは仕事柄、馴染み深い言葉を思い出す。


 霊体や精体が己の死を自覚すると、基本的に霊体や精体は悪影響を受ける。

 死を受け入れて弱る、または活動を止めようとするもの、死に納得できず怨念を募らせるもの……強い怨念と霊体・精体の力によって各地に霊障を起こすものもいる。

 そのため、各人の霊体や精体が死を自覚する『識死汚染』……これによる悪影響を防ぐことは『礎界』の住人にとって当然の処置である。

 管理局やその職員にとっては、他にも避けたい悪影響、対処すべき理由があることも多いのだが……それは今回関係のない話。


「その通りですゾ、蘇生のためにはある方法で『識死汚染』を解消してやらねばならんのですナ」

「それは、薬剤や擬似投獄とは別の方法……」

「そう、あなたは死んでなどいない、ホラ肉体も元気そのもの……だから早く悪い夢から覚めなさい、と……元の肉体で生きていると思い込ませるわけですゾ」

「大げさな例え話でしょうけど、それに近い程度のことで……本当に?」

 メイはどうも蘇生システムについて納得できていない。

 ペドロの説明が簡潔というか、噛み砕かれすぎているせいだろうか。


「そこは我々の研究成果のキモでしてナ、自身の肉体から生命力を干渉させる……霊体や精体に、自身の肉体が生きていると知覚させることで、霊体や精体の平衡もだんだん生の側に寄って……『識死汚染』から回復させられることが分かっているのですゾ」

「つまり、肉体の用意こそが重要だと?」

「ですナ、霊体と精体さえ回収できていれば、残る問題は……こちらで用意したクローナル肉体を自身の肉体だとうまく誤認させること、ですナ」


 逆にいえば、霊体と精体を回収できなければ蘇生はできない……そこまで都合のいい技術ではない、か。

 と、それってつまり……まさか、局長(ショボー)は最初から……!?


 初めから、自分の命をエサに反乱兵たちを釣り出して自爆……するだけでなく、すぐ第六課に身柄を回収させて、後に蘇ることまで考えていた……のか?

 そこまで考えて……いても全くおかしくない。あの子なら。

 いや……そこまで考えて準備していたはずだ。あの子なら。


 ……人の気も知らないで。


 憤りと少しの畏れと、喜びが混じって……メイは思わず涙ぐんでしまう。


「とはいえこちらは、対象者の体細胞……遺伝情報を保持しておけば大した問題にはなりませんゾ」

 そんなメイの様子を知ってか知らずか、ペドロは説明を続けていた。


「肉体との和合性確認、調整は昨日済ませましたゾ。意外と手こずったせいで、ワタシは少々寝不足ですがナ……ぅふわぁ」

 ペドロは寝不足だと言ったところで、わざとらしいほどスムーズな、大きな欠伸をして見せる。


「失礼、しかしここまで来ればですナ、もはや勝ち確……過去に失敗例はありませんゾ」

「といっても、成功例も二件でしょう? 確定というにはまだまだ試行例が少ないのでは?」

 まだ動揺の残っているメイは、サンプル不足を指摘しながらも……内心ではすっかり浮かれていた。


 そうは言ったけど、もう楽しみでたまらない。

 逢えるのだ。また、局長に。あの子に。


「う、さすが代行どの……今のところ、ではありますがナ。失敗していない、というのは開発者にとって心強いことなのですゾ」


 今度はタム……二人の娘と、三人で逢えるのだ。

 本当に、本当に……嬉しくてたまらない。



「ペドロ課長、システムスタンバイが可能となりました。いつでもご指示をどうぞ」

 と、どこかで聞いた声のオペレーターが作業の進捗を伝える。


「心の準備はよろしいですかナ? 代行どの、タムちゃん」

 親子二人への呼びかけ……ペドロからそう声をかけられても、メイにはタムを顧みる余裕すら無かった。

 ただ、深く頷いていた。


「さあ! あと少し、ちょっとしたスパイスを加えて……局長どののお目覚めですゾ!!」

 システムを統括するペドロの、ゴーサインが出されて……


 シリンダーの内部が淡く輝き、それよりも眩い光が配線を通じて局長の身体へ侵入していく…………




 しかし何も起こらない。


「ど、どういうことですかナ!?」

「予定時刻は過ぎてますが……」

「もう少し……待ってましょうゾ」


 しかし待てども変化はない。

 シリンダー内の身体は、ピクリとも動かない。



 問題のない肉体と、霊体と精体とが用意できているはず。

 それなのに、一向に意識を取り戻す様子がない。


「これは……」

「し、失敗!? 理由は……原因になりそうな逸脱はありますかナ?」

「回収の直後でも、霊体にも精体にもまるで損傷が見られず……さすが局長殿だと感心したものです。現在も霊体・精体の変質、変調を示すデータはみられません……蘇生の阻害要因はないはずです」


「となると、三軸の均衡が生まれていない……?」

「いえ、同調率は蘇生システムの稼働開始から常時九割後半を維持しています。三軸の調和に問題はないはずですが」


 失敗……?


 目の前が真っ暗になったような、天地が逆転したような強い目眩がメイを襲った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ