表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

猫、擬人化。③

作者: 七海いのり



「最低。だから男子って嫌い」


 南さんが、僕に冷水をあびせたような、冷たい目で(にら)む。

 僕は、のどがヒューと鳴った。初対面の南さんに軽蔑(けいべつ)されて、僕は精神的に凄くまいったようだ。


「南、それ言い過ぎだ。男子と一括(ひとくくり)にしないよ」

「うるさい。藤田に関係ない」

「夜月は、友人なんだ。関係あるよ」

「友人? さっき少し話しただけで、『友人』になるんだ? 藤田の友人って軽いやつばっか」

「僕は自分に、『人を見る目』があると、思っているからね。だから、南のことも、僕は友人だと思ってるよ」

「迷惑。藤田も、朋里も。『友達ごっこ』にボクを巻き込まないで」

「うわあー『ボクっ()』だ。リアルにいるんだ。凄ーい!」


 僕は思わず嬉しくなって、大きな声がもれてしまった。

 そしたら、また、南さんは、(さげす)んだ目で、僕を睨んだ。僕ののどがまた、ヒューヒューと鳴る。


「大丈夫? 夜月、喘息(ぜんそく)? 吸入器(きゅうにゅうき)ある?」

「喘息?」


 また彼が、僕のことを心配してくれた。

 さっきも、彼こと、藤田くんは、南さんと口論(こうろん)しながら、僕を擁護(ようご)してくれた。


 彼は聖人(せいじん)か?

 『藤田 稔』くんは、僕の憧れるアニメやマンガの、主人公か、主人公の親友だろうか?


 彼が魅力的すぎて、うっかり()れそうになった。


 鈴木くんが、彼を『タラシ』と言っていた。あながち否定できないと思う。


「だ、だい、じょう、ぶ。僕のは、ストレス性だから」

「吸入器は?」

「家にあるよ。もう、落ち着いたよ。大丈夫」

「吸入器は、持ち歩けよ? 発作(ほっさ)が出るとキツいだろ」

「ありがとう。藤田くん、優しいね」



……


 僕と彼が、アイコンタクト?をとった。

 これは、本気で、友人フラグが立った?


 僕に、友達が出来ました!!!

 僕はレベルアップして、レベル1から、レベル10になりました。

 でもまあ、南さんにブリザードを浴びせられて、HP(ハートポイント)が100から、50になったけど。いや、MP(メンタルポイント)かな?


 夜月蒼 レベル10

 HP100

 MP50(MAX100)


「喘息、出すなんて、弱過ぎ」

「いやー、メガネ。まーた、タラシを発動させたな? 夜月がメガネに惚れました」

「夜月くぅん、ホォモォ、だったのぉ? でもぉ、稔くんは、モモッチのだからぁ、だぁめぇだお?」


 うわあー、みんな好き勝手言ってる。

 これ、どうするんですか? と、彼におどおどと視線をむけると、彼は小さく溜息を吐いた。


「南、LINE(らいん)、教えて」

「嫌だ」

「夏休み、僕に『勉強』を教えてほしいんだろ? 南、頭良いのに、『物理』だけ苦手だろ」

「そーだけど」

「夜月のLINE、教えて。この5人で、夏遊ぼう」

「嫌だし!」

「そう。南は物理で毎日、『居残り』するんだね」

「わかった! ほんっっと、最悪」


 彼の(たく)みな話術によって、予定通り、『南 遥』の連絡先をゲットした。


 そして!


 僕も、鈴木くん、彼こと藤田くん、朋里ちゃん、そして、南さんと、LINEが出来る権利を手に入れた!


 僕はまた、レベルアップした!

 僕のMP(マジックポイント)が0から、100になった!

 てれれれってれー♪



……


「メガネのくせに、リーダー気取りすんな」

「心外だな。このメンバーで、1番優れている僕が、船の(かじ)をとった方が、効率良く動けるよ」

「自分が優れてる、とか言うな。藤田、ほんと性格悪」

「ねぇねぇ? モモッチって、どぅしぃてぇ、だいすきぃなぁ、(みのる)くんに、辛口なのぉ?」

「藤田くんって、聖人(せいじん)だと思ってたけど、性格が(ゆが)んでて、ギャップがたまらない。凄い、好き」


 あ、みんなが、僕の発言に、ドン引きしてる。

 僕のなにが、いけなかった?


 鈴木くんは、いつも、彼か、朋里(ともさと)ちゃんに、イチャモンをつけてる。真の仲良しだから、できる芸当(げいとう)だよね。


 彼は、ニュートラル。本当に器用で、尊敬する。


 南さんは、外見が女神なのに、中身が悪魔だ。もっと仲良くなったら、ツンツンだけじゃなく、『デレデレ』も見れるのかな?


 朋里ちゃんは、天然記念物。とにかく可愛い。しかし、言動には振り回される。


 うーん、4人とも、尋常(じんじょう)じゃないほど、個性的。僕の個性は、どうやって出す? 僕だけ、普通過ぎて、つまらない人間だ。困ったぞ。


「なぁ、夜月。オマエも天然か?」

「違うよ。多分、アホなんだ」

「ホモだろ? いや、無節操(むせっそう)だな」

「なーに? せっそうぉ? 夜月くんはぁ、優しぃけどぉ、よーくぅ、わからないけどぉ、なんかぁ、おもしろぃ♪」

「なんだろう。僕、みんなに、嫌われてる?」


 図書室で、南さんを見付けて、南さんが、美術部に行こうとしているのを、邪魔している。

 図書室の一角に陣取(じんど)り、テーブルやイスに座って、南さんを巻き込んで、あれこれ話している。


 僕は、そろそろ、この環境に慣れてきた。

 いや、自分でも、慣れるの早すぎと思うけど。明日は、また、僕は『ぼっち』かもしれないけど。


 落ち着いてきたら、『夜子(やこ)』のことが心配になった。

 黒猫の夜子、どこに消えたのかな?



……


「もうすぐ5時だ。腹減ったなー。マック食いに行こうぜー」

「南、来る?」

「はあ? ボクは部活に行くんだ。やっと開放された。清々する」

「ええー? 南ちゃんもぉ、きてぇ? マックはぁ、(みのる)くんがぁ、ごちそぅしてぇ、くれるよぉ♪」

「ごめん。僕は、今日だけは、用事があって」


 僕は右手を小さくあげて、自分の気持ちを伝えた。

 本当は、一緒にマック食べたい。中学生になって、初めてできた友達。

 とても、とても、残念だけど。僕は、『夜子』が気になって、気になって、仕方ないんだ。


「なんだ? 金ないのか?」


 大柄(おおがら)な鈴木くんが、心配そうに僕を見る。


「探し物? 手伝おうか?」


 彼が提案をしてくれたけど、僕は、首を横にふった。『夜子』は特別だから、今の僕には、『夜子』を、彼に紹介していいか、わからない。


「ぼっち。お前また、『ぼっち』になりたいのか」

「本当は、みんなと一緒にいたい。けど、今の僕があるのは、『夜子』のおかげだから」

「夜子?」

「あ、うん、昨日、拾った黒猫。いなくなったから、探さなきゃ。夜子は、迷惑かも、しれないけど」

「黒猫、探すのか?」


 南さんが珍しく、普通に、僕に、聞いてきた。僕は、不思議だったけど、小さくうなずいた。


「にゃんにゃん!? 里もぉ、さがすよぉ?」

「ありがとう。でも、夜子、人見知りするし。僕も夜子が、どこにいるか、全然わからないし。ひとりで探す方が、気が楽なんだ」

「そぉっかぁ♪ にゃんにゃん、無事にぃ、みつかりますぅ、ようにぃ♪」


 僕は、4人にバイバイした。

 これから僕は、夜子(やこ)を探す。



……


 僕は中学校の中を、軽くちらちらと、夜子を探した。時計は5時30分。

 学校は(あきら)めて、朝来た通学路を、足早に進みながら、『夜子ー?』『夜子どこ?』と、声に出しながら探す。


『みゃあ?』

『なぁなぁ』

「あ、虎男(とらお)! 雉人(きじと)! 夜子、見てない? えと、黒猫、見てない?」


 茶トラ猫と、キジ猫のコンビ。僕は毎日、野良猫の、虎男と雉人を可愛がっている。

 しかし、今は、夜子を探さなきゃ。


『みぁああ?』

(ご飯、持ってきた?)

『なおなおなお』

(毎日、お腹ペコペコよ)

「ごめんね。虎男、雉人。わかった! 一回家に帰って、ご飯持ってくるね! 黒猫の夜子、見てないか、思いだしてみて?」


 僕は猛ダッシュで、家にたどりついた。家のテレビの時計は、6時だった。

 僕は自分の部屋へと走った。2階へとどたどた上がる。


「夜子ー!」


 僕の部屋に、夜子の姿はなかった。家の中をあちこち見て回る。

 走り回り、名前を何度も呼んだせいで、僕ののどは、からからに渇いていた。この暑い中で、動き回ったので、全身汗でびっしょりだ。


 僕はめちゃめちゃ、くたくただった。けど、休む時間がないと、なぜか思った。


 おじさんとおばさんは、今日は夜中まで、仕事らしい。

 僕は、キャットフードを持って、虎男と雉人の場所へと向かった。



……


 僕が急いで、虎男と雉人のもとに行くと、2匹とも、ちゃんと待っていてくれた。


「遅く、なって、ご、めん」

『みゃあ?』

(うち、良い子やろ?)

『なぉぉ』

(私、食べないと、考えられない)


 僕は、キャットフードを入れるための容器を、そっと地面に置く。それぞれに、ご飯をつぐ。

 近くに、違う容器も置いて、ペットボトルに入れて持ってきた、猫が飲める水をそそぐ。


 虎男がすりすりと、僕の足に絡んできたので、虎男の体を優しく撫でる。それに安心した虎男は、キャットフードを食べ始める。


 雉人は、一言『なううう』(いただきます)と鳴くと、無心にキャットフードをがつがつ食べた。よほど、お腹が空いていたんだろう。


「ごめんね。お腹ペコペコだったね。たくさん食べてね」


 僕は、虎男と雉人が、キャットフードを食べている間、地面に座り込み、ひと休憩した。


 ふと、僕は、夜子と出会った場所を思い出した。

 海がすぐ横にある、堤防(ていぼう)だった。


 僕はスマホを見ると、時間は6時30分過ぎだった。夏だから、辺りはまだ明るい。


 夜子と出会ったのは、夜遅かった。確か、9時過ぎていたはず。コンビニによった帰り道だった。


『みぃーこ』

(ごちそうさま! 夜子ってだれ?)

『なうおー?』

(黒猫? 私は知らないわ)

「虎男、雉人、黒髪のツインテールの女の子、見なかったかな? どこに行ったか、知ってるかな?」

『みゃーあ!』

(多分、海の近くにいたわ)

『なぅ。なお?』

(たまに会う、コンビニの近くじゃ、なかった?)


 僕がダメ元で、夜子の居場所を2匹に聞くと、虎男も雉人も、方角的に、海の堤防がある場所を見た。


「ありがとー!」


 僕は虎男と雉人に、お礼を伝えた。容器の中は、空になったので、容器とかは持ってきたビニール袋に入れた。


 僕は、期待と不安を胸に、夜子と出会った、海がすぐ横にある、堤防を目指して走る。



……


 夕陽にさらされた、夜子はそこにいた。


「夜子ー!」


 僕の大声に驚いた夜子は、緩慢(かんまん)な動作で、僕の方を向いた。


「夜子! 心配したじゃないか! なんで、急に、消えたんだ。夜子、一緒に帰ろう?」


 僕は夜子が見つかって、めちゃめちゃ嬉しかった。柄にもなく、にこにこしながら、夜子へと、自分の右手を差し出す。


 夜子としっかり、手を繋いでいないと、夜子がまた、どこかに消えてしまうようで、恐かった。


 なにも言わない夜子。手を出さない夜子を見て、僕は不安になった。だから僕は勝手に、夜子の右手首を握った。


「力が強い。痛いわ」

「夜子、君は、僕にとって、大切な友達なんだ。だから、これからずっと、そばにいてよ」


 僕は夜子の目を見つめた。満月のような、金色の双眼。

 なぜだろう。悲しそうな色が滲んでいた。


「夜子?」

「なんで、きたの? (そう)、友達ができて、青春して、幸せでしょ?」

「うん。夜子のおかげで、僕、さっきまで、学校で楽しかったよ」

「あたし、もう、蒼に必要ないわ」

「必要だよ! 夜子が必要だ」

「勘違いしないで。あたし、自分のために、あんたに協力したの。あたしが、『あたしの願い』を叶えるために、あんたを利用したの」

「夜子の願いって、なに?」

「人間に、なること。人間の女の子として、生まれて、死ぬこと」

「夜子?」

「あたし、死なないの。猫でもない。人間でもない。人間の女の子になって、それで、幸せになれるか、なんて、わからない。けど、あたしは、『あたしが幸せになる』って、信じてるの」

「その願いは、僕のそばにいたら、叶わないのかな?」

「そうよ。だって、蒼、あんた、今、『楽しい』でしょ? あたしは、不幸な人間に『楽しみ』を与えること。数えてないけど、『千人の楽しみを叶えたら』、あたしの願いが叶うはず、なの」

「僕が今から、不幸になれば、夜子は、ずっと、僕のそばにいる?」

「ないわ。一度『楽しみ』を与えた人間に、また楽しみを与えても、あたしには、意味がないの。『楽しみ』を知らない人間は、たくさんいるの。だから、心配いらないわ」

「じゃ、夜子は、役目が終わるまで、『夜子の幸せ』はないのかな?」

「なに言ってるの! あたし、蒼と一緒にいて、楽しかったわ。ありがとう。さよなら」

「夜子!!!」


 夜子は、『さよなら』を言うと、黒猫になった。


 そして、僕は、夜子の手を離してしまった。


 黒猫の夜子は、素早く走って、僕の前から、姿を消した。


 僕は、『夜月 蒼』は、黒猫の女の子、『夜子』に、大切なことを教えてもらった。


 僕は、自分の小さな幸せを大切にしようと決めた。


 夜子、楽しみを与えてくれて、ありがとう。



 もし、また、どこかで、夜子に会えたら、今度は僕が、夜子に協力するよ。




Fin。



……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ