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1 時間停止モノ

 机の匂いが鼻に残る。


 休み時間、友達がいないので俺はずっと机に伏して寝たふりをしている。その時、机の木の匂いをずっと嗅いでるからこうやって下校中でもあの匂いが鼻に残っている。

 

 ぼっち。


 俺の名前は宇田川リョウイチ。

 高校の友達はゼロ。


 ヘッドフォンで音楽を聴いて電車の中。

 午後の光が満ちる車両。乗客はまばら。


 今日も家に帰ってネット見てゲームしてご飯食べてネット見てゲームしてお風呂入って寝るだけ。

 明日もそう。

 そんな事でいいのか。

 そんな事でいいのかって言われてもそれ以外やる事ないし。

 何かこう、意味のある事っていうか、自分のためになるような事やんなきゃダメな気がする。友達いないし。

 何かないかな、って、うーん、と腕を組んで目をつぶって考え、まあどうでもいいか、と目を開けたら、異変。


 窓の外が動いていない。


 俺は疾走する電車に乗っていたわけで、外の景色はぐんぐん過ぎ去っていくべきなのにそれが止まっている。


 え、いつ止まったん?


 周りを見ても乗客はひっそりと座っている。

 立っている人もじっとしている。

 誰も慌てていない。


 ああ、なんかアナウンスあったのかな。

 ヘッドフォンしてたから気付かんかったわ。ってヘッドフォンを外したら、物凄く静か。静寂。


 ん?


 まあ、待ってれば動き出すか。

 とスマホを出す。

 フォロワーのいないSNSをチェックして、なんとなく運行情報を調べてみた。何の情報も載ってない。

 そらそうか。止まったばっかだもんな。

 つってしばらくスマホをいじっていた。



 ◇ ◇ ◇


 いやおかしいだろ。


 もう30分経ってんだぞ。

 なんで何のアナウンスもないんだよ。

 あるはずだろ、あの抑揚のおかしな声で「エータダイマ、キケンヲシラセルシンゴウヲジュシンシマシタタメ、ゲンザイカクニンサギョウヲオコナッテオリマス」みたいなやつ!

 

 え、まじでこれ何?

 と車内を見渡して、まさか、と思った。


 俺はゆっくり立ち上がり、まず、あの、何ていうの? 座席とドアの間の角のコーナー。寄りかかれる、あのスペース。あのスペースが何ていう名称なのか分かんないけど、そこに立っている若い男性に近付いた。

 男は大学生ぐらいで、スマホをいじっている。

 いや、いじってない。指が動いてない。

 まばたきもしていない。

 

 次にすぐ近く、座席の端に座っている中年女性に近付いてみた。

 座席の一番端。みんなが座りたがる席。

 そこで本を読んでいるおばさま。マダム。

 上品な服を着ていて高級そうな傘を手すりに掛けている。

 それはいいんだけど、ページを一切めくらない。

 文字を追う眼球運動も確認出来ない。


 そんな調子で次々と乗客を見て行った。

 全員確認したら次の車両に移った。

 そしてまた次の車両へ。

 四つぐらいの車両を確認してからだろうか。


 冷や汗が止まらなくなった。


 口の中がカラカラに乾いてきた。

 ちょっと体が震えてるのが自分でも分かった。

 乗客全てに、重大な共通点があった。

 

 乗客全員、呼吸をしていなかった。


「うわああええええおおおわああえええええ!!!?!?」


 俺はとりあえずでかい声でリアクションしてみた。

 何か変わるかな、と思ったのと恐怖を打ち破るために叫んでみた。

 何も変わらなかった。

 乗客は静かなままだった。


「な……なんだこれ……???」


 死んでるわけでもなさそう。

 かといって生きてるわけでもない。だって息してない。


 何が起きたの?????


  え?  え?     え?

    え?    え?

 え?     え?        え?


 え?


 呆然と立ち尽くしていると、


 ガーッ! ダン!


 と荒い音がして「うおおおおっ!!?」ってめっちゃびっくりして音のした方を見ると、連結部分のドアが開けられて女子高生が立っていた。


 女子高生は、俺と同じ高校の制服を着ていた。


 長い髪を染めていて、ギャルっぽい。

 その女子が無感情、みたいな目で俺を見て言った。


「何?」

 

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