6・中年は念願の武器を得る
魔法師団体へと正式に所属する事になり、この県では、証明さえあれば武器が所持可能という事なので、俵を代表とするサン・メッセンジャーという魔法師団体のエンブレムが妖装に貼り付けられた。
「これで真部さんも俺たちの一員として武器が持てますよ」
そう言って妖装に貼られたエンブレムに、真部は満足げな顔をする。
「県の条例では、魔法師は決まった衣装を着こみ、その衣装の時に限り、武器を持てることになっているので、真部さんが武器を持てるのは妖装を着ている時のみです。
そして、討伐依頼の場合、県内では武器はいつでも使える状態で持っていて構いません。
刀剣類は鞘を衣装や鎧から見える様に取り付ける事。
斧や薙刀などは、討伐行動時以外はみだりに振り回さない事さえ守ればかまいません。
ところで、真部さんは何か得意な武器はありますか?」
そう聞かれて、武術の心得が無いと答えるしかない真部は、済まなそうに事実を伝えた。
だが、俵は笑うでも呆れるでもなく応対してくれる。
「ええ、大半の魔術師はそうです。
いきなり得意な魔術はと聞いて、はっきり答える場合は何らかの危険がある場合です。
アニメやゲームの魔法と違って、ハッキリ効果範囲や威力を自覚する事が出来ませんので、自分が思う以上に広範囲であったとか、実は思ったほどの威力が出ていなかったという事がほとんどで、身体強化系はより顕著です。
剣道や居合をやっていたという魔術師も居ますが、身体強化を行っての動きは平素の型とは大きく動きが異なってしまうので、武器の選定からやり直しになる場合があるんです。
西部の魔法師団体である『勇者の会』などは薙刀部の部員が魔法仕様の薙刀を扱った結果、家屋を破壊したそうです。
結局、斬撃を飛ばせることが分かって、薙刀から短剣へと武器を変えたそうですよ」
と教えてくれた。
実はその人の能力によっては斬撃のような特殊能力が発現するため、武器もしっかり見極めなければ、付随被害が出てしまうという事を、真部は初めて知った。
「それは、海外の大剣や戦斧を扱う場合でもですか?」
真部は興味を持ってそう聞いた。
「もちろん。
妖装に大剣や戦斧は似合いそうですが、斬撃の例がありますからね。一度試してから武器を決めた方が良いと思いますよ。
それをやらずに身体強化が可能だからと安易に大剣や戦斧を選択して被害を拡大している人達が全国にたくさんいます。
もちろん、警察の縄張り意識や縦割り行政の弊害もあるんですが、武器を没収されるのには、付随被害があまりにも大きすぎるという事例は多いと聞いてます。
俺たちはダンジョンや魔王城で戦ってるわけではないんですよ。とにかく威力さえあれば、大規模な魔法や大型の武器で周りをすべて破壊してかまわないという訳ではありません。
そこを理解しない団体や魔法師が居るのも事実なんです。
テレビや新聞でも脚色や誇張が酷くてあまり事実は伝えてくれないので、俺たち魔法師の中にすら勘違いしている連中は居るんです。
ここは地球であり、俺たちの仕事は人々をモンスターから守る事。決して、討伐報酬と討伐ポイントで世界一の魔法師を目指す競争や魔王討伐という冒険をやってるわけじゃないんです」
俵はそう熱く語った。
それを聞いた真部も自分の偏った情報の捉え方に恥じ入る部分があったのは確かだった。
報道が精確な事実を伝えている訳ではない。
そもそも、記者やキャスター、編集者は魔法師でも、魔法師団体の団員でもない。
その為、彼ら自身、魔法とは、魔法師とは、モンスターの討伐とは。
その様なモノを正確に理解し、現場における魔法の使い方、グループの戦い方を正しく判断するだけの知識も経験も持ち合わせてはいない。
魔法師の側だって、映画やアニメ、ゲームの感覚をそのまま現実に持ち込んで破壊の限りを尽くしていたりする。
実際、東京での討伐において、駅は半壊していたという。
「その点、軍や警察というもともと威力の高い武器を扱っていた組織が魔法師部隊を要する外国の場合、モンスター討伐の在り方や近隣破壊の保証はスマートでスムーズですね。
本当なら、日本も警察が魔法師部隊を持つべきなんでしょうけど、『討伐』をメインとして行う組織ではないから二の足を踏んでいるらしいですね。かと言って、自衛隊が魔法師部隊を擁して有事や騒乱でもないのに、街中を闊歩されるのは嫌だと言っているらしいです。警察に居る先輩に聞いたんですが」
と、俵は真部に教えた。
真部はそこである事を思いだす。
北海道では熊が街に現れることが日常茶飯事で、しょっちゅう猟友会が駆除に出動するらしいが、現場警官の指示と後の本部の判断が食い違ってハンターが逮捕されたり銃を没収される事例があるという。
ハンターに熊を撃たせたくないなら、警察自身が熊を捕獲や射殺する専門部隊を持てばよいものだが、それは人員も予算も足りないので、不信感を持たれながらも猟友会に依頼するしかないという話があった。
それと似たようなものではないのかと、ふとそんな事を考えてしまう。
そんな話をしながら、サン・メッセンジャーのベースへと向かうふたり。
「一応、この短剣で斬撃の有無を見てみましょう。工学部が黒曜石コートを行った短剣ですので、斬撃が使える場合、出るはずです」
俵はそう言って真部に短剣を渡す。
真部はマンガの剣士の様に斬撃をイメージして短剣を振ってみた。
しかし、何度振っても斬撃は出なかった。
「どうやら真部さんの魔法は身体強化と防御に大きく振れている様ですね。
もちろん悪い事ではありません。
そうであれば、タンク職のような役割やあの加速力を生かした戦士のような戦い方が出来るでしょう」
真部にはいささか慰めに聞こえたその言葉であったが、次の一言で一気に気分は高揚した。
「斬撃が出ないのであれば、安全面も考慮して長柄武器が良いでしょうね。ただ、大量発生の際には大盾を構えてもらうかもしれませんが」
長柄武器と言えば、大剣を超えるシロモノが想像できる。
ヨーロッパの武器で言えば、ハルバートとかバルディッシュあたりだろうか。
魔法物アニメにもそれらを持つキャラクターはよく登場している。
攻撃魔法がエフェクト絶無な事を思えば、長柄武器を持つ戦士系と云うのはカッコイイ存在に思えた真部。
「英米で大剣と戦斧が使われているのは、近接戦でモンスターから少しでも距離をとる安全策です。
もちろん、斬撃が使える場合はその限りではないでしょうけど。
そうですね。日本古来の武器に拘る工学部だと薙刀を作りそうなので、それを持ってはどうですか?鉄棒を軽々振り回していたそうなので、ベストな武器だと思いますよ」
そう言われてかなり乗り気になる真部。
実は、研究員たちは妖力艤装と武器を同時開発しており、武器としては斬撃が可能な場合は小太刀を、斬撃が不可能な場合には全長3mの静型薙刀とされた。
そう、すでに専用の大薙刀が用意されていた。
魔法師に興味のある者たちが集まった魔法技術研究所だけはある。
すでに身体強化系魔法師の武器がどうあるべきかを彼らは導き出していた。まさしく、俵の予想通りに。
「あ、俵さんもそう言いましたか。読まれてるなぁ~」
舞い戻った真部に対してそう言う研究員は、鉄棒と大差ない巨大な薙刀を真部に示した。
「サヌカイトコートの薙刀です。斬撃を飛ばせなくともかなりの威力を出せると思うので気を付けてください」
あまりの大きさに唖然とする真部は、まあ、こういうデカブツをパワードスーツと揃えるのは当然だよなと、強引に納得しようとしていた。
と、言う訳で、その後に諸々あって短編に至る。
西部地区の勇者の会はもちろんあの子たちなのかなぁ〜
わっしーの弓や銃は無い。
きっと破壊犯はにぼっしー。