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5・中年はとうとう魔法師団体に所属する

「これは?」


 真部は大きな鉄の棒を渡されて不意に問う。


「魔法は法解釈で合法になりましたが、魔法師が武器を扱う事についてはまだ十分なコンセンサスが取れていません。団体所属でない真部さんは武器所持が出来ませんので、今はコレしかないんです」


 そう聞いて、少しがっかりする。


 すでに法律上は身体強化系魔法師が大剣や戦斧を扱うことは銃刀法の例外であると決定はしているが、それは個別に警察の認可が必要なのか、それとも、魔法団体に所属しさえすれば所持が可能なのかで論争があった。


 その為、曖昧な状態で戦士系魔法師の活動が始まっているが、各都道府県で基準が曖昧で、ある地域では魔法師団体所属を証明さえすれば所持でき、モンスター討伐が可能。


 しかし、別の地域では警察の許可制であり、銃所持同様に個々に許可を取る必要があり、移動時にも覆いや鞘を必須としており、また別の地域では、モンスター討伐の現場において、その使用許可を一々警官が出すことが求められたりと、バラバラであった。


「先日、山形県の魔法師が新潟でのモンスター討伐後に逮捕されました。


 山形では魔法団体の証明さえあれば所持も使用も可能なんですが、新潟では臨場した警官の許可があるまで覆いを外すことも使用する事も出来なかったからです」

 


 そんな、あまりにもアホらしい事態が全国で起きている。


 特に魔法師団体の数が少ない地方に行けば県境を跨いだ広域活動も日常で、それでいて各警察の運用がバラバラなため、このようなトラブルが各所で頻発しているという。


 酷い場合はわざわざ高額の大剣や戦斧を個人輸入して使っていたのに、警察の規定に反したからと没収される事例まであるという。


 縦割り、縄張りがあまりに多すぎる上に警察の利権欲まで見え隠れしていると口さがない連中が騒ぐほどだった。



 そんな訳で、海外では普通の大剣や戦斧を担いだ戦士という姿を日本で見ることは少ない。


「わが県は副知事や市町の首長数人が魔法師を公表しているのは幸いですけどね」


 真部は隣県の居住なのでイマイチ実感がないが、この県では魔法師団体は非常に自由な裁量が認められるらしい。自身の居住地では未だに魔法師団体それ自体への認知が微妙なのとは大違いだと。


 唯一の救いは、魔法師団体への所属自体は居住自治体による制限がない事だろう。関東や関西ではすでにその様な事例が出ていると云うのだから。


 そんな鉄の棒を渡された真部はそれを振り回してみる。


 重さの感覚はボールペン程度でしかないが、やはり大きいのでバランスが難しい。


 何より、真部には武術の心得など無かったのだから尚更だ。


 その姿は外から見ても不格好だった。


 研究員たちも怪物がやはり人間なんだと安心する材料にはなったが、これではやはり新たにテスターが必要だなと再認識する事にもなった。


「僕は弓道ならやった事あるんだけど、飛び道具が使えないとまるで役に立たないね」


 どうやら自覚はあるらしい。


「そうですね。・・・弓は使えませんから。


 ただ、モンスターは一般に武術の心得がある訳ではないですから、斬る、叩く、薙ぐが出来れば対処は可能なはずです」


 研究員もそう返すしかない。


 いや、変に鉄棒を振り回すのを止めて欲しかった。すっぽ抜けたら笑いごとではない。あのスピードでは死人すら出かねない。


 身体強化系魔法師に鉄の棒は武器。


 研究員たちは改めて認識を改めることになった。


 結局、妖装の試験を優先し、ランニングとは言えない超高速ランニングや度を超えた高さがあるジャンプ。すでにドラッグレース並みの短距離走と言った試験を続けることになる。


 妖装の耐久試験でもあるが、その異常なまでの使い方に比してダメージを受けていない。


 彼の自転車自体、すでにフレームやチェーンが破損して良いほどの使われ方のはずだが壊れていないのだからさもありなん。


 彼による試験はあまりにも良すぎる結果を残して終了する事になった。


 これでは一般化のデータなんか取れやしない。


 そんな試験を続ける事ひと月、彼用の専用妖装がとうとう完成した。


 それは、アニメに出てくる戦士のソレである。


「戦隊ものみたいに顔を隠すんですね」


 そう言う真部であったが、別に残念そうではない。


「当然ですよ。アニメや映画で顔を露出しているのは演出です。


 キャラクターや役者さんの表情が見えることが大事ですからね。


 実際のフルプレートや戦闘機パイロットの様に全く表情が見えない映像がずっと続いては、いくら緊迫した場面でも白けるじゃないですか」


 真部もそれには納得である。


 矢が飛び交う戦場で兜すら付けない戦士やら戦闘中でもバイザーを上げ、マスクすらしないパイロット。


 そんなものが現実にはあり得ない事は知っている。しかし、演出とはそんなものだとも。


 その為、外装はアニメの戦士のソレなのに、頭部は戦隊ものの様に顔面を覆うような構造になっている。


 そして、このひと月の試験を県内魔法師団体に見せたところ、所属を求める団体が現れた。


 無職の39歳と云うのはかなりハードルが高かったが、それよりなにより身体強化能力だけでなく、防護能力も桁違いらしいとあっては、加入を望む団体もそりゃあ、ある。


 真部が所属する事になったのは大学生がリーダーの団体だった。


 ちょうど、魔法テスターとして杖や武器のテスターも行っている団体。


 しかし、ここには有力な身体強化能力を持つ者が居なかったので、真部がテスターとなったが、もっと一般的なテスターが必要な事は明白なので、今後どうするか。


 真部は魔法師団体に所属できることで喜んだ。


 これまで夢見て来た事なのだから当然だ。


 ただ、日本一面積の小さなこの県、魔法師団体は複数存在するが、モンスター出現数は少ない。


 どちらかと言えば、団体数が少ないにもかかわらず、真部の住む隣県山間部に出現する事があるのだから悩ましい。


「ようこそ」


 真部を迎えたのは俵という若者だった。


 彼がこの団体のリーダーらしい。


「真部さんはモンスターについての知識は?」


 そう聞かれた真部であったが、信用ならない既存メディアも、真偽不明のネットも最近は見ていないので実態については良く知らなかった。


 唯一、ここで知り得た情報くらいだろうか。


「魔法工学部で説明を受けたんですね。俺たちもその認識です。


 追加していうならば、モンスターの攻撃は魔法、物理ともにかなり強力です。特に、魔法は精神的なモノですので、受けてしまうと死ぬことになりかねません」


 この辺りは知っている範疇だった。


「といっても、それを防ぐのが工学部の研究している防具です。


 真部さんが装着しているモノにしても、強化外骨格を除けば俺たちも着るものですよ。


 ただ、予算の都合や防御魔法の強度が個々に違うので、いわゆる冒険者の様な胴を守る装備程度の人も居ますけど」


 なるほど、と真部は思った。


 ここまで凝った鎧を着こんだ魔法師と云うのは見た事が無かったからだ。


「ただ、近接戦闘を常とする身体強化系の魔法師には、その様な装備が一般化するでしょうね。現状はあまりにも死傷率が高すぎます。


 モンスターは存在自体が魔法なので、接触しただけでダメージを受けます。それが身体強化系の死傷率の高さに繋がっていますので、欧米の様にそうした重装備こそが必須だと俺は思います」


 意外な事だったが、モンスターは実体がない代わりに、触れる事でも人体に多大な影響を及ぼすという。

 確かに、これと言って殴られたりしたわけでもない軍人や避難民がただモンスターが通り過ぎただけで倒れる映像はあのエイプリルフール動画にもあった事を思い出す。 


 


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