3・中年はまるで味気ない現実を知る
翌日には書類を用意するため研究所へと再び向かい、そのまま晴れて正式にテスターとなる事が決まった。
テスターはいくつかの分野があったが、身体強化しかでいない真部に出来ることは限られている。
「真部さんはこちらのテスターになって貰います」
そう言って紹介されたそれは、既視感に溢れるものだった。それを見て、あまりに自由すぎやしないかと軽くめまいがするほどだった。
「そう言う反応になるのは分かります」
そういう研究員らしき若者。
何せそれは戦隊ものに出てくる正義の味方とアニメに出てくる変身ヒーロー、更にはパワードスーツの良いとこ取りをしたような鎧?アーマー?であったからだ。
「これは妖力艤装と呼んでいる物です。略して妖装です」
という説明を受ける。端的に言えば鎧であるらしい。
もちろん、これにはバッテリーなどは装備されておらず、体内魔力をエネルギーに動くという。
その分、パワードスーツの類よりも軽量化出来、自由度も高いとの事だったが、魔力は個々人で違うだろうし、誰もが同じものを使用できるとは限らない。
「正式には真部さんに合わせて製作させていただくことになるので、まずは、脚部、腕部の試作品による試験をお願いします」
そういって、時折テレビやネットで見かける外骨格型パワードスーツ的なソレが運ばれてきた。
眼前の鎧、妖装はモックアップ段階であるらしい。
「これは海外で実際に作られた補助骨格、マジック・アシストだとか、マジック・システム何て呼ばれている物を我々独自で製作したものです」
そう言って装着を促され、説明を受けた。
「魔法を使う場合、主に体内魔力をそのまま用いていますが、ファンタジーでは魔石を用いてコントロールや魔法を発現させたりしますね。
そこで、魔石のような物質が存在するのではないかと考えた欧米では、様々な宝石類を試して見たそうです。
結果は、すべてダメでした
ただ、原石や金属鉱石などと幅を広げて試した中で、増幅、発現能力を持つ石を見付けます」
そう言って差し出されたモノは黒い石だった。
試験と称して動かしたアレである。
それを見た真部は石炭かなと思った。
「これは驚くことに黒曜石です。
初めからそのような能力が備わっていたのか、あの事件以後にそうなったのかは分かっていませんし、なぜ黒曜石だけその様な能力があるのかも研究が始まったばかりです。
そして、更に効率が良い石も見つかりました」
それも同じような石だった。
同じという点で言えば、どちらも石器の材料である。その事は良く知っている。
「楽器にもなっているサヌカイトですね」
真部は相手より先にその石が何かを答えた。
「はい、そのとおりです。
このサヌカイトは黒曜石を大きく上回る効率を持っているのですが、どれほどであるかはよく分かりません。
なにせ、魔法研究自体が始まったばかりですから」
真部はようやく、自分が何をやろうとしているか知る事が出来た。
非常に危険で未知数な物体を使った人体実験である。
しかし、だからこそ喜んだ。
魔法が使える上に、魔法世界のロボットを操るなんて、どれほどの希少性がある事か!と歓喜すらした。
「黒曜石によるパワードスーツは身体強化魔法を使えるというだけでは動かせません。エネルギー源は人体ですから、動かすにはその人の魔法能力により大きな差が生まれます。
英国や米国ではそれを踏まえて、屈強な軍人や警官の中から魔法能力が高い者を選抜して着用させているほどです」
その事実には驚いたが、納得でもあった。
なにせ、英軍や米警察の魔法師部隊には、アニメやゲームそのままに大剣や戦斧を抱えたアーマー姿の隊員たちが居たからだ。
「残念ながら、魔力を数値化出来る技術は無いので、攻撃魔法であれ身体強化であれ、どれほど持続できるかはその本人にしかわかりません。
その致命的な問題を大幅に改善するのがサヌカイトなんです」
そう言ってその能力を説明する研究員。
黒曜石であれば関節部に拳大の石を使い、魔法力に拠る間接駆動を発現させている。バッテリーパックやモーターに比べればはるかに軽量化を果たしてはいても、かなりの重量がある事に変わりはない。
対してサヌカイトであれば、小指の先ほど。
実際には粉体成形を行っているので形は自由度を持つが体積自体は変えられないため、その重量差はかなり大きい。
「黒曜石を用いた英米のMAやMSの場合、骨格全体に粉体コートまで行って強度を出しています。
ただ、そこまで行うと魔力消費も大きくなるので持続時間はおおむね1時間以内だそうです」
案外使えない事にビックリである。
「この妖装であれば、より少量で同じ出力が可能なので、10時間ほど活動可能になる事は間違いありません」
なぜ妖力艤装と呼ばれるのか、真部は疑問であった。
「妖力艤装ですか?
魔力では何だかイメージが違うからと云うのが正直なところですね。
もちろん、もっと踏み込んでいえば、魔力とは、自然界にある力を指すとファンタジー用語では説明されます。
しかし、本来の自然界にその様な力はありませんでした。
しかし、4月にいきなり現れたんです。
そのような力を自然発生的な魔力と呼ぶのはおかしい。そう、私達は考えました。
自然な魔力ではなく、何らかのきっかけで人が得た力ではないかと。
なので、言い方はおかしいですが、妖の力という意味で妖力と呼ぶことにしました。
もちろん、対外的には魔力と言う方が混乱がありませんが、魔力艤装では、マジック・ギアとか何だか、MGだとか、なんだか普通過ぎて面白くないやないですか」
という、どこか強引な話であったが、その考え方には賛同する真部であった。
「僕もその意見に賛成です!アニメに出て来そうな魔装だとかMGなんて呼ぶより、妖力艤装、妖装って言った方が唯一感があってイイですね!!」
まあ、所詮は似た者同士だったのだろう。
そして、真部の大きな疑問である、モンスター自体の存在にも話が及ぶ。
「一般にモンスターとか妖怪と言ってますが、私達は少し違うと見ています。
自然に発生したモノではなく、我々が作り出した物という考えです。
米国では物理攻撃が効かないことから、ゴーストと呼んでもいますしね」
一般的な報道ではお目にかからない話だったので、真部は興味深く聞き入った。
「物理攻撃が効かない理由は、実体が曖昧で、確定していないからではないかと。私達があると認識したから出現している存在。そう考えています。
では、なぜ、物理攻撃なのに、大剣や斧が有効かと言うと、魔力を帯びているからだと考えられます。
魔力を銃弾や矢に乗せることが可能であれば、飛び道具も使えるんでしょうけど、今のところその様な方法は見つかっていません。
黒曜石が魔石の役割をすると言っても、魔力を貯蔵できない訳ですから。もし、コード等を使って魔力供給が可能になれば、弓も武器として使えるかもしれませんが、それでも攻撃魔法と攻撃距離が変わりません」
英軍や米警察にアーチャーが居ない理由もこれで理解できたなと、真部は思った。




