表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第七章 闇の皇帝と絶望の塔
99/198

異能記『世界』

 エルナ・コイルド・エスパーダ、それは世界中で知られる剣聖の名だ。


 その強さは歴代最強で、全属性を宿した剣型『覇気』と、100%の戦意解放力、そして類稀なる剣の才能を持って生まれた。


 だが今伝説として知られるエルナの正体は、また別のものだ。


「君たちは真実を知る必要がある」


 ジュリアが仲間になった直後、形の歪んだ巨大な建物の中の大広間に置かれたテーブルで、ヴァルタイユは幹部に向かって話していた。


「僕の目的は『世界の欠片』を集め、それを使ってタイムマシンを作ることだ」


「タイムマシン、それはまた面倒な手段だな。普通に魔法を使うんじゃダメなのか?」


 銀髪の少年、ディオンは頬杖をつきながら言った。


「ダメだよ、千年も時間を巻き戻すには世界の欠片でも足りない魔力量と、機械のように完璧な魔力運搬が必要だ。本来『女教皇』の異能が必要なんだが、僕にそれが必要ないのは分かるね?」


「なるほど」


「では本題に戻ろう、エルナ様の本性についてだ。君たちに全てを伝える」


 そう言って、ヴァルタイユは話し始めた。



 ※



 エルナ・コイルド・エスパーダは、双子の弟のデリア・コイルド・エスパーダと共に生まれた少女だ。

 黒髪でところどころに赤い髪が混じった、エスパーダ家伝統の髪色である。

 生まれつき弟に比べて剣の才能に恵まれていて、10歳を超えた時点ですでに彼女に勝てる剣士はいなくなった。


 だが反対にデリアは、16歳で訓練所に入った時も最底辺だった。

 魔法の才能があったため、剣の才能にはとことん恵まれなかったのだ。


「諦めろ」


 周囲の大人たちは言った。

 魔法を目指せば、デリアに居場所は十分にあった。むしろ魔法を勉強しようとさえすれば、クアランドの王のアラスタ王でさえ叶わぬほどの才能を持っていた。


 だがデリアは諦めなかった。

 剣を振るのが大好きだったからだろうか。


 否、デリアは単純に姉の立場が羨ましかったのだ。


 すでに歴戦の剣士の腕をとうに超えていたエルナは、王国で一番と言ってもいいほど持てはやされていた。

 それを一番近くで見てきたデリアは、劣等感に苛まれていた。


 何より彼を苦しめたのは…


「大丈夫?元気なさそうだよ?」


 心配そうな表情をした、姉だった。


「なんでもねえよ」


「なんでもないわけないでしょ。今にも泣き出しそうな顔してたの、ボク見ちゃったよ」


「ちっ」


 全てこの女が悪いのだ。


 この女が特別な才能を持っていなければ、デリアはまだ大丈夫だったのかもしれない。

 努力すれば届く壁だったのなら、割り切れていたのかもしれない。


 だが、双子の才能が自分の方に来ていたのなら。

 一歩違えば、デリアは姉の立場に立てたのかもしれない。

 そう思ってしまうのだ。


「でも、ボクもう()()()()()()よ」


「あ?」


「デリアが悲しそうなとこ、ボクはもう見たくない」


 ある日突然吐かれたその一言に、デリアは何かが切れた気がした。


 そうだ、自分には魔法の才能がある。

 持っている魔力量だって、前代未聞の量だ。


 その気になれば自分が姉の立場になることなど、簡単にできる。


 見ていられないなんて、そんなことが言えない立場にしてやる。

 一歩間違えば自分がゴミみたいな立場になっていたかもしれないと、そう思わせてやる。


 いっそのこと、ゴミみたいな立場にさせてやれ。



 ※



「覇王イグリダに決闘を申し込んでみたらどうだ」


 20歳になった頃に、デリアがそう言ってきた。


 もちろんエルナは権力などどうでもよく思っていた。

 しかし同時に、覇王イグリダに勝てると思い上がってもいなかった。


 いくらエルナが剣士最強だとしても、イグリダは全異能を駆使して戦う。

 世界最強を相手にすれば、エルナでも勝てまい。


 だからエルナは修行感覚で行くことにした。


「話はすでにつけてあるらしいぜ。エスパーダ家には多くの貴族がついてるからな。俺のいうことでも聞いてくれる」


「人使いが荒いと、いい主人になれないよ」


 そう言いつつも、エルナは口元を緩めた。


 エスパーダ家には九つの貴族の家系が従っていて、エスパーダ家の家系の者であればなんでもいうことを聞いてくれる。


 それどころか、向こう側からエルナに仕事をもらおうとしてくる者もいる。


 その中でも特に情熱的なのが、オーダ家、クライス家、そしてバルザイド家の子供たちだ。

 彼らは強引にでもエルナの役に立とうとするので、エルナは弟や妹のように思っている。


 やがてエルナとデリアは北の海を渡り、神陸イグリダにある宮殿にたどり着いた。

 そして謁見室には、覇王が玉座で待っていた。


「神童のエルナよ。ようこそ私の宮殿へ」


 豪奢な装飾が施された衣服を着て、イグリダは爽やかな笑みを浮かべた。


「更なる高みを目指すために、私に会いにきたのだね」


「はい、決闘を通して学べるものがあるはずだと思いまして」


「よろしい」


 頷くと、イグリダは玉座の傍に立てかけてあった巨大な大剣を手に握り、ゆっくりと立ち上がった。


「それじゃあデリア君、立会人を……」


 そこまで言って、イグリダは目を見開いた。


 デリアはいなかった。



「『禁忌の魔法(タブー)』」



 直後、イグリダが体に纏っていた異能の力が全てデリアに移動した。


「まさか君…!」


「『禁忌の魔法(タブー)』」


 途中まで言いかけたところで、イグリダは糸が切れたように倒れた。

 絶命だ。


「で、デリア…?何を…」


「これ使えば、意識と魂の入れ替えくらい出来んだろ」


 そう言って、デリアはエルナに手のひらを向けた。


「デリアは禁忌の魔法を使って覇王を殺した。そのデリアをエルナは泣く泣く殺してヒーローになる」


「そんな…待っ——」


「『禁忌の魔法(タブー)』」



 ※



「『運命』の異能はね、下手をすれば脳が焼き切れる恐れがあったのさ。だから覇王はアラスタに頼んで、『運命』の異能を無効化する加護を自分にかけた。しかし魔王にその加護はなかった。だから異能が目覚める前に、僕に異能を移させたんだ。魔王は拒んだが、仕方なかったというやつさ」


「お前のことは気になるけど、私は魔王様がどうやって生き延びたのか知りたいね。確か伝説では魔王デリアは魔王城で殺されたんだろ?」


「簡単な話、僕と他の二人の部下が助けに行った。カリア・ウル・オーダとエドワード・アハラル・クライスだ」


 エスパーダ家のエルナに懐いていた三つの家系の子供たち、その3人が魔王の配下となったのだ。


「だがあの方は全てに絶望し、無気力な状態で勇者に襲われ死んだ。だから過去に戻ってデリアを殺し、あの方にちゃんと生きて欲しいんだ」


「でもいいのかよ」


 頭をかきながらリオは言った。


「感情がねえと幸せには暮らせねえだろ。実際フォーネが幸せそうにしてるとこ見たことあんのかよ」


 リオが指を指しているのは、かつてウエラルド王国訓練所を襲った白い髪の少女だ。

 フォーネを一瞥し、ヴァルタイユは幹部全員を見た。


「感情があれば幸せに暮らせるのかい?僕はデリアの『嫉妬』やエルドの『憎悪』と言った感情の方がよほど危険だと思うがね」

第七章終了しました。

第八章も引き続き見ていただけると幸いです。



《キャラクター紹介》


○ヴァルタイユ・ミラ・バルザイド

異能士団が敵対する組織のリーダー。

過去に戻ってデリアを殺すことを目的としている。


○リオ

組織の幹部で、幹部の中では最強の戦闘力を持つ。

血がこびりついた鈍の両刃剣で強引に戦う。


○ジュリア・ウィアン・マンセル

組織の幹部で、マンセル家の長女。

操る炎の特徴も、組織に入った理由も不明。


○フォーネ

組織の幹部で、氷の魔法を得意とする。


○エルナ・コイルド・エスパーダ

過去に魔王を倒し、現在では勇者と称えられる最強の剣聖。

その正体は、魂を入れ替えたデリア。

剣型は『覇気』(主属性:炎氷雷風土水光闇)。


○デリア・コイルド・エスパーダ

エルナの双子の弟だが、剣の才能は皆無。

それと引き換えに、生身で禁忌の魔法を使えるほどの魔力を得た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ