異能記『教皇』
神を信じるものは、現代にそう多くはない。
すでに覇王イグリダが天下統一をした時点で、神への信仰は薄れていた。
それがオーラスは気に食わなかった。
神がいるからこそ人類は存在できる、とオーラスは考えている。
動物を殺めても、自然の恵みを貪っても、神が許してくれるから人類は生きられる。
だからオーラスは、神に祈りを捧げ続けた。
いつか自分が死にかけても、神が助けてくれることを願って。
「父さん、母さん、僕は二人のようにはならないよ」
神を最後まで恨み続けた両親の遺影を軽蔑するように見て、オーラスは言った。
※
「神は存在しません」
魔法学校で、エマは何食わぬ顔でそう言った。
「…その根拠を聞いてもいいかな?」
「神は人間が作り出した抽象的な概念です。そのため神を構成している物質も、魔力もわかっていません。であれば、そもそも存在しないと考えるのが妥当です」
やはりだ、両親も同じことを言っていた。
「じゃあ君は、肉や魚を食べるときに誰に許しを乞うんだい?」
「許しは乞いません。ただ自然の恵みに感謝をすればいいだけです」
「自然の恵みは神が作ったものだ」
「だからその考え方は人間が作ったと言っているでしょう。全く…」
話にならんと言わんばかりに、エマはリビングを去っていった。
エマの言うことは確かに一理ある。
むしろ根拠を説明するべきは信徒の方なのだ。
「でも私はいいと思いますけどねー」
チョコレートをバクバク口の中に放り込みながら、マレンは言った。
「ほら、言うじゃないですか。女の子好きになるのに理由なんていらねえ!って」
「はは、それは少し違うような気がするね…」
呑気な声でそういうマレンに、オーラスは苦笑した。
エマの理屈で行けば、神を信じると言うのは妄想の類だ。
恋愛とは訳が違う。
エイルスは先ほどから難しい顔をしていたが、やがて口を開いた。
「オーラス、確かに神を信仰するのは良いことだ。そのおかげで多くの人が救われている。ただ『闇属性差別主義』を続けるのならば、神は君に残酷な運命を見せることになる」
「…神の愛は闇の者に向けられないはずでは?」
「ああ、だから残酷なのだ」
エイルスの言葉に、オーラスは首を傾げるしかなかった。
※
「神の祝福に!」
魔導兵遊撃兵団の面々3人は、そう言って酒を掲げた。
外道魔法使いの研究所を潰したパーティーだ。
毎度任務を遂行した時、必ず酒を掲げるのがオーラスの部隊のルールである。
戦いに勝てたのは神のおかげ。
そして神に祈れば、また次の戦いでも助けてもらえる。そんな考えだ。
しかしその場の誰もが、オーラスのことを夢中で話している。
それもそのはず、任務の主力となったのはオーラスなのだ。
誰も、神に感謝していない。
酒を掲げるのは、単にルールだからだ。
(僕の信仰心は間違っているのか…?)
たびたびオーラスはそんなことを考える。
しかしその度に、オーラスは自分に言い聞かせた。
神を疑ってはならないと。
自分の信仰心は正しい。
神に祈れば、全てが救われると。




