幕間 接触
「『魔力解放』だと…」
顔を強張らせてアクトは呟いた。
かつて脅威としてアクトの前に立ちはだかったエイルス・ネオプトル、彼女の力をアレクも有していたのだ。
「『死灰儀ゲヘナ』」
『魔力解放』の能力は二つある。
まずは、空気中の魔力を使うため、魔法を無制限に使うことができるというもの。
そしてもう一つは、上級魔法の準備段階を飛ばせるというものだ。
つまりアレクは、『死灰儀ゲヘナ』を連発できるということになる。
「くっ」
流石にまずい。
エイルスほど脅威ではないが、そもそもこの技自体が脅威なのだ。
だからエイルス相手にアクトは撤退を選んだ。
「…いや、まだ間に合う。今のうちにこいつを殺しておけばこれ以上成長することはねえ…!」
そう言って、アクトは剣を抜いた。
アクトの剣型は『混沌』、光と闇が主属性の剣型だ。
超スピードで様々な形に姿を変える『混沌』の剣技は、今までほとんど全ての敵を翻弄してきた。
今回もそうすればいいだけのこと。
「『シャドウライト』———ッッッ!!!」
出来るだけ一撃でアレクに重傷を与えたい。
だからアクトは、最大出力で剣技を放った。
いや、放とうとした。
「…あ?」
アクトの剣先から放出されたのは、ただの小さな光の魔力。
闇の魔力と混ぜることで作られた剣技は、光だけになれば大した殺傷能力はない。
「…お前」
「『皇帝』だよ。闇属性は俺に効かない」
アレクはすでに、『皇帝』の操作範囲を絞れるほどにまで成長していた。
それもそのはず、異能を学ぶにあたって、エマという教師と2週間という時間は十分すぎた。
「ふ、『フライ』ッ!」
勝ち目はない、アクトはそう判断した。
アレクはアクトの想像を遥かに上回る成長を遂げていた。
ここは撤退を選択するべきだろう。
だがアクトは勘違いしていた。
そもそも撤退などできるはずがない。
勝てないと判断した相手に背を向けることなど、なんとも愚かな行為ではないか。
「『死灰儀ゲヘナ』—ッ!」
漆黒の闇に飲まれ、アクトはそこで消滅した。
※
「それでその後エルドさんが来て…俺たちは『闇の根源』の手がかりを探すためにここへきた」
異能士団本部の談話室にて、ようやくアレクの話が終わった。
「待ってください、なんで『闇の根源』を探すのにここに来る必要があったんですか」
クロス以外のメンバーも不思議そうな顔をしている。
またアレクの時と同じように、魔窟を探すついでとでも言うのだろうか。
「団長自ら『闇の根源』を探してくれるらしくてね。だから代わりに僕らはここで己を磨き、魔窟の攻略に力を貸すことになったのさ」
オーラスの答えに、全員納得したように頷いた。
一見3人で旅をした方が効率が良さそうに思えるが、その分食料の補充などに無駄な時間をかける。
エルドの馬がウエラルドで一番早いと言うこともあって、エルドに捜索を頼むのが最良の選択肢だ。
「ま、こんなところだ。みんな仲良くなー」
「はーい」
一部の男団員が元気よく手をあげ、その場は解散となった。
※
「はっ…、はっ…、くそ…」
完全に罠にはまった。
騎士団員を置いてキャンプ地を離れ、紳士服の女を追ったのが間違いだったのだ。
ルシファーが戻った時にはすでにキャンプ地は破壊されていた。
だがまだ仲間の死体は見つかっていない。おそらくどこかに連れて行かれたのだろう。
「やはり俺を誘い出すのが目的か…?」
ルシファーの前から姿を消す直前、金髪の紳士服の女は言った。
「お前に合わせたい男がいる」と。
しばらく走ると、道端に血痕がついていた。
おそらく抵抗した団員を無力化した痕だろう。
すぐに向かわなければ、ルシファーがついた時にはすでに全滅なんてこともあるかもしれない。
それに紳士服の女が来ていると言うことは、最悪のケースもありうる。
そうなれば、こちら側に勝ち目はない。
「お前達、無事————」
そこで最悪の光景を目にし、ルシファーは絶句した。
ルシファーが率いていた騎士団員がもれなく全員、原型をとどめぬ肉片と化していた。
そして肉片を踏むようにして、5人の人影があった。
間違いない、報告にあった死体通りだ。
この惨劇を生み出した男は一人しかいない。
「ルシファー・メルティア、話がしたい」
爽やかな笑みを浮かべて、ヴァルタイユが歩み寄った。
「僕の仲間にならないかい?」
《キャラクター紹介》
○ルシファー・メルティア
ウエラルド王国騎士団副団長。
フィクスを弟のように思っている。
剣型は『薄灯』(主属性:闇、副属性:炎)




