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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第七章 闇の皇帝と絶望の塔
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第三話 純闇

 珍しいものを見るような目で、アレクは二人に近づいていった。

 しかしその二人もまた、アレクを珍しいものを見るような目で見つめている。


「彼は変質者か何かでしょうか」


「いや、上裸の旅人なんて何人も見てきた。筋肉も随分あるようだし、旅人と考えてもいいんじゃないかな」


 そんなやりとりをしていると、アレクは不機嫌そうに腰に手を当てた。


「…お前達が外の人間か」


「僕は外だね、でもこちらのお嬢さんはインドア派かな」


「インドアって…、いえ、まあ否定はしません」


「いや…待て、違う、俺はそういう意味で言ったわけじゃない」


 思っていたのと違う反応に、アレクは慌てて手を振った。


「…実は幼少期以降、俺は森から出たことがないんだ」


「「…え?」」


 二人が驚くのは当たり前だ。


 森は人間が住む場所ではない、それはこの世のほぼ全ての人間共通の認識だ。

 森の中で何日も生き延びるチャレンジをする者は何人かいるが、幼少期から森で過ごす人間などいない。


「何か事情がありそうだね」


 まずはアレクの状況を聞く必要がある。

 オーラスとエマは、アレクを近くの小屋に案内した。



 ※



 アレク・ネオプトル、21歳。剣型は『純闇』、戦意解放力は45%。

 7歳までは母とともに、クアランド王都にある家で二人で暮らしていた。


 しかしアレクの剣型が判明した途端、母はアレクを捨てた。

 突然怯えたようにアレクを家から追い出し、アレクと家を強制的に離す結界を張ったのだ。


 母の名はエイルス・ネオプトル、つい先日まで魔法学校の教師を務め、現在行方不明となっている人物だ。


 そして家から追い出されたアレクは、アクトと出会う。


 アクトはアレクを育ててくれ、ともに成長してきた。

 かなりの頻度でどこかに出かけていたが、彼に生活を助けられていた。

 ただ一つ、森の外には出ないという約束をして。


 そして今「塔を探せ」という一言を残して、アクトは姿を消した。

 アレクはそれを探している最中なのだ。


「しかし妙だね…塔をわざわざ探させる必要があるのかな。一緒に行けばいいのに」


「アレクが自分の元を旅立ちたいと言っているのならば、外の世界に出てもいいように試練を与えているのではないでしょうか?」


「なるほど、確かに最初に外の世界に慣れさせておきたかったのかもしれないね」


 だがまだ疑問が残っている。

 まずは、なぜアクトはアレクを育てたのかだ。


 アレクの事情は判明した。

 母によって家を追い出されたからだ。


 しかしアクトは、何故あえて森で生活したのか。

 何故アクトにも親がいないのか。


「アクトの言う『真実』ってやつと何か関係がありそうだな…」


「それに関しては、やはり塔を探すしかないようですね」


 問題は二つ目だ。

 エイルスは何故、アレクを追い出したのか。


 しかしオーラスはそんなこと、疑問に思っていないようだった。


「答えは簡単、君が闇属性だからだよ」


 その言葉に、二人は唖然とした。


 つまりオーラスはこう言いたいのだ。

 エイルスは闇属性差別主義者であると。


「あり得ません。学校生活の時、マレンを嫌う様子を見たことは一度もありませんから」


「中には純粋な闇を嫌悪する人もいるんだよ。僕もそうさ」


 硬直する二人の前で、オーラスは両手を広げて言った。


「闇は、神の愛を受け取ることができない。マレンの場合は、副属性の風が神の寵愛を受けているんだ。だが君は『純闇』…嫌悪されて当然だとは思うよ」


 オーラスも差別主義者だった、その事実に驚きを隠せないが、アレクは首を振った。


「母さんは神を信じなかった。あんたとは違うと思うよ」


「確かに微妙な差異はあるかもね。それで君は、母親のことをどう思っているのかな」


「何か事情があったんだ。闇属性に対してトラウマがあるとか…分からないけど、調べていけば分かるはずだ」


 まだこの少ない情報で、謎を解くのは賢明ではない。

 まずは旅をして、塔を探し、その道のりでエイルスの情報を集めるのだ。


「私はアレクを手伝います」


「…いいのか?」


「ええ、今はまだ『闇の根源』の手がかりも掴めていませんし、アクトが何か知っている可能性がありますから」


 あらかじめ自己紹介は済ませているため、エマが最強クラスの魔法使いであることはアレクも知っている。

 これほど頼もしい助っ人はいないだろう。


「僕も同行しよう」


「俺が嫌いなんだろ、大丈夫なのか?」


「君が嫌いなんじゃないよ。闇が嫌いなだけ」


 奇妙な発言をして、オーラスは小屋の扉を開けた。


「ただし、『闇の根源』の調査を優先させてもらうからね」



 ※



 効率的な旅をするために、オーラスとエマは馬車を持ってきていた。

 3人で旅をするには十分な移動手段だ。


 オーラスが御者となり、アレクとエマは馬車の中で座っていた。


「それじゃあ、結構魔法と機械の合体は進んでいるんだ」


「ええ、この二つが合わさることで最強クラスの魔法が放てるんです。アレクは魔法が使えますか?」


「いや…一応俺が魔法使いだってことはアクトから聞いてるけど」


「魔法は撃てないと」


「……」


 何度か練習してみたことはあった。

 しかしアクトは世界を飛び回っていたし、独学で魔法を習得するには無理があったのだ。


「時間があれば、私が教えてみましょう」


「…いいのか?」


「ええ、魔法学校に通っていた時も、後輩に教えてあげたことは何度かありますから」


 まずは『トーチ』の魔法。これは基本だ。


 魔法を放つ際は、剣技を使う時と同じように魔力運搬を行う。

 そして放出する魔法の軌道を決める。例えば『トーチ』なら、蝋燭に炎の魔力を凝固させる軌道を描く。


 魔法はイメージではなく、理屈からなるものである。

 そのため魔法陣を見ながら丁寧に練習すれば、魔法使いなら誰でも簡単に魔法が使えるようになる。


 それにしても、エマの教え方は上手だった。

 行うべき行程が完璧で、アレクも十分ほどで『トーチ』が使えるようになってしまった。


「過去に先生から、「私の立場というものがだな…」と褒められたことがあります」


「それは褒められ…たのかなぁ…」


 魔法学校の教師を唸らせるほど、エマの教え方は上手だった。

 それも奇妙なほどに。


 手順が完璧すぎるのだ。

 まるで、『考える』という動作がエマには必要ないかのように。


「エマ、さっきからお前…」


「ねえねえ、僕思いついちゃったんだけどさ」


 不意にオーラスが馬車をとめ、二人の方に振り向いた。


「王様に展望台貸してもらえないかな。あそこって確か世界のほとんどが見渡せるんだよね」

《キャラクター紹介》


○エルク・ネオプトル

森で育った黒髪の青年。エイルスの息子。

目は母親譲りの海色。

剣型は『純闇』(主属性:闇、副属性:闇)、戦意解放力は45%。

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