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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第一章 黒炎の剣技
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第九話 『旅』

 早朝6時半、ジン達訓練生一年生は緊急で講義室に招集された。

 黒板の前には、いつもに増して険しい表情をしたザパースが腕組みをしている。


 状況が分からないジン達は、生徒が集まるまでの沈黙にずっと耐えていた。

 やがて、


「今日お前達に集まってもらったのは、騎士団長と剣交祭の件だ」


 ザパースが唐突に、ゆっくりと話し始めた。


「数日前、騎士団長がとある村で行方不明となり、騎士団は今余裕がない状態だ。その影響で、剣交祭当日に使うはずだった闘技場が使えなくなっちまった」


 途端、生徒達があちらこちらでざわつき始めた。

 ジンも驚いていた。

 剣交祭を行うためには、闘技場が必要だ。王都に一つしかない闘技場が使えないのだとすれば、延期か、中断しかない。

 しかしそのざわつきも、ザパースが挙げた静止を示す手によって中断された。


「お前らが騒ぐのも分かるがまずは聞け。騎士団長失踪の報告と同時に、なかなかいい情報が入ってきた。なんでも『西の洞窟』に、竜国ドラグニカから来たドラゴンが住み着いちまったらしい。俺は剣交祭の代わりに、このドラゴン討伐で成績を決めることにした」


 竜国ドラグニカとは、簡単に言えばドラゴンが住み着く危険な国で、四大国の一つだ。

 剣技発祥の地とも言われていて、国内の一般兵士の強さは一番高いらしい。


 なるほど、剣交祭が行えないのなら、代わりのイベントを用意すればいいわけだ。


 しかし問題点がある。

 まず、ウエラルド王国の『西の洞窟』、この洞窟にたどり着くまでに約三日かかること。

 そしてもう一つは、ドラゴンが一匹しかいないこと。これでは正確な成績がつけられない。


「まあお前らは今さまざまなことを考えていると思うが、質問はあとに受け付けるからな。まずは説明だ」


 そういうと、ザパースはようやくチョークを手に取った。


「ドラゴン退治は、『旅』によって成績をつけさせてもらう」


『旅』とは、ギルドによる援助によって安全に冒険するシステムのことだ。

 初めにギルドへ通貨を渡し、武器や防具、テントなどをレンタルする場合にはさらに通貨を払う。そしてところどころに存在するチェックポイントで兵士による安全確認を行い、目的地まで到達するという流れになる。


「『旅』で通ったチェックポイントの数に応じて点数が加算され、ドラゴンを誰か一人が倒したなら全員帰還という形にする。ドラゴンを倒した者が優勝ということになるだろう。そして、ドラゴン退治までの途中経過であれば、誰と手を組もうが構わないことにする」


 他の訓練生と手を組める、この仕組みはなかなか勝敗に影響が出そうだ。

 強者と組むとすれば洞窟まではスムーズに行けそうだが、ドラゴンの討伐を奪われる可能性が高くなる。

 逆に手を組まない場合は、道中が危険になる代わりに、一番早く洞窟に着いた場合はドラゴン討伐の功績が手に入る確率が高くなる。


「『旅』の出発は今日の正午にする。11時半までに各々が準備をし、ギルドに集合しろ。以上だ」


 ザパースの合図とともに、集会は終了した。



 ※



 時間は11時半より少し前、ジンはギルドの広場で腰掛けていた。

 ギルドの中は雰囲気のある木造で、常に旅人が酒を飲んでいるような状態である。

 周囲の訓練生から「旅の話が急すぎる」なんて文句が垂れている中、受付の方からザパースが歩いてきた。


「おっほほっ、何だジン、お前一人だけか。女に振られたのか?」


「何か文句でもあんのか、ちくしょう」


 ザパースにからかわれた通り、ジンは今ともに行動する仲間がいない。


 イリアを誘おうとするとアゼルスが、「女と男が一緒に旅なんてするもんじゃない」と断られ、エリックとマルクは自分の力を試したいという理由で断られてしまった。

 それに、あまり知らない生徒と組んでもチームワークが怪しいので、ジンは一人で行動することにしたのだ。


「このイベントはお前たち訓練生にとって、かなり重要になってくるからな。本気で勝ちにいくんだぞ」


「んなの当たり前だよ、剣技の練習も兼ねてな」


 そんなやりとりをした後、ザパースは広間の中央へと行って声を張り上げた。


「それでは、お前らで組んだグループごとに列で並んでくれ。あそこの受付で武器とテント、それと非常食が支給されるからな。非常食が足りなくなったら、外にいる獣でも狩ってクソ不味い獣肉を食うか、木の実でも食って腹を満たすんだ。どうしても限界だったら、近くのチェックポイントにいる兵士にリタイアさせてもらえ」



 話が終わった後、訓練生たちは我先にと互いを押し合い、受付へ向かった。

 この戦いではジンは勝てなかったが、前から六番目に並ぶことができた。


「こちらが『鋼の剣』、テント、干し肉とドライフルーツ、パン、飲水入りの水筒が入ったバックパックになります」


 受付にいた女性はそういって、ジンに旅人一式を支給してくれた。

 ジンは礼を言い、外に出てすぐに走り始めた。

 最初のうちに他の訓練生と差をつけるためだ。


 王都の外は高さの低い丘が数多く形成されていて、川が流れていたり、木がところどころに立っていたりする。

 そして南の方には森があり、あそこで木の実や獣肉が取れる。


 そんな景色が流れていく中、ジンは猛ダッシュで進んだ。

 身体能力と体力を高めていたジンは、早くも他の生徒と距離を取ることに成功、彼らはしばらく追いついてこないだろう。


「はあ…はあ…もっと効率よく移動できればいいんだが…」


 息を切らしながら、ジンは呟いた。

 今のままでは、後方の訓練生のやる気次第で簡単に抜かされてしまう。


 もっと確実な方法を、そう思っていると。



 ガララララララララ



 ジンの真横を、一つの馬車が通り過ぎた。



 ※



「はあ?乗せてけだとぉ?」


 馬車から降りてきた青年は、眉を顰めて言った。

 年齢は20歳ほどだろうか、黒髪はボサボサで、黒い目はめんどくさそうにひん曲がっている。ウエラルドでは見ないような珍しい服を着ていた。


「あのなあ、俺も色々とやる事があんだよ。お前さんみたいなガキ乗せてる暇なんて無いの、分かるかあ?」


「うぐっ、断られるかもしれないとは思っていたが、こうまで嫌そうにされるとは思わなかったぞ」


 ジンはため息をつくと、バックパックから金貨の入った袋を取り出して言った。


「金は?」


「いらねえよ、間に合ってっから」


 金もいらないと来たものだ。

 どうする、この馬車は旅を行う際の重要な足となる。入手は必須と言ってもいいだろう。

 ジンが頭を抱えて考え込んでいると、


「あ?お前さんもしや訓練生か?その服」


「ああ、今テストみたいな事してんだ」


「ほお…へえ…」


 男は口を歪めてにんまり笑うと、ジンに向けて人差し指を突き出した。


「おもしれえ!お前さんが決闘で俺に勝ったら、タダで乗せてってやるよ!」


 世界の危険に立ち向かう、大人の旅人。

 そんな彼から、決闘を申し込まれてしまった。

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